Want to be lover【Ⅴ】
異世界転生、ヒロイン二人、何も起きない筈もなくーー。
同情は、不要。
憐憫も不要。
恐れも、恥も、外聞すらも不要。
「さて、どうする……と聞くのは野暮か。どうやら相当覚悟を決めているらしいな」
「ああ、最初からやる事は決まってる。それにヒントは得た。……そして俺は全部を丸く収める手法を思い付いた。なら迷う必要は無い。そうだろう?」
「……成る程。ならば俺はもう口を出すまい。その計画とやらが成功する事を祈ろう」
オルクィンジェはそう言うとベッドに身体を放った。随分と疲れた様子だった。追体験もそうそう簡単なものでも無いらしい。
とは言えーーピースは揃った。そして完成させるべき図形を知った。答えを得た。なら後はその精度を上げるだけで良い。
先ずアニが変わってしまった原因。これは罪悪感からだ。師匠を死なせてしまった過去を俺と重ねてしまっている。……きっと彼女は不安なのだ。自分の失態で誰かを傷付けてはしまいかが。アニは優しい子だ。そしてとても不器用な子でもある。だから、傷付けまいと距離を取る。それこそアニだけが欠けた現状がそれを証明している。まるでヤマアラシのジレンマだ。
次に俺のやるべき事。罪悪感の否定。そしてアニの変革。罪悪感を拭うのは当然としてアニの心の持ちようを根本的に変えなければまたアニが失敗した時にもこれはきっと再発する。一回きりの対処療法ではあまり意味が無いだろう。必要なのは革新的メタモルフォーゼ……。
そしてその手法。……アラクネはどうやら名前を重んずる性質があるらしい。ならばそれを利用しよう。みすぼらしい薄桃の少女がアラクニドに変化したように。アラクニドがアニに変化したように。これで変化を促す。で、罪悪感に関してはもっと簡単だ。俺を下げれば良い。俺が『罪悪感を感じる必要性が感じられ無い程のクズ』になれば罪悪感は払拭出来る。
ではその二つを同時に行える作戦とは? ……当然ある。たった一つだけ。『俺がとんでもないクズになり、尚且つアニの意識を丸ごと改革出来る』作戦が。
幸い俺には一人、めちゃくちゃ心強い共犯者に心当たりがある。彼女がいれば成功率はかなり高いと踏んでいる。
そして最後にーー俺の気持ち。
俺は何故アニを助けたいのか。
これまでは大体『俺のエゴだ』と言いながらも他人を助けて来た。けど、このケースだけは話が別だ。
だってそうだろう? 俺は美少女が甲斐甲斐しくお世話してくれるルートを歩みつつあるのだ。それ自体に不満がある訳が無い。酷い掌返しだが俺も男だ。悪い気はしない。だが、それがダメな理由ーー。
「ふぅ」
大きく息を吐く。
今から行う予定の作戦はきっとこの世で最も健全な男児のヘイトを買うものになるだろう。だってそれは共犯者の心情すら利用する正にド畜生の所業なのだから。
ここは異世界。そう、異世界だ。少なくとも日本では無い。
これが免罪符にならない事は分かっている。個人的な欲求だと知っている。
けれど俺はここに宣言しよう。
「ーー俺の作戦を以て、アニの悪夢を打ち破る……!」
♪ ♪ ♪
善は急げと、俺は早速行動を開始した。オルクィンジェに毛布を掛けると部屋を出てまた別の部屋に向かった。高嶋唯の部屋に。
「あら、何か用かしら叶人」
この期に及んで罪悪感が鎌首をもたげる。だが、ここで言わなくては進まない。
「頼みたいことがある」
「何かしら」
「まだタイミングは考えてないんだけども……」
だが、そこから先が言えない。みっともなく黙ってしまう。
「けど、何?」
何処か冷たい視線が俺を射抜く。……ええいままよ!
「ーー俺を口汚く罵ってくれッッ!!」
……あれ、何か違くない?
いや、内容はニアリーなんだけども。いや、ニアリーな時点でかなり頭がおかしいのだが。
「……は?」
唯の絶対零度の視線が、とても胸に痛かった。
さてさて、叶人はどんな作戦を練ったのでしょうか。何だか嫌な予感がしますね。
ネクスト・ブレパンヒント!
異 世 界 転 生




