表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
197/257

Continue 【6】ーfirst partー

短くてすまない……その割には分割しててすまない。

 ドス黒い血に染まった清人は、それでも、まだ辛うじて生きていた。


「清人っ!!」


 俺は清人の方に駆け寄るとその身体を抱き起こす。

 その身体は冷たく、そして何よりも軽かった。


「相変わらず、心配性だよ、な。お前。俺、もう死んでるんだ、ぞ……?」


 確かに清人の身体は継ぎ接ぎだらけで、痛みも感じなくて、死んでいるように感じるかもしれない。

 けれど、俺にとっては今ここに居る杉原清人は確かに生きて存在している。例え、本人が否定したとしても。


「そんなの関係ねぇ!! 俺は――」


「……俺に生きて欲しい、だろ。けど、さ。俺もそうなんだ。……俺はお前に生きて欲しかったんだよ。だから、俺が負けて、結果的に正解だったな」


「ふざけんな!! 俺はっ!! 俺はっ!!」


 ひたりと、頬に青白い手が添えられた。血の通わない、冷たい手。けれど俺には、それがとても熱く感じられた。


「なぁ、最期にさ、子守歌、歌ってくれないか?」


「歌ったら、お前、眠るだろうが……」


 歌いたくは無かった。だって確信があったから。俺が清人に子守歌を歌ったら、きっと、二度と目を覚ます事は無いのだと。


「なぁ、頼むよ。……サボロー」


 ズルイと思った。そんな綺麗な顔で笑って、そんな消え入りそうな声を出して、俺をサボローと呼ぶなんて。

 そんな事をされては、俺は従わざるを得ないではないか。


「……お前は、ズルイ奴だよ」


 そして俺はまたボロボロと涙を溢した。サボローは清人の心の友。そして、清人の意思の代行者でもある。態々その名前で呼んだと言う事は……そう言う事、なのだろう。


「分かった。お前が眠るまで俺がずっと見ててやっから、さ。お前はもう寝ちまえよ、馬鹿野郎」


 ぼやけて霞む脳裏から歌詞を引っ張り出し、既にガラガラの声帯を震わせる。拙くても、詰まっても、胸が苦しくなっても、俺は記憶に残る子守歌を歌った。


「あれ、サボロー? 何処に、行ったんだ?」


 清人の様子が急変して俺は歌を止め、代わりに俺は清人の手を両手で強く握った。


「……俺はここに居る。大丈夫だ」


 すると清人の身体から力が抜けた。


「ああ……そこに、居たんだな。サボロー」


 身体が、徐々に光の粒になって空へと舞い上がる。それはまるで、火垂るのように。


「――――ありがとう」


挿絵(By みてみん)


 微かに聞こえたそれは俺の願望が作り出した幻想か。それとも清人の心からの感謝だったのか。それは分からない。

 けれど、その日確かに、杉原清人は。


「――――あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッ!!」


 この世を去った。



♪ ♪ ♪



 薄れ行く意識の中、誰かの姿が見えた。


「おいおい清人。そんな所で何してんだ?」


 それは、数年前のサボローだった。少年時代のサボローが、そこに立っていたのだ。


「……寝てた?」


 気怠さをどうにか堪えながらサボローにそう言うと「何故に疑問形?」と少し呆れたようだった。


「それより、皆んな待ってんぞ。早く行こう」


 そう言ってサボローが振り向くと、そこには濃紺のセーラー服を着た唯と、唯に対していつものように威嚇するクロの姿があった。


「あれ、俺……」


 気が付いたら俺は泣いていた。

 そして気付く。俺はいつか、こんな風景を見たかったのだと、ようやく理解する。

 強欲な事だと思う。サボローがいて、唯がいて、クロがいる。そんな結末が来ないことなんて分かりきっているのに。


「何泣いてんだよ。清人」


「……結局、俺はお前に何も残してやれなかったなってさ」


 サボローに向かってそう言うと、サボローは「そんな事は無いぞ?」とあっさりと否定した。


「無意識かもしれないけど、お前はどでかい物を残した。残せたんだよお前は。今に分かる」


 そして――その人物は、いきなり現れた。


「数日ぶりか。杉原清人」


 くすんだ白い髪。女の子のような白い肌。そして何よりも目を引くのは髪と同じ色の翼。それは正に天使と言うに相応しい姿をしていた。


「お前は……」


「ああ、お察しの通り。お前が無惨にもに食い散らかした『魔王』オルクィンジェだ」


 前に『暴食』の権能によって取り込んだオルクィンジェだった。


「さて、お前は残せていないだったか。……それは否だ。何せ、この俺が完全体となる一助となったのだからな。怪我の功名、と言うのは間違いではなかったらしい。それに駄賃がわりにお前が知り得た情報も閲覧出来たからな。結果として見れば悪くは無い」


「……そう、か」


「過程を見れば、お前は散々場を引っ掻き回しては揺れ動く優柔不断な男だったが。その最後の動きだけは悪くは無かった。まぁ俺は嫌いだがな。故に……さっさと逝け。俺が拳を振り上げる前にな」


 俺はゆっくりと立ち上がるとサボロー達の方へと歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