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Continue 【6】ーsecond partー

「おい、いつまで泣いているつもりだ? そうも泣いていると心まで枯れるぞ」


 その声は少し呆れたような感じがして決して柔らかくは無かった。けれど、そこには不器用な優しさがあった。

 腫れぼったい目元をを袖で拭いながら面を上げると、そこには一人の少年が立っていた。

 くすんだ、しかしサラサラと流れる白い髪。低い背丈ながら見る物全てに畏怖を感じさせるような存在感。そして何よりも目立つのは髪と同じ色合いの天使の羽根。


「オルク、ィンジェ」


「数日ぶりだな、叶人」


 ――『天使セラフィム』オルクィンジェが、そこには居た。

 数日ぶりの再開。しかし俺の心に掛かったモヤは晴れなかった。何故ならオルクィンジェは清人が死んだ場合のみ解放されるようになっている。それはつまり、清人が他の解釈の余地が無いほど……死んでしまった事の証左になる。

 俺は誰も犠牲にならないと誓った。だが、その実最初の一歩目で、犠牲を許容した。何も残らないよりかは何倍もマシ。いっそのことそう思えればどれだけ良いだろう。

 けれども――。


「へぶっ!」


 視界が傾き、頬に鮮烈な痛みが走った。何のつもりだと頬を押さえながらそいつを睨む。


「馬鹿者。いかなる時でも下を向くな。下を向いても、そこには泥しかないぞ」


 ……ああ、こんな事が数日前にもあったか。あの時はオルクィンジェが死んだと思って、下を向いたっけ。それで、アニに半ば無理やり意識を刈り取られた。だからこれは二度目だ。

 けれどそれが何だ。清人を失ったこの痛みは、清人を殺されたこの悲しみは、間違いなく本物で、俺はこの感情をうまく消化出来ない。


「んなの、わかってんよ……。けど、けどよっ!!」


「ならば何故奴が最期に遺したものを見ないッ!!」


 それは久しく聞いた、魔王の本気の怒りだった。


「俺は喰われて以来少しの間だが奴の体で世界を見た。そして俺は理解した。ニャルラトホテプの言う『答え』の正体を、奴の願いを、そして奴の想いを」


「……『答え』」


 そう言えば清人はそれを知っている風だった。その上で、俺を止めようとして来た。ならば、その内容はきっとロクでもないものなのだろう。

 ……そんな地雷のような情報を知ったとして、どうしろと言うのか。


「ああ、ハッキリ言ってその内容は最低最悪だった。だがな、抜け道は幾らでも――」


「おや、おやおや。抜け道、とは意味深ですねぇ♪」


 話の流れをぶった切るかのように最低最悪な声が聞こえた。


「ニャルラトホテプ……ッ!!」


「えぇ、暫くぶりです。お元気でしたでしょうか♪ ……と、言ってもその目を見る限り健全とは言い難い状況下にあるのは明白ですけども」


「黙れッ!! お前が、お前が清人を殺すように指示したんだろうがッ!!」


「その通り。しかしその様に睨まれる謂れはありませんよ。こちらとしても裏切りは困りますし、何より貴方は一気に『欠片』を二つも手に入れ、オルクィンジェも完全体となった。こちらとしても大盤振る舞いな訳ですよ。これ以上を望む、と言うのは――強欲、ですよ?」


 何時もとは違う、ピリピリとした威圧感に罵る言葉が出なくなる。


「それで、お前は一体何の用だ?」


「貴方の復活のお祝いと……第三の選択肢についてのネタバレ、そしてこれから確実に起こる事のご説明を、ね?」


 そう言うと何処から取り出したのか瓶底眼鏡を着けた。


「さて、態々私が第三の選択肢をネタバレすると聞いて薄々察しているとは思いますが。えぇ、杉原叶人。貴方の望む誰も傷付かない幸せな結末は訪れませんよ。絶対に。何故なら――二つの世界を救う場合、他ならぬ貴方が犠牲になるのですから」


「……」


 その言葉は思った程、心に響かなかった。それは清人が死んだ悲しみで心が鈍くなってしまったからなのかもしれない。いや……俺は何処かで、それを極力考えないようにしていた。だからこんなにも無感動なんだろう。


「貴方の至った『輪天灼土エデン』それは幾多の絶望を超え、それでも尚前に進む意思の具現――即ち『超人』の証。まだまだその力量は足りませんけどもね。何れは私を封印するに足る力となるでしょう。し、か、し、残念ながらそれをすると貴方は消滅します。誰にも記憶されず、誰にも認識されず、誰の心にも残れなくなった挙句、思考も肉体も消滅してただの私を縛る鎖に成り果てるでしょう」


 結局はそう言う事なのだ。

 片方を救い、片方を滅ぼすか。

 両方を救い、俺が死ぬよりも悲惨な目に遭うか。

 都合の良い希望なんて何処にもない。答えなんて作れない。現実は、最低最悪で非情な糞ゲーだ。


「貴方さえ犠牲になれば他は総取り。いやぁ実に素晴らしい終わりだと、そうは思いませんか?」


 反論の言葉は出ない。

 胸には虚無感しかない。


「さてと、良い絶望顔を拝めた所でこれから確実に起こる事のご説明をば。……杉原叶人さん。いいえ、杉原清人さん。貴方は強制的にリタイアです♪」


「――――は?」


 意味が分からなかった。


「貴方の任務はあくまでも『欠片』の回収。それが達されたので貴方はもう用済みになったんですよ。故にそろそろ地球の神やら天使やらが貴方を元の世界に引き戻しに来るって訳です。苦難から一抜け出来て良かったですね♪」

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