Eden【1】
駆け足気味すまねぇ!!
そして新技ですが……おもっくそネタに走りました。
「私も一度唯を殺そうとして、叶人を刺し殺しかけた。だからそれ以上は、ダメ」
その言葉はクロエに大きな衝撃を与えた。
「奥方が、ご主人を……?」
「……ん。叶人も貴方と似た理由で唯を殺そうとして、出来なくて、その果てに絶望して一度魔獣になった。だから、その原因になった唯は殺さなくちゃと、そう思って唯に短剣を刺そうとした。けど、叶人が庇って……死にかけた」
「……叶人君が庇った?」
クロエには理解し難かった。地球での事を鑑みるに叶人は徹底的に唯の事を憎んでも良い筈なのだ。それだけの事を唯はした。にも関わらず何故最後に庇ったのか。何故殺せなかったのか。それが分からない。
「やり過ぎれば後悔を招く。だから、これで終わりにするべき」
「……分からない、分からない、分からないッ! 俺っちには! まるで! 全ッ然!!」
アニの手を乱暴に振り払う。
「大体、主人にも、叶人君にも俺っちにも結果的に散々酷い仕打ちをしたんだろうが!! それがごめんの一言でチャラにされて堪るかッ!!」
「……そうね。貴方のいってる事は正しいわ。私は取り返しのつかない事をやったし、それに対して謝罪なんてしてこなかったもの。今更謝ったところで負債は無くならない。そんな事、自分が一番分かってる」
唯はそう言うと自ら銃を捨てて両手を広げた。その様は張り付けにされた罪人のようにも見える。
「……納得するまで私を殴りなさい」
「それが、贖罪のつもりか。さっきまでの反抗的な目はどうした! あれが高嶋唯だろ!! 最後まで最低で最悪な高嶋唯でいろよッ!! 変に善人ぶるなよッ!!」
クロエは叫ぶと身体を翻した。その身体は怒りでか小刻みに震えている。
「……興醒めだよ。今のお前を一方的に殴っても俺っちの気分が悪くなるだけだ。……次に会ったら容赦してはやらねぇからな」
まるで捨て台詞のようだと、クロエは小さく舌打ちした。
♪ ♪ ♪
「もう諦めろよっ!!」
「諦めるかっ!!」
激しい削り合いが繰り広げられていた。
魔獣化した俺は機動性を駆使して清人の攻撃を避けつつ着実にダメージを重ね、対する清人は空間を削り喰らう事によって攻撃を牽制している。
一見すれば保たれている均衡。しかしその実俺は自分の限界が近いのだと悟っていた。
「ぐっ……」
身体の一部を魔獣化する事。それは導火線に火を付けるのと同義だ。導火線が無くなったら行き着く先はダイナマイト、即ち完全な魔獣化だ。
既に俺の下半身は殆どドス黒く染まり、腕に纏わせていたものも肩口を超えて胴にまで侵食しかけている。
この分だと魔獣化を解かない限り遠くない未来に魔獣となるだろう。
超覚醒に切り替えた場合は魔獣化は避けれる上出力の上昇が見込めるがタイムリミットがより短くなる。
いつまで魔獣化をするのか、いつ超覚醒を切るべきか。そんな事を考えていると――。
「なっ!?」
何が俺の足を絡めとった。視線を足元に向けるとそこには散らした清人の白い羽が重なり合い蔓のように足首に巻き付いていた。
「終わりだ……!!」
「超覚……」
それは、たった一瞬の油断。しかしその一瞬こそが命取りだった。
そして、俺は肉薄した清人によって、片脚を丸ごと喰われた。
鋭い痛みが走り声にならない獣の叫びが木々にこだまする。
「……これでお前は前に進めない。旅は終わりだ」
余りの痛みに視界が明滅する。常人であれば既に気絶するような痛みに苛まれながらも尚、俺は意識を保ち続ける。
「ま、だ。……まだッ!!」
『災禍の隻腕』。それは効果が切れるまで無限に治癒、蘇生をする能力。今はその能力は無いが、そこで得た痛みへの耐性は健在だった。
「この世界に、来てから……とっくに数回は、死んだんだ。この程度の痛みで、止まると思ったか」
「でもその足じゃどうやっても他の『六陽』には勝てないッ!! もうやめてくれ……お願いだ」
「足がないから、どうした! 俺には杖がある! 杖が無くても腕がある! 腕が無くなったら這ってでも、前に進んでやんよッ!!」
「その先にあるのが更なる絶望だとしてもかッ!!」
俺は何度も絶望を見てきた。そして自らも絶望を経験した。けれどそれでも先に進んで来た。進む事が出来た。
故に、俺は告げる。
「それ、は、違う、ぞッ!!」
まるで、言葉の弾丸を放つかのように。
「一緒にゲーム、沢山やったよな。なら、分かるだろ。絶望塗れの世界でも希望を見出す事は可能なんだって。幾つもの主人公がそれを成し遂げたんだってさ」
杖を取り出すと地面に深く突き立てると不安定な杖にもたれかかる様にして立ち上がる。
「……それはフィクションだ。現実は違う。現実はもっと非情だ」
「――なら、俺がその現実を塗り替えてやんよ」
不思議と心は穏やかだった。まるでそれは一切風の吹かない水面のように。
けれど心は燃えていた。まるでそれは燎原の火のように。
静謐と激情。相反する二つの心は、しかし反発する事なく溶け合い、混ざり合う。
――『叶人が居て、世界だから』
「……躊躇いなら既に捨て、心は蒼く燃え盛る」
その詠唱を以て、魔獣化は解除され代わりに蒼い炎が俺の身体を包み込む。
「故に、俺は過ちを恐れず蛮行を幾度と無く繰り返そう。例えそれが己を摩耗させるとしても」
やがて炎は俺を中心にして放射状に広がり――。
「俺は世界を謳い続けるッ!!」
炎を起点に、世界が青色に塗り変わりる。
そう、色彩を帯びた楽園へと。
「これは……」
「内と外とを入れ替え、俺自身の心象世界を映し出す俺の最奥。その名前は――」
「『輪天灼土』だ」
叶人の奥義の名前は直接的には出てきてませんでしたが、過去の追想などでちょくちょく楽園←ルビ って単語が出てるんですよねぇ。
そして唯。フルボッコ。




