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幻想旅団Brave and pumpkin  作者: 睦月スバル
Report5:Rebuild
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Handout【After the warmth goes out】

久しぶりに業の深いお二人の登場だ!


……コイツら八舞姉妹かよ。

 俺は考え事してる途中で寝落ちしてしまった。いつから寝落ちしたかは分からないが自分が寝た事は覚えている。

 だから断言しよう。これは、夢だ。


 辺りを見回せば、そこは見慣れた日本の愛すべき我が家の一室。ゲームソフトやラノベ、漫画、DVDエトセトラ、そんな物が乱雑に積み重なる俺と清人の要塞だった。ただ、俺が転生を経験するよりも大分前のと言う但し書きが付くが。


「随分とまた懐かしいと言うか何というか……」


 俺は現実逃避の為にその手のものをしこたま買い込んでいたのだが、最新のーー異世界転生を経験する直前辺りに買った作品だけがまるっと見当たらない。その代わりとばかりにやや古めの名作達、俺と清人が好んで見たものが溢れかえっていた。

 僅かに六年しか生きていない俺ではあるがその様子には懐かしさが感じられる。


「へぇ、異世界来てからご無沙汰だったけど久しぶりに見たいなコレとかコレとか」


 仲間と一緒に上映会とかが出来たら楽しいかも知れない、なんて事を思いながら机を覗くと。ソレが、置いてあった。


「コレ、確か俺がプレゼントした……」


 苦々しい思い出が頭を過ぎる。

 ソレは俺が消える前に清人にプレゼントした花のアクセサリーだった。何故こんな物をプレゼントしたのか、その意図は自分でもよく分からない。

 本当、なんでこんな物を……。


 そんな部屋に一人の青年が入って来た。外ハネの特徴的なウルフカットの黒髪、線の細い輪郭に、自己主張の激しい目の下のクマーー。


「おっ、清人ーー」


 それは、確かに杉原清人だった。

 清人が生きている。ただそれだけで歓喜が胸から溢れて止まらない。


 だが、歓喜は一瞬だった。


「きよ、と?」


 濃いクマがあり暗い表情をする清人は人間では無く幽鬼のような有り様をしていた。


 ーーあり得ない。


 清人は精神的な安定を得た。だから、こんなに黒々としたクマなんてできよう筈がない。いや、クマが出来るのはまだ分かる。深夜アニメを見ればクマは出来るのだから。だがーーそれならば何故清人は暗い顔をする必要がある?


「……清人、どうかしたのか?」


 そう尋ねるが返答は無い。いつも通りの完全不干渉消失は健在であるらしい。

 酷くもどかしい思いをしながら、けれども俺の口は止まらない。


「気分転換にアニメでも見ないか? 思いっきり泣けるヤツとか、さ。ほら、俺いつも言ってただろ。涙は心のデトックスだって。思いっきり泣いて、ご飯を食べて、グッスリ寝れば全部大丈夫だ」


 聞こえないと知りながらそうまくし立てる。けれどやはりもどかしい思いは消えてくれず、胸がどうしようもなく締め付けられる。

 だがーー現実って奴は何処までも想定を超えて最悪だった。


「叶人の馬鹿野郎ッ!!」


 俺は自分の耳を疑った。

 脳が理解を拒んだ。

 けれど悲痛なその声は過程をすっ飛ばして俺の心に結果のみを無慈悲に突きつける。


 『清人の異変の犯人は、お前だ』と。ゾクリと背筋が粟立つ。

 一体、俺が何をした?


「お前はいっつもそうだ! 自分本位で、俺の気持ちを理解しているようで肝心な事は一切理解してないッ!!」


「ーーぇ」


 俺に気付かない様子で清人は絶叫する。

 やっぱり夢だ。これは夢だ。こんなの現実な訳が無い。紛い物の妄想劇だ。



「……おいおい、おいおいおい。俺つい先日にも見たばっかだろ!」


 ()()()


 夢は夢でも、過去の夢と言うものを。

 では、これはーー俺が消えてからの後日譚? そう考えるとふに落ちる。けれど同時に言い様の無い恐怖が押し寄せてくる。


 ーーだって最終的に清人は消えたのだから。


「俺が精神的に安定した? 当たり前だろ……お前が居たから! 居てくれてたからッ!!」

 心が悲鳴を上げる。身体から力が抜けて、全身がが震える。


「お前が支えてくれたから大丈夫だって思えた。お前が隣に居てくれるなら過去を忘れて前に進めると思ったのに……ッ」


「……やめてくれ。お願いだから」


 ガチガチと歯の根が噛み合わない。いつの間にか視界がボヤけて震えが更に強くなっていく。


「お前が消えるのは知ってた! 分かってた! だから、新しい一歩を歩き出そうとしたんだ。なのに、なのにーー」


「頼む……お願いだから言わないでくれ」


 だが、俺の願いが聞き届けられる事は、無かった。


「どうして、頭の中にお前がチラついて離れない。離れないんだよぉ……!! 何処に行っても気づいたらお前を探してるんだ。なぁ、何処にいるんだよ叶人!! 居るなら出てきてくれよ!!」


 清人は、泣いていた。

 唯が自殺した時以上の激情を吐露しながら。


「俺は、俺は……お前が居ないと、寂しいんだよ。いつもそうだ、唯も、お前も、俺は無くしてから気付くんだ。いつもいつもいつもいつもいつも!! 大切なものをこそを取りこぼす!!」


 清人の心は治ってなどいなかった。

 ……俺のやった事は逃避を促す事だけ。アフターケアも何も無し。焦点をボカし、論点をズラし、騙し騙し社会に慣れさせ、挙句放り投げて消えた。ただそれだけ。根本的な解決に至るような事は、何一つしていない。

 その事実に頭の中が真っ白に染まる。


 それに、元々俺が隣に居たからこその心の安定だったのだ。だから俺が消えれば破綻する。心の何処かでは最初から理解していた筈だ。

 俺が側に居ればいる程、俺が抜けた時の穴は大きくなる。だから、より深く心を抉り、引き裂く結果になった。


「なぁ、叶人。もし、もしさ。俺が死んで、お前が生きていたらどうなってだんだろうな。俺的には、さ。お前の事だから、沢山の友達作って、他の人にお節介焼きながら楽しく生きれたと思うんだよ」


「……」


「……俺さ、お前と出会って色々な楽しみを知ったけどさ。お前が居ないと全部灰色に見えるんだ。だからさ、死にたいと……そう思っても良い、よな」


 頭から冷や水をぶっかけられたような衝撃が走った。

 だから消えたのか? 俺が中途半端な事をしたから消えたのか?


 分からない、分からない、分からない。


 けれどたった一つ。そんな俺でも分かる。


 ペテン師は、俺だった。

作中で一番悲しい二人でありましたー。


公開されたハンドアウト


清人:周囲のヘイトを買い、虐められた挙げ句実父による唯の強姦場面を目撃、唯に真意を問い質す間もなく唯が自殺。精神を極限まで病む。

叶人との生活で平穏を取り戻したかのように見えたが、その実叶人に寄り掛かっていただけに過ぎず僅か数日で破綻した。叶人に生きて欲しかった。←NEW‼︎


叶人:清人の生み出したもう一人の人格。痛みを代替し、清人を守る隣人。清人が消失して以降、高校、大学を守るべき対象である『杉原清人』として振る舞う羽目になり酷く苦悩する。清人には幸せになって欲しかった。

良かれと思っての行動が裏目に出て結果的に清人の傷を広げる結果になり、自分が消失の一因になってしまったと考えている←NEW‼︎


但し、これは主人公視点の主観でしかないから……ね♪

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