Dependence【3Яe】
字数すっくね!?
うわぁ……これは酷い。
所変わり、俺と唯は一階の食堂に来ていた。朝はメンバーが勢揃いしていたのもあってそれなりに賑やかだったのだが今はふりしきる雨音だけが響いている。
窓際の席で雨に濡れる木々を見ているとコトリと目の前にカップが置かれる。
「コーヒー、入ったわよ」
「おお、ありがとう」
湯気の立つカップには地球では愛飲、とまではいかないが幾度となく飲んだものが入っている。ハザミでカレーうどんを既に目撃していたとはいえ地球のものと全く変わらないものが出てくると何だか郷愁みたいなものを感じてしみじみとした気分になるな……。
ただ、いつまでもノスタルジーに浸るのも良くないだろう。
「……それで話って何だ」
話を切り出す。
このタイミングでただのお茶会、と言う事はまず無いだろう。喧嘩、と言う訳では無いが唯が不和を抱えたままただただお茶を楽しむなんてのは経験則として絶対にあり得ない事を俺は知っている。
「本題に入る前に一口でも飲んだら如何かしら。一応お茶会の体なのだしせっかちは無粋とは思わない?」
「……まぁ、それもそうか」
勧められるがままコーヒーを口に含む。
こう言ってはなんだが俺にはコーヒーの風味の豊かさとか、香ばしさだとかはよく分からない。味音痴という訳では無いがインスタントのコーヒーと豆から挽いたコーヒーの違いすらも分からない有様だ。要するに味にそこまで頓着していない。けれど……これがホッとする味なのは分かる。
それに、何気に冷めるのを防ぐ為にカップがほんのり温めてあるところからも気遣いの心が窺える。正に心温まる一杯ってやつだ。
「如何かしら?」
「……美味しい。何というかこう、ホッとする味だ」
「そう」と返答する彼女の顔は何処か優しげで一眼見てドキッとさせられる。
「さて、叶人。聞きたい事があるのだけどーーアニだったかしら。あの子、元からああだったのかしら」
「……違う。少なくとも俺が刺される前までは違かった。表情は少し硬かったけど、それでもきちんと感情があって、普通の女の子だった」
「成る程。となると……私の責任でもあるって訳ね」
「どう言う事だ?」
そう尋ねると唯は何処からか一丁よ飾り気のない無骨な拳銃……ジョウキキカン銃を取り出した。
「私の能力については知ってるわよね?」
「ああ、名前は『嫉妬』で精神操作とかデバフを与える能力だったよな」
「概ね正解。正確には一人につき三発まで相手にとってとても厄介なデバフをばら撒ける優れモノなのだけど……多分あの子がここまで拗れたのはこの権能が一因かも知れないのよ」
「何だって?」
「……実は、あの子を捕まえる時に『恐怖の弾』を一発打ち込んでたのよ。『恐怖の弾』は恐怖を植え付けて行動を抑制するデバフ……なのだけど、それ以外にも副次的に恐怖を増幅する作用もあるの」
「恐怖を増幅……まさか」
頭の中の点と点が結ばれて一つの線になる。
『恐怖の弾』を撃ち込まれ、捕まったアニ。そして、そのアニが取った次の行動は? そしてその結果は?
結ばれた線はーーしかし最悪な事実を照らし出す。
「俺を刺した時の恐怖がそのまま増幅したのか!」
俺を刺した時の『殺してしまったのではないかと言う恐怖』。それを『恐怖の弾』は増幅し、結果として過剰なまでの罪悪感と贖罪意識を生み出した。
「……その可能性は、大いにあるわ。とは言えこんなケースは初めてだから私としてもかなり困惑してるのだけど。そこで一つ聞きたいの。貴方はーー今のあの子を肯定する?」
「どう言う意味だ?」
「言葉通りよ。今のあの子はきっと貴方のどんな願いでも実現しようとするでしょう。今日みたいなバグはあれ、あの子は貴方にとって非常に都合の良い存在である事は確定的に明らか。そのままにしておくメリットはあると考えてる」
そう言う唯の目は真剣そのものだった。
「……ただ、これは私の失態。だからもし貴方が今のあの子に不満を持っているのなら、その時は最大限協力する事を約束するわ。だから、選んで」




