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Last stardust【4】

 そこは最早戦場では無かった。


「ざまぁねぇな、オイ。俺っちなんぞに横っ面叩かれてやんの」


 『色欲』クロエは『六陽』最弱。その理由は直接的な攻撃方法が貧弱である事。クロエの攻撃は己の拳のみ。だが、その拳は美少年の姿にアジャストするかの如く弱い。全力であっても殺し合いと言うよりも喧嘩の際に繰り出される程度の拳にしかならない。


 だから、肉体的な面で見れば、唯は痛みこそあれ耐え切る事自体は可能だ。

 そう、物理的に耐え切る事自体は。


「クロエ、唯は仲間。殴るの良く無い」


「なるべくは全員で円滑な関係を築ければ良いのだがな……」


「それは無理。ご友人と奥方には悪いけど唯だけは俺っちが潰すって決めてるから」


 唯の口の端が切れた。しかし誰も『色欲』を止めない。否止められない。何故なら『色欲』はこの場に於いて凡ゆる倫理を無視出来る権利――『可愛い』を存分に行使しているのだから。

 『可愛い』は大正義だと人は言う。故にクロエの行動も許容される。少なくとも、頭から拒絶される事は有り得ない。


「……これで、満足かしら」


唯はクロエを睨み付ける。攻撃も反撃も許されないままただ防御に徹した唯は痛々しい様になっていた。

 ……しかし。しかし、だ。

 高嶋唯がただ無抵抗で殴られているだけな訳も無く。彼女の脳内には逆転の一手が鮮明に思い浮かんでいた。


 高嶋唯の持つ権能『嫉妬」は精神操作の能力だ。一人につき三発と言う制約はあるものの汎用性は高く、決まりさえすればそのまま勝利に直結するものも少なくない。当たりさえすれば、だが。

 現状、唯はクロエに攻撃しようが『色欲』の愛玩により深層心理が攻撃を忌避するせいで攻撃が自ずから外れる上、仲間からも敵認定をされる危険性がある。

 つまり考えるべきはクロエに攻撃を当てる方法。そしていかに仲間の敵意をこちらに向けさせないようにするか。この二点だ。

 そして唯にはその二点を同時にクリアする方法がある。

 『改竄の弾(ザルギアベル)』。それは『嫉妬』の権能の秘奥。齎す効果は精神の改竄。

 そう、精神を思うがままに歪める事が出来るのだ。『嫉妬』の権能の中でも最も汎用性が高いものの月に一発が限界の文字通りのジョーカー。それを自分に向かって撃てば愛玩の効果を打ち消す事など容易い。

 そして攻撃が当たるようになりさえすれば仲間の妨害を加味しても殺す事は充分可能だ。


「殴られっぱなしと言うのも辛いのだけど」


 不遜な態度でカムフラージュしながら少しずつ銃口を自分に向ける。

 愛玩を無効化したら、銃殺するのにそう時間は掛からない。クイックドロウ、とはならないだろうが伊達に銃を扱ってはいない。仲間の妨害が入る前に終わらせられる自信があった。


「……まだまだ全然足りないよ。ご主人はもっと辛かった。ご主人はもっと痛かったッ!! テメェのせいでッ!!」


「……っ」


 唯はその光景に、強烈な既視感を覚え――引き金を引くのを止めた。


『他ならぬお前が、杉原清人を殺したんだ。……お前の理不尽が清人を殺したんだ』


 そう、言われた。


『お前が、全部お前が悪いんだ。お前が、自殺なんてしたから……!!』


 そう、突き付けられた。


『清人はそれでも、ずっとお前が、お前だけが好きだったんだぞ……!!』


 その時、唯は何と言っただろうか。謝罪を、しただろうか。……いや、していない。

 今の状況は叶人が暴走したときのシチュエーションに近い。

 過去に自分が仕出かした事。その尻拭いだ。

 清人が失意と絶望の中破滅したのも、クロが死ぬ間接的な原因になったのも他ならぬ高嶋唯自身だ。

 彼等は今まで払わないでいたツケを清算させようとしているだけ。なら、どうして唯が『殺す』などど言えるのだろうか。

 ……言える、訳が無い。言って良い筈が無い。殴打が鼓膜を揺らす。先程迄はただ痛いだけだったのだが、今では衝撃と一緒に悲痛な胸の内までもが伝わって来るようだ。


「……殴り返さないのかよ」


「……」


「なぁ、一方的に殴ってても気分悪いんだよ。お前は、最低最悪の女じゃないと殴ってる俺っちの気分が悪いんだよっ!」


「……さい」


 唯は身体を震わせながらその一言を口にした。


「ごめん、なさい……っ」


「ふ、ふざけるなッ!! ごめんなさいの一言で解決する時期なんてとっくの昔に過ぎてるだろうがッ!!」


 そう言って殴ろうとしたクロエの手を、アニが掴んだ。


「奥方、離してくれないかな。このクソアマを殴れない」


「駄目。……これ以上は、後悔の元になるから」


 その言葉にクロエは目を見開く。

 クロエは大概の事を許される。それは可愛いから。勿論クロエは自分から好き勝手する事は殆どない。だからこそ止められたのが意外だった。


「奥方は許せって、そう言うんですか」


「違う」


「じゃあ!!」


「けど、その先には後悔しかない。……私がそうだったから」


「奥方が……?」


「私も一度唯を殺そうとして、叶人を刺し殺しかけた。だからそれ以上は、ダメ」

★唯が今までどんなヘイトを買ったか一覧★

叶人:清人を破滅させた為ガチで殺しにかかる。

アニ:叶人を絶望させた為ガチで殺しにかかる。

クロエ:清人を破滅させた為ガチで殺しにかかる。

物語のメインキャラ二人と敵の幹部の一人に殺意を抱かれる稀有な人物。しかも全員が全員殺意が高いのが何とも業が深い。

ガチ恋ならぬガチ殺勢がわんさわんさ……。

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