Want to be lover【Ⅰ】
短めだが構わねぇ! 出しちまえ!!
あ、時系列的には前話と同時進行の主人公サイドです。
眼下には深い青が広がっていた。
アニと師匠が漂流する事数日、漸く辿り着いたのはハザミに程近い離島の内の一つだった。
カサカサと蜘蛛の脚をバタつかせながら歓喜する師匠とは裏腹に俺の気分はどんどんと沈んで行く。
何故なら、このハザミこそが師匠の死場所なのだと知っているから。
「……」
「震えているのか」
「ああ、こっから先は夢でフラゲしたからな」
所詮は夢、空想に過ぎないのだと、そう思いたかった。だが、あのリアリティが頭にこびりついて離れてくれない。
アニの悲痛な表情が、匂い立つ臭気が、積み上がり築かれた屍山血河が突きつけるのだ。『これは現実だ』と。
それが避け得ない喪失だと知っている。どうやっても救えない影法師だと分かっている。いざその様を見せつけられるのだと思うと恐怖で体が竦む。
「くどいようだが、止めたとしても誰も咎めはしない。……それに、既にパズルのピースは揃っている。正直、これ以上先を見るのはメリットよりもデメリットの方が遥かに上回る。賢い人間ならばここが打ち止め時だと理解出来るだろうな」
「そうかも、知れないな」
……けれど、俺は知りたかった。
確かに沢山のヒントが目の前に提示されている。仲間達と顔を突き合わせて悩めば効果的な策の一つや二つなんて容易に作り出せるだろう。極論、この先を見続けるメリットは驚く程少ない。これ以上を見る積極的な理由が見つからない。
俺は『アニの人格を否定する』と言う目的の為に『過去を追体験する』と言う手段を取った。そしてその目的は既に達成された。
ならばこれ以上を見る事望むのならーーその瞬間手段と目的が逆転する。
……じゃあ、俺は何故知りたいのだろうか。
「悪を成すのだから自分には最後まで見る義務があると。そう考えているのならそれは大きな間違いだ。人格の否定。成る程それは確かに悪だ。だが最後まで付き合わなければならない道理は無い。悪に義理や道理を求めるなど滑稽だろう?」
負う必要の無くなったリスクを負ってまでアニの過去を詮索したい理由。それはオルクィンジェの言うような義理や道理なんかでは無い筈だ。もっと個人的で、もっと身勝手な理由ーー。
『ねぇ、ししょー。ししょーは『とくべつ』、見つけれた?』
……。
…………ああ、理解した。
「オルクィンジェ、最初の予定通り打ち止めは無しだ。初志貫徹、最後まで付き合ってくれ」
そもそも俺は何故今のアニを好ましく無いと感じたのか。戦闘に師匠が出るから? 仲間として対等じゃないから? 卑屈な態度が嫌だったから? ああ、どれもが正しい。けれどどれもが一番大きな理由では無い。
「ほう? それは何故か、理由を聞いても良いか」
今のアニの否定、そして過去を詮索したい欲求。その根底は全く同じ。ただ一つの最低な理由。
「それは言えない。正直言って、口に出したらその時点で罪悪感で軽く死ねる」
努めてキリッとした声色でそう返すとオルクィンジェは何やらニヤニヤと笑い始めた。
思えば名前の件であんなアイデアを考えていた位だ。だから、この帰結は当然と言えなくも無い。
……と言うか今サラッと思考をオルクィンジェに覗かれた様な気がしたのだが気のせいだろう。きっとその筈だ。恐らく、多分、めいびー、ぱはっぷす、あぶそりゅーとりぃ。
「では、最後の一幕とその後日譚を閲覧し続けるとしよう。なぁ最低で下衆な杉原叶人」
……バレテーラ。
このタイトル何回か見たと思われますが、地味に【】内が1からⅠに変わってます。
これは……。
公開されていないハンドアウト
・名前の時に思い付いたアイデア
・過去を詮索したい最低な理由




