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We cry "OPEN"【2】

作中屈指のポンコツが……。

そして、だいぶ前に描いた挿絵付き。

 篝の打ち出した答えは余りにも意外なものだった。


「私は、個人としての結論を出さない。これが私の答えだ」


「それは、どう言う意味かしら」


 その『個』を持たない漠然とした結論に苛立ちを込めながら唯は訊ねる。


「どうもこうも無い。私は全体の意思に沿うと決めた。……ただそれだけだ。勿論これが話し合いの趣旨に沿わない答えだと言うのは承知している。けれど私は期待せずにはいられないのだ」


 そこまで言うと篝は……俺の方へ視線を寄越した。「何を」とは誰も言わなかった。その期待の籠もった眼差しを見ればそんな事は一発で分かる。


「自らと瓜二つの人物と敵対し、そして仲間の一人を失いながらも、それでも尚団長は不敵に笑っているのだ。これが悲痛な選択をする顔には私には見えない。だから、私は賭けたいんだ。反抗し、藻搔いた果てに勝利し、思うがままに全てを得る。そんな可能性に。……それが私の願いであり、私の結論だ」


 いっそ強欲だとなじられそうな結論だ。けれど、俺はその言葉が心地よかった。

 理不尽に抗いたい。勝って手に入れたい。それは人間の最も根源的な衝動だ。それをこの土壇場で、改めて言葉に出来るのはそうそう簡単な事ではないと思う。


「知っての通り私は頭が良い訳では無い。自分では危機を対処する手段が見つからない。……力があれど考える事を知らず、しかし割り切る事だけは得意な性質たちだ。だから、どちらかを選ぶ事は殊の外容易いし……きっと私は納得するだろう。けれどそれはきっと、面白くは無いのだろうな」


 ふと、古本屋で読んだ漫画の一部分が頭を過ぎる。確か危機的な状況でイカれた作戦を主人公は提示する。それに対してとある男はこう言ったのだっけ。『だが面白え。面白えってのは大事なことだぜ』と。


 この状況をそっくりそのまま漫画の一場面に当て嵌めるのはナンセンスの極みだろう。けれど、この窮地に於いて『面白さ』を口にする人間が、果たして何人いるのだろうか?


「……貴女の事、脳筋な堅物かと思っていたけれど訂正するわ。貴女は間違い無くこの旅団の人間よ」


 先程とは違い唯の言葉には呆れとほんの少しの賞賛が込められているように感じられた。

 しかしそれを快く思わない人物も、この場には居た。


「――何や、面白いて。ふざけとるんか」


 普段の声とは全く異なるゾッとするほどに冷たい声色だった。


「面白い面白くないで、世界が救えるんか。それで、この世界が滅んだらどうする。それは誰の責任で、誰が償うんや」


 燃えるような髪色は、彼の怒りを雄弁に物語っている。

 ……考えていなかった訳ではない。いや、こちらを選択する確率で言えばトップクラスで高いと予測していた。けれど、いざその激情を前にすると気迫に気圧されそうになる。


「凩、お前は……」


「……ワリャはこの世界を選ぶ」


 ――凩は、この世界を選んだ。


「このまま何もしなければ、確実にこの世界は無事に終わるんやろ? だったらそうすれば良いやんか。折角の命やろ? 態々危険に曝す必要無いやんか。……確かに叶人の故郷は滅びるかもしれん。けんど、ワリャ達が生きとるんはこの現実や! それだけで良いやろがいッ!!」


 現実。確かにそうだ。これは紛れもない現実だ。けれどこれは同時にゲームでもあるのだ。

 凩、お前は知らないだろう。ゲームの楽しさを。その本質を。


「……なぁ、この世界で知らん顔してのうのうと生きる事を選んでも、良いやろ。働いて、食って、子供をこさえて、老いて死ぬ。そんな人並みの幸福を選ぶのだって、良いやろ!」


 尻すぼみになりながら凩はそう言い切った。

 けれど、その表情は……今にも吐きそうな最低な顔をしていた。その顔は何度も見てきた。絶望寸前。誰も幸せにならない顔だ。


 俺は流れを変えようと口を開こうとして――留まる。それはある種の信用にも似た何かだった。お約束、或いはテンプレと言い換えても良い。事実、俺は今まで何度もそれを経験したし、それで立ち上がって来た。


 俺の仲間であればこのタイミングで必ず。


「――言い訳はそれで充分か」


 その言葉を、真っ向からぶった切る。


「何や、ワリャは間違えた事を言うたか?」


「もう一度聞くぞ。言い訳はそれで充分か」


 篝は凛とした態度を以って再びそう言い放つ。情けも容赦もないその言葉はまるで研ぎ澄まされた刃のようだった。


「みっともないものだな。何故理不尽が目の前にあるというのに抗おうという気概を見せない」


「無駄な流血を避ける事を考えて、何が悪――」


 重々しい音が響いた。

 そこに見えるのは振り抜かれた篝の拳と、口の端を切らした凩だった。


「お前はそれでもハザミの人間かッ!! 理不尽を前にして膝をつき、屈するのがハザミの流儀だとでも言うのかッ!! いつからそんな軟弱者に成り果てたっ!!」


「お前だって分かっとるんか!? この世界が滅べばおっちゃんやって死ぬんやぞ!! お前はそれでも良いんかッ!?」


「ああ、確かに死ぬだろう。だがな、お前の養父はお前の今の様子を見たら落胆するだろうな。『何故抗わないのか』と。……お前がその選択の結果を心底から誇れるなら別に私は反対しない。でも、違うんだろう? お前は自分の手段が誇れないから言葉を弄した。そして予防線を張った。これを――怯懦であると言わずになんとするッ!!」


挿絵(By みてみん)


灯篝

作中屈指のポンコツにして最強格の女剣士。普段は頭の悪さばかりが露見しているが、唯初登場回では自力で生還したりと陰ながら数々のファインプレーを繰り返している。この作品で最強ランキングを作った場合の上位数名に食い込める実力者。一応ヒロイン適正があったりする。(ここでいうヒロイン適正とは主人公のヘタレに対する解決手段の提示、或いは意識改革能力【物理】)

胸の付いたイケメン。SAMURAI。脳筋。

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