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幻想旅団Brave and pumpkin  作者: 睦月スバル
Report5.5
166/257

Continue【5.5】

 ――そして遂に出立の日が来た。


 唯の家から出るとそこには既に仲間たちが全員集合していた。

 そんな中振り返りながら赤い屋根の家を見遣る。最初はとんでもないモンスターハウスと思っていたが今では立派な皆の家だ。何というか、ホームと言えば良いのだろうか。そこを離れるのは何だか少し名残惜しい気がする。


「人の家占領しといて感想がそれってあんまりだと思うのだけど」


「まぁ、そうだよな常識的に考えて。元々俺の傷の治療でそのまま置いておいてくれてたところに勝手に居ついた訳だしな。その……すまない」


 そう言うと唯はそっぽを向くと「まぁ、別に良いけど」なんて事を呟いた。

 彼女は短い期間だったが随分と変わった。素直じゃないところは相変わらずだがトゲが抜けて幾分か丸くなった気がする。……きっと彼女自身は認めないだろうけども。


 次いで仲間たちの方を向く。

 朝日に照らされる仲間達はまるで歴戦の古兵のような顔付きをしていて、そんな仲間達と旅に出られる事が心から誇らしく思えた。

 と――。


「……そう言えば、今更なんやけど旅団旅団言うてるけど正式な名前とか全く決めてなかったよな」


「確かにそうだな。無名の旅団と言うのも格好も付かない。……団長、出立直前だが何かささっと旅団の名前をつけてはくれまいか?」


 凩と篝が今更過ぎる事を言い始めた。


「……出立直前でそれを言っちゃうかぁ」


 スターダストクルセイダースの出発のシーンみたく『行くぞ!』からの『バーン』って流れがやりたかっただけにここで躓くとのは何か悲しい。あれも人生で一度はやってみたい人は多いと思う。……多いよな?

 とは言えずっと無名でやって来て今更何か思い付けと言うのも難しい。

 視線でアニに助力を訴えると。


「ん、がんば」


 サムズアップを決めながら笑顔で突っぱねられた。畜生、可愛い。


『ふむ、ではお前の記憶にあった幻影旅――』


「それは駄目だ」


 何か危険な事を言いそうになったオルクィンジェの言葉を遮る。幾ら異世界とは言えそのネーミングは色々と不味い。ぐぬぬと唸ってもNGなものはNGだ。


「とは言え代案がないからなぁ……。幻影、ファンタジー異世界……うーん」


 そう悩んでいると突如救いの手が差し伸べられた。


「なら『幻想旅団ファンタジー・ウォーカー』はどうかしら。ファンタジー異世界を歩く旅団。私たちにちょうどピッタリだと思うのだけれど」


 ……まさかの横文字だった。

 ハザミペアに伝わっているかを確認してみると案の定首を傾げながら「ふぁんたじぃ、うぉーかぁ?」と頭の上に大量の疑問符を浮かべている。だけどもジャックからは好評だったようで久しく見なかった蔓で大きな輪を作って「goodかな!」だなんてはしゃいでいる。


「団長、ふぁんたじぃうぉーかぁと言うのは一体如何なる意味なのだ?」


「えっと、幻想の世界を歩く、みたいな感じ……だよな」


 と言うと視界の端で唯がドヤと良い顔をしているのが見えた。やっぱり唯の趣味って若干あれな気がする。いや、口には出さないし、寧ろそう言うのは俺も好きだけども。


「成る程、良い名前だな。凩はどうだ?」


「幻想旅団……中々良いやないの」


「とは言っても『暴食』を倒したら旅は終わりだし、即解散とはならないとは思うけど長く使わないと思うぞ」


「名前は、大事」


 そう口にしたのはアニだった。彼女は名前を変えた過去があるだけにその言葉には説得力がある。……それに、そのつい最近名前が変わった事もあるし。


「そう、だったな。名前は重要だな」


「あんさん……」


 俺の盛大な掌返しに凩がジト目を向けて、言外に「アニに対して甘過ぎん?」と伝えてくる。……俺もそう思うよ、まったくもって。



「――さてと、じゃあ『幻想旅団』にとって最初で最後になるかもしれない旅路だ。目的地はネイファ。『暴食』をぶっ倒してバァンとォ!! ハッピーエンドを掴みに行くぞ!!」




♪ ♪ ♪




 人気のない墓地で狐の面を被った『暴食』は墓を暴いていた。


「今度こそ、俺が助けるんだ……今度こそ」


 玉のような汗を流しながら爪の中に泥が入るのも厭わず一心不乱に穴を掘る。


「助けるには犠牲が要る。助けるにはエネルギーが要る。助けるには食物が要る」


 ネイファは極貧を絵に描いたような場所だ。死体は基本土葬で燃やす事も無い。それが『暴食』にとっては非常に都合が良かった。墓を荒らせば必ず何処かには食べられる遺体があるから。


 彼は罪悪感を感じながらも食べる事を――罪過を重ねる事を止めない。


 それはもう少しでこの忌むべき蛮行を止められるから?


 ――違う。


 性根が『暴食』に染まったからか?


 ――違う。


 その答えはただ一つ。何を犯してでも叶えたい願いが出来たからだ。

 『暴食』は最初の『欠片』を取り込んだ瞬間に全てを知った。この世界が何なのか、ニャルラトホテプが一体何なのか。その全てを。


――『杉原叶人さん? ええ、勿論この世界に来ていますとも。()()()()()()に』



――『ふざけているのか? 失礼な。私はいつも本気で、且つ大真面目です』



 故に『暴食』は曇天の空の下、今日も人の成れの果てを喰らい続ける。

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