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Still I will call you a me【3】

書いてて思ったけどコイツやっぱ最低だな。

 その日は、いっそ憎たらしい程に綺麗な夕焼けの空だった。


♪ ♪ ♪


「……暑いな」


 俺は西日の射しこむ静かにな部屋の中で一人ごちる。季節は春。新たなる始まりの季節であり――別離の季節でもある。かく言う俺も先ほど耐え難い別離を経験したところだ。


 杉原叶人。それは俺の別側面にして親友。いや、出来の良い弟か、或いは近所の悪ガキが近いか。……まぁ、今となっては全て線無き事。彼は消えてしまったのだから。

 俺の心の防衛機構である彼は俺の心が一定水準まで安定すると同時に消えてしまうことが宿命づけられていた。そして、今日をもってその役目を終えて彼は俺の中から消えた。

 椅子の背ににもたれかかりながらふと今までの軌跡を思い返す。


 ……最初は嫌な奴だと思った。俺の体を勝手に使ってはゲームや漫画を収集し始めるし、いきなり突飛な提案をしたりしてくる。その様は人の話なんて微塵も聞かない自己中の権化。俺の苦手なタイプ。けれど、いつからだっただろうか。それまでの嫌悪感がなくなっていったのは。子守歌を歌ってくれた時だろうか。それとも、『俺はどうしたいのか』を聞いてくれたときだっただろうか。

 久しぶりだった。本当に久しぶりに――暖かな気持ちになれた。


 唯が死んで以来、俺は悪意に怯えて外部との接触を極限まで避けて来た。だから忘れていた。こんなにも暖かで、ありふれていて、それでいて尊いものがあるのだと。

 それから俺は自分から少しづつ外へと出てみるようになった。相変わらず外は怖かったけれど、それでも俺の味方が隣にいるのだと思えばそれ程辛くは無かった。

 あちこちを行って回った。中古本屋、ゲーム屋、百円ショップ、服屋、エトセトラ。気の向くままにどこまでも。そうしてそのうちに俺は、外への恐怖を忘れて行った。

 いや、違うか。楽しかったんだ。……ただただ楽しかったんだ。二人でどこかに行くのが。次はどんなところに行こうか夢想するのが。そんな些細な事が無性に楽しかった。


 ……なぁ、叶人。俺の根幹はやっぱり治ってなんかいない。お前は俺を立派になったと褒めそやすけれど、そうじゃないんだ。俺はもっとお前と居たかったんだよ。……だから今も痛いんだよ。


「誰もいない部屋ってさ、寂しいもんだよ。元から俺一人しかいないのに、不思議なもんだよな」


 西日が目に沁みる。

 きっともう少しすればこの茜色は群青に変わる。その頃には目から止めどなく溢れるこの汁も止まっているはずだ。


 失いたくないものをこそ失ってきた。だからこそ願ってしまう。


 『取り戻したい』


 暖かな陽だまりを。黄金のような日々を。

 心を凍てつかせる雪を溶かす暖かな『春』を。


 一頻り泣き終わるとそこには一人の冬があった。


 道標を見失い、希望を失い、けれどかつてその手にあった熱の残滓を幻視しては後悔を重ねる。そんな人型の冬が、そこには確かに居たのだ。



♪ ♪ ♪



 『取り戻したい』。そう願う人の結末は二択だ。

 諦めて、別の生きがいを見出すか――或いは悪魔に唆されて自ら破滅の道を歩むか、だ。

 そして俺は……後者だった。


『少年よ、お前は身に余る大望を抱えているな』


 深い藍色の空の下、そう口にしたのは黒衣の神父だった。名前をナイと、そう言ったか。

 暗い髪の毛とくびれた身体を持つ黒の神父は開口一番、俺に向かってそう言ったのだ。


『断言しよう。お前の大望は叶わぬ。願ったところで手に入らぬ。それがお前の願いの本質と知れ』


 いきなりの事で混乱する俺を他所に神父は滔々と言葉を紡ぎ続ける。


『しかし、それでも諦めぬと。大望を成就させたいならば覚悟せよ。そしてその覚悟を以って最悪を選択せよ。あらゆる艱難辛苦を厭わず、万人の幸福をねじ伏せ、そして声高に叫ぶのだ。これこそが我が大望であると』


 意味が分からなかった。


 けれどその時、一つ思い付いてしまったんだ。いや、これは示されたと言った方が正確か。

 俺はここで一つの選択肢を得た。


 くどいようだが杉原叶人は俺の心の防衛機構。


 つまり。


 俺に残された、大切なものを生贄に捧げれば。


 俺のストレスは飽和し、叶人は復活を遂げる。


 それは正しく悪魔の囁きだった。馬鹿らしいと思う。

 けれど確信出来てしまったのだ。それをすれば叶人を確実に取り戻せると。

 失敗と喪失だらけの人生様とやらに一矢報いる事が出来ると。


 故に。

 俺は選択した。

 最悪の選択を。


 だから、俺は自らの手に残った最後の幸福を自ら棄てる事にした。


 台所から包丁を取り出して、眺める。

 本来食材を切るために使われる物を、今から俺は殺人に使う。そう考えると……吐き気が込み上げて来る。

 俺は包丁を放り投げるとトイレに駆け込んだ。戻した。


 包丁を取れば最後、俺は親を殺す事になる。俺は確かに最悪の選択肢を選んだ。けれど親を殺す事は出来なかった。


 本当に、浅ましいと思った。

 簡単に誰かを殺す算段を考えてしまう自分の性が。


 それから俺は家を飛び出した。

 向かう先は近所の公園。……唯の死んだ場所だ。

 俺は土管に腰掛けると浅く息を吐きながら俯向く。

 駄目だ、駄目だ、駄目だ。

 殺すなんて駄目だ。けれど、俺の願いの為にはイケニエが必要で。けどイケニエに該当する人物なんて両親以外――。


 なぁん、と猫が鳴いた。


 ああ、居るじゃないか。イケニエにピッタリなものが。


「なぁ、クロ」


 何てご都合主義的なのだろう。


「俺の為に死んでくれないか」


 そして、クロの死亡と同時に俺の自我はストレスに耐え切れずに自壊した。

地球組=不幸組 成立!!

理不尽には勝てなかったよ……。


【不幸組の死因一覧】


クロ:清人の暴行により死亡。叶人によって庭に埋葬される。ご主人バイオレンスとかあるていめっと理不尽。


叶人:ヘカテによって殺害される。はいぱー理不尽。……と言うか大体清人と唯とニャルが悪い。


清人:クロを凄惨な暴行の末に殺害した事でストレスが飽和。半ば心中のような形で死亡する。叶人に胃痛の置き土産★


唯:車に轢かれて死亡。上二人にとんでもないトラウマを残す。

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