Continue【5】
注意!!
この話には以下の要素を含みます。
・前話レイプ
・主人公の最低過ぎる作戦概要
・失恋
「……唯、これは一体?」
「見て分からないかしら。これは罰よ」
所変わって唯の家。俺は『戦闘中に仲間を口説きました』と言うプレートを掛けられた上で廊下で正座させられていた。
「確かに言ったけどなぁ……」
違う、そうじゃないとぶうたれるがそれもこれも全部身から出た錆。反発出来よう筈もない。
そんな俺の姿を見て、唯とアニを除く仲間達は一様に苦笑を浮かべていた。
「一歩間違えば死ぬような戦いだったのだから、この程度のお咎めで済む事に感謝なさい」
「……そう、だな」
その言葉には確かな重みがあった。
もし。もし仮にアニが唯を庇って死んでしまったら。俺はどうなっていただろうか。そんな事を考えると背筋が冷たくなる。
それに、俺とアニの二人が一気に抜けた状態の戦闘で負傷者が出なかったのも幸運だった。あの雷撃の痛みは唯一当たった俺が一番良く知っている。あんなのをまともに食らったら良くて重傷は免れないだろう。
所詮仮定は仮定でしか無いけれどこの程度で済んだのは間違いなく幸運だった。
「言っておくけれど、お咎めが終わってもお説教が待っているから。食事が終わったら私の部屋に来なさい。異論反論口答えその他は一切聞かないから」
そう言うと唯はスタスタと食堂の方へ行ってしまった。唯手ずからの説教……一体どんな事を言われるのだろうか。
♪ ♪ ♪
食事を終えると俺は唯の部屋に向かった。
実のところ唯の説教についてあれこれと考えを巡らせていたからか食事の味は良く分からなかった。……まぁ、アニがいきなり「あーん」を実行して来て気が動転したと言うのもあるのだろうが。
そんな訳で唯の部屋の前に着いた俺はドアをコンコンとノックする。すると中から短く「どうぞ」と言う声が聞こえた。
ノブを回して部屋に入りーー銃口が、俺の額を捉えているのに気が付いた。
「良く来たわね、叶人」
「……これは何の冗談だ、唯」
そう尋ねるが唯の眼差しは真剣そのもの。これが冗談ではない事など容易に察せられた。
「誓って」
「……何をだ」
「私は貴方にこれから幾つかの質問を投げかけるわ。貴方はその答えに嘘も、欺瞞も、誤魔化しも介入させないと。そう誓って」
「……分かった。誓う」
そう言うと唯は銃を懐にしまった。
……多分、だが俺が誓うと言わなかったら『嫉妬』の権能で無理やり喋らせるつもりだったのだろう。想定を遥かに超える本気度合いに額が冷や汗でしっとりと濡れる。
「じゃあいきなり核心を突くけれど……貴方、本来だったら告白した後に何をする予定だったか聞かせてくれないかしら」
「なっ!?」
その意外な問いは、けれど俺が今一番されたくない類の質問だった。
……そう、俺の当初考えていた計画は実行したのよりも実は一行程だけ多いのだ。つまり言い換えれば俺は実行段階に於いてその一行程を行わないまま今に至っている。
「意外そうな顔ね。気付かないとでも思ったのかしら。ああ、それともYESかNOかで答えられる質問がお好みかしら。貴方はあの子に自分から嫌われようとした。それも、とても酷い方法で。違う?」
「……ああ。そうだ」
図星だった。
……作戦の本来の行程にはアニの中にある崇拝にも似た感情を消す為に自ら嫌われるような言動を取ると言うものが確かにあった。
「そして、貴方は以前私に罵って欲しいとも言った。しかも私が悪役にならないとも。つまり、私は悪役としてでは無く、悪人を裁く審判の役割を期待された。そうよね?」
首肯。
「あの子に確実に嫌われ、且つ私が罵ってもおかしくない盤面を作る方法。貴方は一体どんな事を仕出かそうとしてたのかしら」
バレている。そう思った。これは尋ねているのでは無い。答え合わせをさせられているのだ。
