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Emotional revolution‼︎【1】

 適当な所へ移動して凩と相対する。

 ビッグマウスを叩いた手前、と言う訳では無いが緊張感で皮膚がチリチリと痺れる。


「……さぁ、どっからでも掛かって来いや」


「じゃあお言葉に甘えて――ちょっと俺の走りに付き合って貰うぞ」


 初手から『加速アクセル』を使用して撹乱を仕掛ける。しかし凩は全く動じない。いや、それどころか心なしか落胆しているようにすら見える。


「撹乱程度でどうにかなると思っとるなら、そりゃあ舐め過ぎって奴や」


 ……俺たちはお互いにお互いの切れる手札を知りつくしている。凩は俺が速度でしか勝てない事を知っているし、俺は立ち止まればレンジ無視の斬撃の餌食になる事を知っている。

 どちらが不利か、などと言うのは明白。俺だ。俺は走り回らなければならず、その間ずっと体力を削られ続ける事になる。そして体力が尽きたら敗北は必至。


「最早勝敗は決したの。大人しく――」


 と、凩が降伏を勧めようとしたその瞬間。凩の目が驚愕に見開かれる。


 それはそうだろう。だって俺が不意打ち気味に肉薄したのだから。


「ッ!?」


 俺の奇襲に半拍遅れて凩は対応してくる。渾身の奇襲をたったの半拍で対応してくる辺り流石の反射神経だと思う。


 俺のやった事は至極単純。体勢を低くして凩の視界から外れたのだ。

 普段ならこんな事は通用しないだろう。しかし、俺が逃げ回る事しか出来ないと思い込んでいた凩は己の防御を軽んじた。明らかな油断。慢心。それが、この肉薄を可能にした。

 そのまま杖による横薙ぎは凩の刀の鞘によって受け止められた。流石にそこまで上手くは行かないらしい。

 しかし、俺は止まらない。


「倍プッシュだッ!!」


 一挙手一投足に気を配りながら最適化された動作で杖を振るう。明確な当たりこそ無いが流れるような連撃に表情に少し焦りが見えた。


「猪口才……なっ!!」


 超近接戦闘は不味いと見たのか足払いを放ってくるがここは冷静にバックステップ。そのまま追撃が来るが『加速アクセル』で更に後退する。


「うっかりしとったわ。その動き、オルクィンジェのやな?」


「ああ、その通り……だッ!」


 ガキンと杖と刀が交錯し火花が飛び散る。

 オルクィンジェの体術とは動作の極地。例え歴戦の強者が相手でも全く引けを取らない。

 俺はオルクィンジェと共に戦う事でその動作を自分の内に取り込んでいった。そして、オルクィンジェが戦闘を繰り返す度に俺の動作も最適化され――いつしか俺の動作はオルクィンジェのものへと置換されてきた!!


「にしても、前はそこまでの練度は無かった筈や。一体どんな手品を使うた」


「……絆だッ!!」


 斬撃を最小限の動作で回避しながら再び肉薄を開始する。

 以前は動作のイメージに肉体が追い付かない状況だった。全力で後ろに下がろうとしただけで腱が壊れかけたりもした。

 ――だが、今は違う!!


「はぁぁぁあッ!!」


 俺は人間である事を辞め、アラクネとなった。それにより肉体がより強靭なものへと変化した。それ即ちオルクィンジェの動作に耐え得る肉体の獲得。

 その結果、俺は幾多の邪神を屠ってきた戦いの天使の技術の模倣に成功した。つまりこれはアニとの絆が生んだウルトラCと言う事だ。


「くっ、ちょこまかと……ッ」


「認識が甘かったな。にのまえこがらし。今の俺の動きは正真正銘――オルクィンジェの紛い物だッ!!」


 しかし凩はたったそれだけの要素で勝てる男では無い。そしてそれは未だに有効打がゼロである事からもそれは明白だ。

 そして、この場には膠着と言うには余りにも激し過ぎるがお互いに攻め手が見つからない状況が生まれていた。


「段々、目が慣れてきたわ。確かにあんさんは疾い。そして鋭い。けんどそれだけや。そっちには決定打が圧倒的に不足しとる。それにその動き……効率化しとるとは言えめちゃくちゃ疲れるんとちゃうんか」


 図星だった。

 先程言ったようにこの動作は普通の人間が行えば身体の故障は回避不可な事からも分かる通り、相当な負担が掛かる。幾ら肉体が強化されたとしても負荷の総量は変わらない。故にこの戦法にもやはり限界がある。


「図星みたいやの。ほいたら――今度はこっちから行かせて貰うわ」


 先程とは一転、凩は強引な攻めの姿勢を作る。待ちに徹するよりも攻めて体力を削った方早いと踏んだのだろう。

 圧倒的な膂力から繰り出される一撃は常に必殺。その全てが俺にとっての脅威だ。一度でも当たれば流れを根こそぎ持っていかれる。しかし回避を続けても体力がガリガリと削られ続ける。

 余裕が、無い!!


「くっ……!」


 脂汗が流れる。結局のところ俺はオルクィンジェの動作を用いた奇襲で早期に畳み掛ける必要があった。しかし凩はあの動きに目が慣れてしまった上に慢心も無い。他に、戦況を劇的に変化させる手は……。


「どうした、そんなもんか。あんさんの語る希望って奴は!!」


 ――希望。


 その瞬間、鈍い衝撃が全身に走った。どうやら凩の一撃の威力を殺し切れずに吹き飛ばされたらしい。


 だが、それよりも何よりも重要な気付きがあった。


「そうだよな……超高校級の絶望の残党だって、最後は希望に変わるんだよな」


 希望は絶望に、絶望は希望に反転する。

 それはつまり――。


「ああ、やってやんよ。……俺が()()()()()()()()()()()()ッ!!」

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