Goodbye Days【2】
昼になると凩とジャックを引き連れて大森林を出てロウファに戻り森に現れたと言うモンスターの情報収集に向かった。
くどいようだが、俺の作戦はシチュエーション重視であり前提として『苦戦するけどギリギリ倒せる敵』の存在が必須となる。苦戦するだけして勝てないのは敵は駄目だし、重症や人死が出るような敵は論外だ。今回は避けれる戦闘であるだけにそこは徹底しなければならない。
さて、という訳で聞き込みを開始したのだがーー。
「まさかこれ程とは思わなかったかな」
「……ほんに、そうやの」
ロウファでの聞き込みを開始しておよそ二時間。俺たちは呆然と立ち尽くしていた。
端的に何が起きたのか言おう。
何の成果も!! 得られませんでした!!
考え得る最悪のパターンに近付いているような気がして背筋が冷える。
そう、モンスターについて余りにも情報が無いのだ。辛うじて手に入ったのが『モンスター討伐隊が数度組まれる事はあったが一人残らず帰ってこなかった』と言う情報のみ。危険なのは分かるが具体的に何処が危険なのかさっぱりだ。こんな状況で作戦を続行しようと言うのは流石に無謀過ぎる。
「……これは止めにして他の作戦を考えるべきか」
しかし、とも思う。態々あの性悪邪神が『暴食』を引き止めてあると明言したのだ。ゲームマスターを自称し、世界をゲームだと言い切ったあの邪神がだ。
その意図は明白、その方が楽しいから。では逆につまらない事とはなんだろうか。それもまた明白。
何も進まないゲーム。奴は報酬だと言ったがその実停滞を防ぎたかったのだ。つまらないから。
となると『怠惰』の急襲もーー『お前らが動かないようならこちらから盤面を動かすぞ』と言う警告のようにも思えて来る。
……流石にこれは考え過ぎだろうか?
だが、ニャルの意図とか関係無しに……俺は、なるべく早くこの一件をとうにかしたい。
まぁ、取っ掛かりが無いことには何もーー。
「あんさん! 薬草取りの一人がモンスターの姿を見たって言うてたぞ!!」
「良しッ!!」
どうやら、神様も退屈はお嫌いらしい。
♪ ♪ ♪
凩に促されるまま向かった先は前に一度停まったと事のある宿屋だった。アニを前にボロ泣きした記憶があるからよく覚えている。人間、恥ずかしい事ばかり忘れられないから困り物だ。……まぁ、だからと言ってストンと忘れてしまう気も無いのだが。
閑話休題、宿屋の店主さんに話を通してどうにか薬草取りの男性に御目通りが叶った。
「……ボウズ達か。あのバケモンに歯向かおうって言う命知らずは」
思いの外強面な薬草取りの男性は開口一番にそう言った。
「歯向かうかどうかはそのモンスターの正体次第としか言え、ません」
「へっ、正体次第? 馬鹿言え、良いかアレは災害だ。あれはな、ライガだ。それもただのライガじゃねぇ。亜種だ」
「……ライガ?」
ライガと言われても全く分からない。ギルドカードの討伐欄に載っていた覚えも無いし恐らく初遭遇のモンスターだろう。
「知らないって顔だな。良いか、ライガってのはとんでもなく凶悪で、ドデカい獅子だ。速いし、力も強い。爪に当たりゃあ鎧だって簡単に裂けるし、牙に捕まりゃ人生オシマイ。下手したら突進だけで心臓が止まる」
「成る程……」
雑に強い、と言うのが正直な印象だった。単純な力比べになったら苦戦を強いられるだろう。機動力に富んでいるようだし、如何にして足を奪うかが重要になりそうだ。
「それに加えてヤツは魔法も使って来る」
「何やて!?」
「ここには本来居ない筈のライガ。それも魔法も使える亜種だぜ? 皆んな眉唾物だって言って取り合わねぇ。どころか狂人扱いされる始末だ。けどそりゃあタチの悪い事に事実なんだよ。なぁ、ボウズ達。お前達は信じるか? 信じられるか?」
そう言うと薬草取りは真剣な眼差しをこちらに向けて来た。
俺の言う言葉は一つ。
「あり得ない事はあり得ない。俺は信じ、ます」
元よりこんな一部分を後付けでゲームにしたみたいな世界がある位なのだ。その位であり得ないなどと言う訳が無い。
「そうかい。……それで? それでも倒す気は残っているのか?」
「ああ、退く気は無い」
「……そうか。なら、コイツを持って行くと良い」
そう言うと薬草取りの男性は自分のバックを漁ると手のひらサイズの球体を二つ程寄越した。
「それは臭い玉。投げ付けると激臭を撒き散らすとんでもない代物だ。ライガは鼻が良いから良く効くだろう。一瞬意識を逸らすには丁度良い。実際、俺が逃げ帰る時にも重宝した」
「ありがとうございます」
「ああ、あと最後に一つ良いか?」
「何ですか?」
「お前、最後の最後、敬語外れて素が出てたぞ」
そう言うと薬草取りの男性はニッとしたり顔をした。




