Still I will call you a me【2】
鬱・ヘイト注意!!
さて、本当はどっちが不幸なのやら……。
――最初は微かな違和感だった。
『さぁ私が貴方達に投げ掛けるのは究極の二択です。アースとイデアを救い、この世界を破滅させるか。この世界を選び、アースとイデアの滅亡を知らん顔して過ごすか。私はどちらでも構いません。どちらも尊き選択と認めましょう。さて、貴方はどうします?』
ニャルラトホテプの突きつけた二択はこうだ『この世界を選んでイデアとアースを見殺しにする』か『アースとイデアを救ってこの世界を見殺しにするか』。
ああ、確かに絶望的な二択だ。
但し――その絶望的な二択はハリボテでしか無いのだが。
アニが教えてくれた。この世界には選択肢なんて無限にあって、どれだけ突飛な選択を行う事も出来ると言う事に。
だから俺はそこに希望を見出した。
そして俺は掴んだ漠然とした希望の手掛かりを探してニャルラトホテプの言った言葉を整理した。
一つ、ニャルラトホテプはイデアとアースを侵攻中である。
二つ、上記の事柄はニャルラトホテプを倒す事で回避可能。
三つ、ニャルラトホテプが死亡した場合ゲームをクリアしたと見做しこの世界は塵一つ残さず爆破する。
それに気付いた時には思わず笑ってしまった。
この世界の爆破の条件と侵攻の回避の条件がズレているのだ。
なら、ニャルラトホテプを倒してもニャルラトホテプが死ななければ案外この世界はそのまま残るのではないだろうか。
だから、俺の答えは『ニャルラトホテプを倒し、しかしゲームをクリアしない』だ。
それがどれだけ困難な道なのかは正直想像も付かない。けれど、少なくとも卑屈になって犠牲を許容したり、強要せずに済む。
故に。
「端的に言う。清人、俺たちの旅団『幻想旅団』に来い」
信頼にたる仲間が要る。
ニャルラトホテプを打倒して、尚且つ殺さないだけの力が要る。
……オルクィンジェのこれまでの行動を、努力をゼロにしない為にも。
「……それは無理だ。『魔王』はもう喰った。『魔王』を取り戻したくてそう言ってるんならそれは不可能だ。喰われた牛や豚が自分の意識を奪うか? いや、喰った以上はそうはならない。ならないんだよ叶人。だから――この話は終わりなんだ」
「勘違いするなよ。確かにオルクィンジェがまた現れる事を期待してなかった訳じゃ無い。けど違うんだよ。仲間になって力を貸して欲しいんだよ。他ならぬお前に」
「仲間を惨たらしく食い散らかした相手に向かって仲間になれってのはイカれてるな」
「それはお前もだろ。人の事ブラック企業に誘っておいてよ。俺よりも余程お前の方がイカれてる」
「……そう、だな。俺はとうにイカれてる」
そう言うと清人は自嘲気味に笑みを溢した。それ唯が死んでから浮かべるようになった例の痛ましい笑みとそっくりだった。
「少し場所を移そうか。ついて来てくれ」
♪ ♪ ♪
清人の後に付いて夜のネイファの街を闊歩する。昼間からして喧騒とは無縁の場所だったが夜になると尚一層静かで不気味さが際立っている。
いや、ただ単にここが不気味なだけかもしれないが。
俺が漂う臭気に顔を顰めていると清人は「着いたぞ」と一言。
「随分と趣味の悪い所に連れてきたな」
そこは墓地だった。いや、墓地と言うよりも此処は投棄場が近いのかもしれない。
そこは白骨死体が転がり、地面が不自然に隆起する……明らかに真っ当ならざる場所だった。
……どういった意図で深夜にこんな所に来たのかは全く分からないが、肝試しにしては悪質過ぎる事は確かだ。
「アンデットが現れるなら此処だと思ってな。それに……此処が俺の正しい居場所だから」
すると清人はおもむろに『デイブレイク』の証である黒いコートを脱ぎ去った。
そして現れたそれを俺は場違いにも――美しいと思ってしまった。
ローブの中から解き放たれたのは純白の羽根だった。
