Farewell【2】
昼食を取り終わるとまた全員を集合させて諸々の考察を話した。
唯一ジャックが久方ぶりに黒皮を披露する事態となったがギリギリ何とか説得は出来た。意外だったのが唯で、俺が持論を話していると『そ・れ・よ!』とえらく熱くなっていた。
元々『六陽』として動いていた唯はこの中でもニャルの性質についての造詣は深いから俺の話した内容がジャストで琴線に触れたのかもしれない。
そんなこんなあり俺の意見は概ね好意的に迎えられた。
「ほいで、理屈としては分かったけんど具体的にはどないするん?」
「先ずは戦力の強化だな。俺たちは決して弱くないとは思う。けど、邪神……いやこの世界だと創世神か。ソイツを倒すってなると不安が残るからな」
奴がこの世界をゲームにしたのは全能故の弊害だと言う。となると全能は間違いなく現在も有効と見るべきだ。……何だこのクソゲー。
ただ唯一こちらの利点となるものがあるとするならば、それは奴の性格だろう。
前提として奴はどうしようもなく性悪だ。それこそ、『この身体は無限の悪意で出来ていた!』とか言われても納得出来そうなくらいに。
けれど唯一、自身の執り行うゲームに対しては人一倍真摯なのだ。停滞を良しとせず、情報を提示し、行き先を示し、プレイヤーに思考させ、それを観測する。絶望させるだけならば簡単な筈なのにゲームと言う理に固執する。
まだ有効な策は思い付いていないが糸口になるのはまずここだろう。
「……何か普通やな。けんどそんだけでどうにかなるもんなんかの。別途でそれこそオルクィンジェくらいの戦力が必要になるんとちゃうん?」
凩は『良いんか?』と視線をこちらに向けた。
「まぁ確かにオルクィンジェを取り戻そうとすれば清人をその……殺さないといけなくなる。けど、『オルクィンジェ』じゃなくて『オルクィンジェ並みの力』があれば良いならその前提は覆る」
「オルクィンジェ並みの力……? けど、そんな力を持っとる奴なんて……まさか」
「そのまさかだ。……清人をどうにかして旅団に引き摺り込む」
俺がそう口にすると微妙な雰囲気になった。いきなりオルクィンジェを喰った憎き『暴食』を仲間に引き入れると言い出したのだからそれも当然か。
そんな事を考えながら皆の様子を眺めるが、どうにも様子がおかしい。
具体的に言うと殺気立っている。そしてその殺気は丁度俺――の背後に向けられている。
何かと思って振り返ってみると其処には。
「私の事はどうか気にせず、お話を続けて下さい♪」
「いや、無理だろ」
野生のラスボスがティーソーサーを片手に立ちながら一人で優雅たれをしていた。
「おや、完全に話し合いの雰囲気ではなくなってしまったようですねぇ」
そう言うとニャルは頭に載せている紫のシルクハットを取るとその中に茶器を仕舞い指パッチンをした。
するとシルクハットの中から、何やら黒々とした鱗を持つ馬面の鳥の様な何かが何処かへ飛んで行った。
「雰囲気を悪くしたお詫びの手品です。軽く異次元を繋げただけの子供騙しのようなものですが。ご満足頂けましたか?」
へらっとした態度でそう尋ねるが勿論誰も返事をしない。
「困りましたね。ご満足頂けないと。では仕方が無い。幾つか良い情報を与えましょう。……では先ず一つ、叶人さんの推測は正解です。私を殺さなければ世界は爆破しません。えぇ、しませんとも。勿論爆破以外にもこの世界にとって害となる行為はしませんし、それはアースやイデアに対しても同様。そう考えて頂いて構いません。要は私を敗北させられれば貴方達は勝利する事が出来ます」
先ずはその言葉に安堵する。頑張って頑張って頑張り抜いた先で『やっぱり片方しか救えませんでした』ではお話にならない。そうならない事を確認出来ただけでも今の情報には万金の価値がある。
「――但し、今の絶対にして全能の神を単純な力でねじ伏せるにはこの世界に生きとしいける全ての生命の力を借りたとしてもまるで全然足りませんが。少なくともその数十倍でやっとトントンと言ったところでしょうか。生命の格と言うものは実に残酷ですねぇ」
改めて思う。
格が違う。漫画やアニメでは格を語るキャラクターは往々にして噛ませ犬である事が多い。しかしこの邪神にはそれが通用しない。純然たる事実として格と言う差が横たわっているのだ。
正直、ラスボスとか裏ボスとか、そう言ったものの範疇を大きく逸脱しているように思えてならない。
「さて、二つ目。これは貴方達にとっては朗報と言っても良いかと。……オルクィンジェは死亡してはいません」
「ッ!?」
「良かったですねぇ。まぁそれも当然でしょう。彼は邪神を穿つ為に生まれた超越生命体。死体一体に喰われて死ぬ程ヤワくはありません。事実身体を引き裂きまくった挙句結晶化した本人が言うのだから間違いありませんとも♪ 尤も現在は『暴食』の清人さんの電池として無限にエネルギーを喰われているので意識の表出はありませんけどね」
「そうか……そうか。生きてるのか」
「さて、そして最後です。これが一番貴方達にとって重要な情報となる事でしょう。――おめでとうございます。杉原叶人さん。貴方はこのゲームを望んだ未来へと変える為の切符をほんの少しだけ手に入れました♪」
「――切符?」
「おっと、最後はサービスし過ぎでしたか。ではでは、またお会いしましょう♪」
するとシルクハットの中から、何やら黒々とした鱗を持つ馬面の鳥の様な何かが何処かへ飛んで行った。
↑
小さなシャンタク鳥をシルクハットから飛ばしております。なんてもんを飛ばしとんじゃお前……。
さてさて、今回はニャルが具体的にどんだけ強いのかが判明しました。
イメージ的にはP3のニュ●スですね。出たら終わり。
因みにニャル自体がP2のボスだったので●ュクスとはラスボス仲間な訳でございます。




