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Restart【2】

「清人遅いねぇ……ステータスが低過ぎてストレスで下痢になってたりしないか微妙に不安かも」


 ジャックは受付近くで清人の便所を待っていた。……のだが肝心の清人の便所が中々長い。

 仕方が無いかと清人のどのステータスが低いのか予想する。


 ステータスは全部で九つで成り立っている。

 筋力を示し近接戦のダメージに関連するSTR、負傷や攻撃に対する抵抗力CON、身長を表すSIZ、物事の分析力の高さを表すINT、魔法の素養を表すPOW、そして敏捷を表すDEXに見た目のAPPと知識を表すEDU。そして正気度を表すSAN。


 この中で清人が低そうなステータスは……案外多そうな気がする。

 清人は筋骨隆々でもないからSTRは高くは無さそうだし、エリオット戦で簡単に足首を捻ったからCONも低そうだ。身長は平均よりやや高いからSIZが低い事はないだろう。物事の分析力は……まだ推し量れない。でも、まあ悲観するほど低くは無いはずだ。EDUも同様。魔術の素養は高いからPOWは高そう。敏捷は……エリオット戦で足首捻っていたからこれも分からない。エリオットに比べれば素で大分低いのは何となく分かるが。で、見た目は普通。


「あー……分かったかも。清人の低いステータス」


 ジャックは一人で納得する。

 清人の低そうなステータス筆頭、それはSANだ。

 POWが高いならSANも高いはずだが精神的に負荷が掛かれば当然低くなる。

 急な異世界転移に加え『魔王』を内に秘めている清人は低くてもおかしな点は無い。


『現在、この体には俺と宿主の二つの魂が同居している……そう考えてみろ。となるとどうなると思う?』


『そう、同じ肉体の中に常に他人が入り込むとその分窮屈になる。俺はともかく……そのストレスが常人に耐えられるものとは到底思えないけどな』


 SANを犠牲にして今の状況を保っているなら『魔王』についても一応の説明が付く。


「清人が低いのはSANかぁ…。まあご愁傷様だねぇ」


 と――やっとトイレを終えたのか清人が歩いて来た。

 だが、その足取りはトイレに入る前よりも力強く見える。


「清人遅かったねぇ……ん?」


 直観が眼前の人物が杉原清人ではないと告げる。

 空虚な瞳、自身に溢れる態度。清人とは違う内側から漏れ出る何処までも冷たい、殺伐とした空気。


「『魔王』……何で?」


「宿主が大分弱ってしまったからな。代わりに俺が出た訳だ。文句はあるか?」


 文句があるわけではない。だが、『どうして『魔王』がそこまで清人を気に掛けるのか』が分からなかった。

 世界を滅ぼそうとする『魔王』ならば肉体を奪って好き勝手に行動しそうなものなのに『魔王』はそういった素振りは今のところ見せていない。


「無いけど……」


 何だか気味の悪い感じがした。

 ヘカテから渡された『欠片』がこの『魔王』だった事も、その『魔王』が清人を気に掛ける事も。理解の範疇を超えている。


「……そう言えば君は何でこの世界を滅ぼそうとしてるんだい?」


「それが主から賜った俺の使命だからだ。ああ、それ以外にも個人的な復讐というのもあるか」


「主だって? それに使命って、まさか君は――」


 ジャックは主が何であるかを知っている。

 異界『イデア』に君臨するとされている高次の神格だ。なんでも彼の姿は誰からも観測された事は無いが、誰もが彼に逆らえないらしい。

 そしてその主が自らの意思を代行させる存在がある事もジャックは知っていた。


「――『天使セラフィム』?」


 『天使セラフィム』。

 それは主の意志の代行者にして絶対的な力の象徴。玉座に座る主に代わり正義を執行する者達だ。

 眼前の『魔王』を名乗る清人の体を借りた男は数ある『天使セラフィム』の内の一体とみてまず間違いない。


 だが、そんな存在ががどうして世界を滅ぼすのかが理解出来ない。寧ろ『天使セラフィム』は世界を守る側ではないのか。疑問が脳裏を過ぎる。


「どうやら少し喋り過ぎたらしいな」


「どういう事かな。『天使セラフィム』が世界を滅ぼすなんて。そんな事――」


「有り得ない、か?」


 その言葉の先を読んだ様に悪意の『天使セラフィム』は告げる。


「しかし事実としてそうだ。……ああ、宿主の頭に丁度良い言葉があるな。『()()()()()()()()()()()』。どれだけ理屈がおかしくともそれが事実として起きている以上それは有り得ないと言う事は無い」


 それを聞いてジャックは絶句する。

 何だこの天使は、と。

 通常『天使セラフィム』は言語能力こそ有するものの感情が希薄であり主命が無ければ動く事は無い――言ってしまえば主の傀儡に過ぎない。

 だからこそ最初に見た時に即座にそうだと思わなかった。しかし、改めて肯定された今ですら信じ難いものが残る。


「……僕は世界を歩く人を導く案内人。けど、その前提を、世界を滅ぼすって言うのなら僕にも考えがあるかな」


「どうやらお前は盛大な勘違いをしているらしい。手段と結果がまるであべこべだ」


「あべこべ?」


「ふむ、察しが悪いな。しかし態々訂正を入れる必要もあるまい。お前は愚直に『欠片』を集めていればそれで良い」


公開されたハンドアウト

・魔王の正体2=『天使』

・旅の結末


公開されていないハンドアウト

・なぜ主はこの世界を滅ぼすように『魔王』に命じたのか

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