だが、美しいのは羽根のみで曝け出された上半身は継ぎ接ぎだらけで眼をそむけたくなるような酷い有様だった。
「『やぶれひまく』……死者を守る偽りの翼だ。骨は『スチールボーン』。なぁ叶人、お前には今の俺がどう見える? いや、問うまでもないよな。人喰いのゾンビだ。紛れもない死人だよ」
……俺は清人が人を喰らう場面を見ている。そしてネイファに来てからも死体を喰っているとも聞いていた。それに、清人の身体が人間とは違う事も察していた。
けれど。
誰が予想出来ただろうか。
自分の片割れが人を喰らう屍になっていただなんて。
けれど。
それでも、折れられない。オルクィンジェの行動を無為にしない為に。一番良い終わりを迎える為に。
「確かにビックリした。けどな、それでもお前の力が必要なんだ。人を食べた事に罪悪感があるならそれ以上に人を救えばいい。こんなジメジメしたところに居ないで俺と来いよ。一番良いエンディングを特等席で見せてやっからさ」
「……俺は余りに汚れ過ぎてる。お前の近くにはいられない」
「それがブラック企業に勧誘した男の言葉かよ」
毒づくようにそう言うと清人は気まずそうに視線を逸らした。
「あの言葉には嘘偽りは無かった。あれは俺の本音だ。けど……それは本音でしか無いんだよ。この世界には本音以上に意味のある建前なんて往々にしてあるんだよ」
「……本音だって認めてるのにそれに従わないのかよ」
「良識の問題だ。誰だって盗みを働きたいと思ったら盗むなんて短絡的には動かないだろ。それと一緒だ。……まぁ、今回はそれが露呈しただけだ。忘れてくれ」
……何だろう。
何だか、めちゃくちゃイライラする。
俺の仲間を喰っておいて、ブラック企業に就職勧めて、挙句に仲間になれと言ってもネチネチと理屈を捏ねて。なのに本心では一緒に居たいと思ってて?
ふざけるのも大概にしろ。
「……大分痛くなったな。お前」
変わっていないものだと思っていた。変わらないと信じたかった。
けれどダメだ。
コイツは、悲劇に酔い過ぎてる。
勿論身に余る不幸を経験したと言う事もあるのだろう。
人を殺める罪過を背負い込む羽目になったのもあるだろう。
そして清人を止め、慰める人が誰もいなかったのもあるのだろう。
でも、これは違う。
言語化出来なくて酷くもどかしいがこれだけははっきり言える。
「清人、お前は間違えた」
「ああ、俺は間違えてる」
ああ、そう言うと思った。だけどそれは悲劇を演じる為のポーズに過ぎない。
誰の手も掴もうとしない、馬鹿の言う言葉だ。
本当に腹立たしい。清人に不幸を強いた世界も。不条理を受け入れて酔う清人も。
「でも、無理なんだよ。……俺はお前を不幸にした。俺が仲間になんてなれる訳が無い」
そう言うと清人は憂を帯びた目でこちらを見つめながら。
「……俺さ、殺してるんだよ。地球でも」
そう、宣いやがった。
公開されているハンドアウト(地球組)
清人:唯を恋慕するも唯の実の父親に完璧なNTRムーブを決められ精神を病み、後に唯が自殺したことで精神が崩壊する。しかし叶人を作り出す事でストレスを緩和させていき、日常に復帰したかのように思われていたが……? 何かしら殺してしまっているらしい←NEW!!
叶人:清人の作り出した別人格。清人を立ち直らせたものの何故か清人が消え、代わりに自分が残ってしまった。以降は自身を清人だと偽りながら灰色の日常を過ごすことになる。最近可愛い嫁が出来た。
クロ:清人と叶人の愛猫。飼っている訳ではないが杉原兄弟(?)にとても懐いている。唯の本性を見抜いたのか唯の事をとても嫌っている。結構聡い。色々と仄めかす描写が多いがまだ何が起こっているかギリギリ明言されていないので実質最後の壁。『地球組』=『不幸組』になんて絶対させない!
高島唯:清人のヤンデレ幼馴染。色々と不憫な子。『暴食』の正体を伝聞でありながら薄々察したあたり清人センサーは健在の模様。




