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Want to be lover【3】

今回は結構インスマスを覆う影をイメージしました。

 それから暫くは指定危険人物にも、ゴブリンにも会う事無くレベリングと鍛錬が続いた。

 地道なレベリングでレベルが五まで上昇して、ステータスも幾分か上がった。現在のステータスはこんな感じだ。


挿絵(By みてみん)


 取り分け POW(魔法の素養)DEX(敏捷)の伸びが良く、杖で殴りながら状況に合わせて魔法を行使するスタイルにアジャストしたようなステータスになっている。

 代わりにCONが低くて打たれ弱いのと、STRがお世辞にも高いとは言えず、ダメージになりにくいところが弱点か。

だが、最初に比べればかなり進歩したと言える。


「……そう言えばジャック、『欠片』ってまだ出現してないのか?」


「それがまだなんだよねぇ。そろそろ出てきてもおかしくはないと思うんだけど」


 この世界に来て怒涛のように数日が過ぎた。俺も少しずつではあるが、『魔王』とジャックとの生活に慣れ始めていている。それなのにまだ目的の『欠片』が出現しなかった。

 ……この不気味な空白がどこか空恐ろしい。

 まるで、何かが完成するまでじっと待っていろとでも言うかのような無言の圧力すら感じられる。


「今は雌伏の時……か」


 自分に言い聞かせるようにそう言ってみた。だが、胸に燻ぶる不穏の種火は消えてくれなくて困った。



 ♪ ♪ ♪



「清人、起きて!! wake up!!」


 ジャックのどこか浮ついた声で目を覚ました。

 ジャックが俺より早く起きたことが一度もなかったから少しドキッとしてしまう。


「『欠片』が出現したよ!!」


 『欠片』と言う言葉に反応したのか俺の中の『魔王』が少しだけ騒ついた気がした。


「場所は?」


「えーと、場所はクメロの森。ここから程近い所にある森だねきっと今の君のレベルなら攻略出来そうだね」


「そう…か」


 俺は回避、攻撃と自分なりのスタイルを確立して今のところ負けは無い。

 けれどそれは格下相手の話だ。格上相手の戦いはした事が無いし、『魔王』が都合良く力を貸してくれるとも思えない。……不安要素が多過ぎる。


「清人……?」


 それに、『欠片』出現までの空白期間がどうにも頭から離れない。

 ありがちな展開だが、森自体に何か途轍もない異変が起きている可能性もある。


「ジャック、『欠片』の回収って時間制限あるか?」


「無いけど……どうして?」


「ちょっと気になる事があるんだ。取り敢えず挑戦は後回しにして今日はクメロの森の下見だけしに行くぞ」


念には念を、と言うには余りにも心許無くはあるが一度件の森へと向かう事にした。



♪ ♪ ♪



 クメロの森は思ったよりも鬱蒼としていた。光量も少なく、少しジメジメとしている。ここを夜に移動するのは自殺行為に等しいだろう。


「うーん、これは下見して正解かな。僕が案内出来るとは言え暗かったら足元を掬われそうだねぇ」


 ジャックはニマニマしながら言った。

 きっとエリオット戦で足首を捻った事を暗に言っているのだろう。地味に陰湿なカボチャだ。


「ジャック、俺は森に来た事無いから分からないんだけど……何か妙な音が聞こえないか?」


 耳を澄ますと聞こえてくる不快な足音と理解不能な言語。ペタペタ、クチャクチャ、ケロケロ。


「まぁ、そう、だねぇ?」


 そして……鼻を突くのは動物が死んだみたいな腐臭。

 それらはどんどんこちらに近付いて来ている。


「……隠れるぞ」


 俺とジャックは手頃な茂みに入って息を潜めると、それはゆっくりと着実に此方へと近付いてくる。


 どくどくと早鐘を打つ自分の鼓動の音が鮮明に聞こえる。

 ジャックも異様な雰囲気を感じ取ったのか身じろぎ一つしていない。


 ペタペタ、クチャクチャ。


 ペタペタ、ペタペタ、ペタペタ。


 それはきっと濡れた素足で地面を踏み締める音。


 クチャクチャ、クチャクチャ。


 薄暗い森の中は異音に支配されていた。

 逃げたらきっと気取られる。気取られたら殺される。そんな確信があった。


「うっ……」


 吐き気を催す臭気が一層強まった気がして眉を顰める。

 そして絞られた光量の中、それらは姿を現した。


 人間の赤子のような矮躯、返り血に染まった二本の腕。各々が好き勝手に勝手に武器を持ち、ギラギラと怖気のする笑みを浮かべていた。

 そして、その皮膚は人間には凡そあり得ない深緑。

 ああ、成る程と心の何処かで納得する。


 これは森で獲物を狩るのに最適化された捕食者(プレデター)

 矮躯は凹凸のある路を難なく踏破し、深緑の皮膚は本来風景と同化して存在覆い隠す隠れ蓑となるのだろう。


「ゴブリン……ッ」


 恐怖をもってその名前を口にする。


 ――ゴブリン。

 それはRPGに於いて最弱の雑魚敵。その、はずだった。

 しかしどうだろう。現実で群れを成すその姿はまかり間違えても雑魚などでは無い。

 血に濡れたその姿は悪鬼という言葉がよく似合うような風貌をしている。

 ジャックもその姿を見ると息を呑み、口を噤んだ。

 重々しく、澱んだ空気が森に蔓延していた。


 そういえば、エンゲルさんが言っていたっけ。


 コロニーが肥大して、ゴブリンの姿が森で見られるようになったのだと。


 遅まきながらそれを思い出した俺は……ゴブリンの群れが通り過ぎるまでただじっと、ひたすらにじっと、隠れていた。

 この心音が聞かれてはいまいか。この恐怖がバレてしまわないか。そんな不吉な妄想が脳内を駆け巡る。


「……はぁ、はぁ」


 ゴブリンの手を赤く染めたあの赤い血は誰のものだとか、そんな事を否応無しに考えてしまう。


 目の前をペタペタと通り過ぎるゴブリン達に背筋が思わず震える。


 過呼吸気味になるのをどうにか宥めていると俺達の少し先をゴブリン達が完全に通過していった。


「き、清人……」


 ジャックが心配そうに声を掛ける。だが、俺には返答の余裕が無い。

 脅威が去っても心臓は慌ただしく脈打っていた。


「酷い顔をしてるよ。大丈夫かい?」


「大丈夫……だ」


 ただ、ジャックも顔色が随分悪かった。艶のあるオレンジが黒く染まっている。


「……ふぅ」


 荒い息を吐き、額に粘り気のある汗を貼り付けながら茂みからゆっくりと出る。


「……ギルドに戻ろう。撤退だ」


 そうして俺達は来た道を引き返した。


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