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Precious thing【3】

アニさんの浄化力が強すぎてシリアスな場面を書こうと思ったけど出来なかった敗北者。

仕方なくプロットの前後を入れ替える羽目に……。

 俺は答えを得た。


 いや、もしかしたらこれは答えと言うには余りにも夢見がちで、余りにも強欲な我儘なのかもしれない。


 けれど……やはりこの答えこそが一番俺らしいと、そう思う。

 ――それが例え、清人の願いを踏み躙ることになるとしても。


「アニ、明日改めて一度皆で話し合いがしたい」


 俺が改めてそう口にするとアニは花のような顔を綻ばせ。


「ん、分かった」


 そう、返事した。


「……今度は即答、なんだな。正直ちょっと面食らった」


「む、心外。私は脅迫観念から来る行動を諫めただけ。……信念を持つ人の行動を止めるのは、不粋。そう師匠に教わったから」


 信念を持つ人の行動を止めるのは不粋、か。

 正直、俺は自分の信念だと言って胸を張れるような答えは持ち合わせてはいない。良くても夢物語止まりだろう。けれど、口にするのも馬鹿らしい様な、そんな考えに賛同してくれる人が少なくてもここに一人居る。なら、俺は奮い立てる。


「良い教えだな」


「ん。私のたった一人の自慢の師匠、だから」


 それきり何とも言えない空気が漂い始めた。何だか甘酸っぱいような、気まずいような。

 青春。この空気を一言で表すならきっとそうなるのでは無いだろうか。だが、言葉にしてしまえば今この一瞬はきっと青春と言う型に嵌められて陳腐な物に成り下がるだろう。

 兎に角、尊いと思った。大事にしたいと思った。この空気を。そして彼――。


「お腹、空いた」


「へっ?」


 がぶり。

 首筋に歯が突き立てられ全身の毛が粟立つ。基本吸血は捕食行動だ。痛いし怖いと考えるのが普通だろう。しかしアラクネに関して言えば事情が全く異なる。

 何と言うのだろうか、こう……背徳的な悦びがこみ上げてくるのだ。自分の血が吸われているのが何だか……いや、止そう。これ以上言ったらちょっと変態チックになりそうだ。

 吸血されながら思考をラリラリと巡らせているとアニは自分の襟首を少しはだけさせ白いうなじを露わにさせた。


「叶人も、飲む?」


「……飲む」


 ……俺、一生変態でも良いかも知れない。

 そんな事を考えながら俺はアニの首筋に顔を埋めた。



♪ ♪ ♪




 どうでも良い話だがネイファの宿屋は一部屋が結構狭い。

 まぁ、それもその筈、ネイファ自体が色々と世紀末レベルに貧しいのだから。なら、そもそも何で宿屋があるのか、そもそも世紀末レベルで貧しい所に貨幣経済が成立するのかとかツッコミ所も至極当然ではあるが、それもうっちゃり放り投げてしまって。

 問題は今回の部屋割りである。

 今回一部屋当たりが小さい事と、鬱々とした状況を鑑みて一人一部屋という大奮発をするに至った。至ったのだが――。


 それだけにこれはキツい。


「すやぁ……」


 狭い部屋、眠る彼女、腕にひしっと抱き着いて離さない手足。


 そう、俺は今アニと同衾しているのだ。勿論将棋でも無いし、性的な意味も無いのだが。

 

「……寝れない」


 先日も眠れなかったが今夜は別の意味で寝られなくなってしまった。

 考えみて欲しい。狭い部屋、ともすればベッドがシングルになるのは必定。そしてそこに二人目が押し込められれば密着する事になる事もまた必定。野朗同士なら暑苦しいながらも気を回す必要はないだろう。が、隣には女の子。色々と柔らかだし、良い匂いがするし正直言って色々と毒なのだ。


 正直に告白しよう。


 めちゃくちゃムラムラする。


 吸血の快楽が未だに効いているのか身体が熱い様な気がしなくも無い。

 かと言って夜風に当たって火照りを冷まそうにも右腕に抱き付かれているので下手に脱出したら起こしてしまいそうだ。アニも一日中俺に付きっきりだっただけに個人的な都合で起こすのは忍びない。


 二者選一。


 悶々としたまま眠れぬ一夜を過ごすか、慎重に脱出し一旦落ち着くか。


「……プリズンブレイクと洒落込むか」


 俺の選択は後者だった。

 俺は勤めてゆっくりと床に足を着けるとそのままホールドされている腕を引き抜いていく。

 なるべくアニの体にに触れない様に極めて慎重に……。


「よし、突破」


 そして暫く経った頃に漸く脱出に成功した。

 やれやれ、と元からフリーだった方の腕で額の汗を拭うと、不意にコンコンとドアがノックされ、そのままガチャリと開かれ――。


「叶人、少し話が……。やっぱ何でもない」


 一瞬聞こえた声は間違いなく自分と全く同じ声質だった。

 振り返ってみるとやはり清人だったのだが――何故だろう侮蔑的な視線を感じる。

 俺が訝しんでいるとそのままドアは閉じられた。


 どうしたのかと思い自分の様子を客観視し、愕然とする。

 先ず、俺はアニから腕を引き抜く為に当然アニの方を向いていた。そしてドアは俺の背後にあった。更に付け加えれば引き抜いた直後故に手の位置はアニの胸部に程近い場所にあった。


 つまり……これ、背後から見たら自分の部屋に女の子を連れ込んだ挙げ句胸を揉もうと画策する悪漢に見えるのでは?


「っ!!」


 これは初手から選択をミスったかと思いながら俺は清人の後を追った。


不審者ムーブをかまして誤解される主人公。


あ、次回からはシリアスに戻ります。多分。めいびー。

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