Want to be lover【Ⅲ】
あと少しでいつもの書き方に戻れるぞ……。
魔獣と戦う事。それは誰かの絶望に触れるという事。現実に苦悩し、悲嘆に暮れる者たちの心からの叫びは無意識のうちに肉体に、そして精神に刷り込まれていく。
魔獣との戦闘の一度や二度なら何ら変化は無いかもしれない。では、五回、十回、それ以上なら?
積もり積もった汚泥のような感情は他の感情を捻じ曲げながら魔獣への変化を促していく。
それはまるで、同じ傷を舐め合える仲間を求めるかのように。
今そこには今正に絶望に絡め取られようとしている一人の少女がいた。
彼女はーーアラクニドは執着を持てない事に苦悩し、執着出来るものを見つける事に腐心した。そしていつしか執着するものを探す事に執着し、挙句に大切な物を手に入れたらしい師匠に嫉妬した。
ああ、何と愚かしい事だろう。綺麗な程に手段と目的が逆転してしまっている。何という本末転倒。
「い、や……いやぁ」
アラクニドは喉元から迫り上がる悲鳴を堪えるような事はしなかった。
今のアラクニドは短剣を取り落としてこそいないもののその身体は小刻みに震え、目尻には涙が溜まっている。戦闘の継続は不可能。しかし、ハザミの夜には『待った』など無い。
「諢壹°縺ェ縺雁ャ縺。繧?s?√??荳?邱偵↓驕翫⊂縺?h?!!」
新たなる同胞を歓迎するかのように魔獣達は喝采しーー。
「うっさいんじゃボケェッ!!」
轟音と共に吹き飛ぶ。
もうもうと立ち込める土煙の中から姿を現したのは目の覚めるような美しい黄金の髪。そして異形の下半身だった。
「し、しょう……」
「大丈夫か!? 怪我はないか!?」
師匠は即座にアラクニドに近寄るとすぐさま穴が開きそうなほどアラクニドに注視し、手の甲で視線が止まる。
「ししょ、違、これはーー」
「絶望、か。……ってなるとアラクニドにも『とくべつ』な物が見つかったって事か。何だか妬けるな」
「違うッ!! 見つからない!! ずっとずっと見つかって、ない!!」
「……となると何だ、執着するものを探した結果、執着する物を探す事に執着しちまったってかぁ。恋に恋すると言うか、ミイラ取りがミイラになるって言うか……まぁ、ただコレは言わせて貰おっか」
パァンと乾いた音が響いた。
師匠は力一杯、容赦無くアラクニドの頬をぶったのだ。
「ーーこの馬鹿弟子がぁッ!!」
焼け付くような痛みが頬を走る。
視界がボヤけ平衡感覚が曖昧になる。そんな中師匠の顔を見上げると、その顔が険しく歪んでいるのがわかった。
「……アタシがどんだけ時間を掛けて答え出したと思ってんだ。アタシがどんだけ探したと思ってんだ。少なくともお前が特別なもんを見つけるには十年早い。それに何だ、切羽詰まってんのに一人で結論出したいってか? 馬鹿が。頼れよ!! アタシはお前の師匠なんだぞ!!」
これまで、一度たりとも無かった。師匠がここまで怒りを露わにした事は。ただの一度も。
「それとも迷惑掛かるとでも思ったのか? もう既に迷惑なんて散々掛けてんだから今更だろうが!」
「……っ」
打たれた頬はジクジクと痛む。けれど瘴気を吹き出す手の甲はいつの間にか鎮まっていた。
「ほら、さっさとケリつけて宿に帰るぞ。そんで寝て起きたら説教三昧だ。分かったか」
「……ん!」
そう言うと師匠は四方八方に糸を張り巡らせた。それは『操糸闘法』の真髄にして最奥『絶対拒絶封糸』だった。
アラクネの戦闘スタイルは独特だ。純粋な力だけで見れば他の亜人に劣り、敏捷性は高いもののアラクネ以上に敏捷性の高い種族なんてゴロゴロいる。だがその代わりにアラクネには唯一の武器がある。それこそが糸を利用した戦闘術『操糸闘法』。
「縛り、食い込め」
張り巡らされた糸は魔獣達を瞬く間に拘束するとメリメリと身体に食い込み、遂にはサイコロステーキのように切り刻んで行く。
「蜿矩#縺梧ャイ縺励>縺ョ縺ォ繝!!」
一体の魔獣が師匠の不意を打とうと背後を狙うがーー。
「アタシに不意打ちが効くと思ったか馬鹿め」
師匠はノールックでその魔獣をあっさりと切り刻んだ。
『操糸闘法』。その主だった特徴はテリトリーの創造。幾重にも張り巡らされた糸は第六の感覚器官となり、幾ら巧妙に隠れようと一度それに触れてさえしまえばそれだけで位置が割れる。
故にアラクニドには不意打ちは効かない。
不意打ちが意味を成さない中、師匠は一方的に魔獣を屠り続ける。しかしながら万能でも、全能な訳でも無い。その不完全さを証明するかのように一体の魔獣が糸の包囲網を抜けて師匠に襲い掛かる。
一見完璧のように見える『操糸闘法』にも相性の面で不利になる敵、即ち天敵が存在するのだ。
「チッ、今日は運が無いなぁオイ」
師匠は己の天敵の到来に舌打ちする。『操糸闘法』の天敵、糸を気にせず前に進めるだけの強い力を持つ敵だ。
ブチブチと嫌な音を立てながら糸が千切れる。勿論相手の魔獣も無傷とは言え無いが状況はかなり不味い。
何よりも一部とは言え糸の無い地帯が生まれたのが問題だった。穴があるならそこに魔獣が雪崩れ込むのは自明の理。
「し、しょ!!」
暫く惚けたように座り込んでいたアラクニドも空いた穴を塞ごうと糸を放つがそれも容易に断ち切られる。
アラクニドは師匠の短剣を使う事で糸の放出を可能にしている。しかしそれだけだ。幾ら『操糸闘法』に適応していよとはいえど種族上アラクネ並みの硬度を誇る糸を吐き出す事は、出来ない。
「畜生がァァァッッ!!」
闇夜に絶叫が響いた。
アラクニドが結構アレな感じになっております……。
私はチョロインになるには相応の理由があって然るべきだと思うんすよ。
やらかした分の反動と言うか。
何が言いたいのかと言うと、チョロインこそ病みが深い方が良い。(極めて個人的な感想)つまりなろう系ヒロインは総じてヤンデレになる潜在的な素質がある。