そこまで言うと唯は栗色の目を更に細めて俺を睨み付けた。
「古今東西女の敵には種類はあれど、異世界ならではの女の敵ってヤツが丁度あるわよね。例えばそう――ハーレム、とか」
「……。ああ、そうだ。俺はその後、本来だったら唯にも告白するつもりだった。そのタイミングで唯は俺を罵る。これが本来想定していた流れだ」
事実としてアニは俺に対して依存し、過大評価していた。では、過大評価と言う色眼鏡を取り払うにはどうすれば良いか。
簡単だ。現実を見せれば良い。コイツは告白した直ぐ後に他の女の子に告白して手酷く振られるようなとるに足らない男なのだと。そう思わせれば良い。
「最低ね」
「ああ、最低だ」
「でも本当に最低なのは、私に告白しようとした事じゃ無い。貴方は全く私を好きでも何でも無いのに告白をしようとした事、それが本当に最低最悪。そこが心底腹立たしいわ」
これが、俺の為そうとした本当の悪。
「えぇ、だから僭越ながら先手を打たせて貰ったわ。罵声としては上等でしょう? ねぇ『ロリコン』。かな子のキスもそうだけどそもそも告白する予定の相手がこれなら告白するタイミングを逃すのも当然よね」
「……そう、だな。悪い」
「いいえ、貴方が悪いと言うタイミングはまだよ。まだ貴方には余罪がある」
「余罪も何も俺は――」
「臆病な貴方は自分で自分の恋を誤魔化そうとした。そうでしょう」
……それだけは、言われたく無かった。
けれど唯は残酷にも突き付ける。それは皮肉にも俺が唯に望んだ役割――審判のようだった。
……俺は思った。俺なんぞが彼女の人生を背負えるのかと。アニの幸せを考えたら、もっと他に良い人が居るのではないかと。
俺は元は二重人格の片割れ。半人前未満の未熟者だ。それが、彼女の手を取って良いのか分からなかったのだ。だから、この方法を思い付いた。
彼女が幸せにさえなってくれるならばその相手は俺でなくても良いと。それがこの作戦の最後の真だ。
仕上げ、『アニの依存心を払拭する為に唯にも告白する』。本心は俺が彼女の隣に居て良いのか分からなかったから。何がアニにとっての幸せなのか、分からなかったから。
あの時アニは俺を分からずやと言った。その言葉は的を射ている。……俺は、何も分かってはいない。
「はぁ、これじゃあどっちが過大評価なのか分かったもんじゃないわね。良い、一度しか言わないから良く聞きなさい。あと歯を食いしばりなさい」
そう言うと唯は俺の頬を容赦なく拳で殴った。
「――自分で自分の恋を貶めてんじゃないわよッ!!」
殴られた頬が熱を発しながらジクジクと痛む。
「好きなら好きと胸を張りなさい! 他の全てを捨ててでもこれこそが恋だと思いっきり叫びなさいよ! 見ているだけで幸せなんて、そんなのただのの欺瞞じゃない!! それとも貴方の想いはその程度のものでしかなかったの? ねぇ、好きならば言ってみなさいよ! あの子が好きだって! 今!!」
俺は唯の激情に応じるように立ち上がると、負けじと叫んでいた。
「ッ――俺は、アニが大好きだっ!! ああ、作戦ではそうする予定だったさ! けど、気付いたんだよ、俺は自分を誤魔化せるほど器用じゃ無いし、それに、この感情が、激情が俺がアニ以外に告白する事を許さなかったんだよ!!」
「……はぁ。ま、ギリギリ及第点ってところかしら」
そう言うと唯は俺との距離を更に詰めた。お互いの息遣いを感じられてしまいそうな超至近距離。
また、殴られるのだろうかと考えたが唯は拳を作るような事はしなかった。その代わりに――。
「それと、これは私の意思表示」
殴ったのと逆の頬に柔らかな感触を感じ取った。
「……私は、それでも貴方が好きよ。だからこそ、言い訳の為じゃ無くて思わず本心の告白が出て来ちゃうくらい、貴方を私の魅力で骨抜きにしてやるんだから。覚悟しておきなさいよね」
「唯……」
「説教もとい尋問はここまで。……あの子が待ってるんでしょ。精々イチャついてなさい。その間にも私は色々と策を巡らせてるから」
彼女の目は何処までも真剣で、そして強かだった。だけれど彼女は気付いているのだろうか。
「……ああ、分かった」
俺は踵を返し、そのまま部屋を後にする。
唯は強い女の子だと思っていた。常に立ち竦む誰かの尻を蹴り上げる、そんな強さのある女の子だと。
けれど、違った。
「唯、気付いてたか。お前――――泣いてたんだぞ」
けれど俺は唯の涙を拭わない。
俺の心――恋がそれを決して許さない。
そう言えば生前は一時期異世界チーレム無双が流行っていたっけ。異世界に渡り、チートで無双して、カッコよく活躍して、ハーレムを作って。そんなありふれた、けれど現実では絶対にあり得ない夢物語達。
女の子を囲った上で皆幸せに。ああ、確かにそれは理想だ。だが現実そうはならない。片方を選ぶ事は片方を選ばないのと同じだし、何よりも――。
――俺は、きっと一人しか愛せない。
我ながら下衆な話だが唯とアニの二人と一緒に暮らす未来を考えようとした事がある。だが、出来なかった。
想像の中ですら俺が付き合うのは決まってどちらか片方だけ。
俺は小さな受け皿でしかないのだと思い知った。ライトノベルの主人公達みたいな懐が杯や樽レベルで広い男にはなれないのだと。たった一人分の容量が入るギリギリの小さな受け皿、それが俺だ。
「叶人」
名前を呼ばれて振り向くと、そこにはアニが居た。
「……良かったの?」
その良かったの、にどんな思いが込められているのか分からない。
けれど俺はこう答える。
「ああ。俺に後悔は無い」
俺は俺なりの答えを出した。
自信がないながらも、捻り出した嘘偽りの無い俺の告白。それを反故にする気はさらさら無い。
彼女と共に戦い、生きる。
俺はもう彼女を守るだなんて事は言わないだろう。
ただその代わりに側に立ち、戦い続けよう。
「それに、もう俺は番なんだろ?」
臆病で、卑屈で、分からずやな俺だが、それでも好きだと一番最初に言ってくれた彼女の為に。
「ん!」
だから、『暴食』を倒してこの旅を終わらせよう。
♪ ♪ ♪
薄暗い部屋の中、ジャックは一人呟いていた。
「終わりだねぇ……」
いつもの陽気さは鳴りを潜め、代わりに哀愁ばかりを漂わせている。
終わり。その意味するところを叶人達はまだ知らない。
「もう終わっちゃうんだねぇ。この関係も、何もかもが」
ジャックは嫌いでは無かった。この世界も、この旅も。いや、寧ろこの旅はジャックにとって掛け替えの無い時間で、好ましいとすら思っていた。
それだけに惜しかった。
「……みんな怒るかなぁ」
この旅の最果て、それを伝えたら仲間達から一体どんな反応が返ってくるのか。それを想像するとどうにも胸が塞いだ。
はい、これにてアニ編は終了です。長かった……。そして兎に角スランプにハマる回数が多い章だった……。
さて、今回の主人公の作戦概要は以下の通り。
作戦を考え始めた動機→アニに好意を伝えたかった/今のアニが痛々しくて見ていられなかったから
名前を変える云々→告白をする為の理由が欲しかったから無理やりこじ付けた
ライガに戦闘をふっかけた理由→好意を伝えられるような場面が欲しかったから/素面だと余りにも恥ずかしいから
唯にも告白する→建前はアニの依存心を払拭したかったから。本音は自分に自信が無かったから誤魔化そうとした。/しかし告白した時点でこれをする気が無くなった。
これが作戦の全貌です。
因みに実はこの章でヒロインの分岐がありました。
それは今のアニを否定するか肯定するか。
ここで『そうだな』(肯定する)を選ぶと唯√に進みます。
この√になると次の章がかなりエゲツない事になります。




