Guild【2】
画像の制作で時間がめっちゃかかった……。
二回目のギルドホールの扉に手を掛けると今回はどうやらツイていたようで開けた瞬間お通夜では無かった。
相変わらず人気のないエンゲルさんの列に加わると直ぐに順番が来た。
「よう。お前さんギルドに加入するって決めたのか?」
「はい」
エンゲルさんは無愛想に「そうかい」と言うと書類を受け取って受付の奥へと行って歩いて行った。
暫くして戻ってくるとその手には水晶が載っていた。
「これは?」
「これがギルドカードを発行するオーバーテクノロジーってやつだ。手をかざすと生体情報を読み込んでどういう訳かカードを発行してくれるんだ」
エンゲルさんの説明を聞きながら水晶を眺めてみる。完全に球形でここからカードが排出されると言われてもあまり実感が湧かない。
けれど何だか漸く異世界っぽくなって来た感じがして少しばかり頬が緩む。
そうそう、異世界はこんな風で良いのだ。ネガティヴやシリアスは要らないのだ。
「ほいっと」
水晶に手をかざすとニュウっとカードが浮き出て来た。……これを発行と言っても良いのだろうか。
まぁ、何がともあれこれで俺も異世界エンジョイ勢の一員と言う訳だ。死ぬ可能性が高くて殺伐としているけれど……あれ、やっぱりダメな気がして来た。
「これでお前さんもギルドの会員だ」
「ありがとうございます」
ギルドカードは見た目は普通の……クレジットカードみたいな感じか。いや、持ったこと無いから分からないけれど。
「ギルドカードに一回軽く触ってみな」
言われるままギルドカードをタッチしてみると視界が一瞬で変わった。
「!!」
冷や水をいきなりぶっ掛けられた気分だった。そこに浮かれた気分はもう無い。
寧ろ怖気すら覚えるほどだ。
目の前には会員ナンバー、レベル、性別……年齢、名前が表示されている。
それだけで俺の体はどうしようもなく震えた。
「視界が変わっただろう?それがメニュー画面だ。慣れないだろうがじきに慣れるさ」
「……ありがとうございます」
「どうした?ああ、まさかどっかのステータスが滅茶苦茶低いとかか?気にするな。レベルが上がれば少しずつでも上がっていくさ」
ああ、確かに一部の数字が突出して少なくなっている。けれどこれはきっとレベルがどうこうと言う話じゃない。
それはまるで、俺の存在を否定するかのようにずっと表示されたままになっている。
「めげずに頑張れよ新入り」
「あっ、はい」
表示を消すと後ろで見守っていたジャックと合流した。
「浮かない顔だねぇ。どうかしたのかな?」
「……いや、何でもない」
「見るからに何でもなくないかな。もしかしてステータスが低いとかかな?」
俺は嘘や隠し事には向いていなくてすぐに顔に出てしまう。それが今は堪らなく恨めしい。
ジャックの言っている事は半分正しく、半分間違いだった。
まず第一に、俺は自分のステータスをまだ見ていない。これが間違い。
「まあ、確かに……十四位低くなってるな」
だが、同時に十四低いのだ。
「十四……?一体何を言ってるのかな?」
「っと、ゴメン。ちょっとトイレ行ってくるわ」
そう言うと俺はトイレの個室に駆け込むと改めてメニューを開いた。
「……ふざけるなよ」
黒く塗りつぶされた名前、そして…六と表示されているAge。
『成る程な、節々に感じる違和感の正体はこれか。道理で隠そうとする訳だ』
「……煩い」
魔王が冷笑を浮かべる姿が簡単に想像出来た。俺はそんな様子が無性に腹立たしくてそんな事を呟いた。
だが『魔王』は気にも留めないように囁いた。
『まぁそう怒るな。俺も合点がいってスッキリとしたところだ。哀れな宿主に力を貸してやるのもやぶさかでは無いと思う程にはな。どうだ? 今度は圧倒的な力を入れて何者にも縛られない自由を手にする。……中々に面白いとは思わないか?』
それは甘やかな毒のような悪魔の囁きだった。
それが毒だと分かっていても縋りたくなる。そんな甘さがその言葉には込められていた。
「……」
口を開いたら無様に縋り付いてしまいそうだから口をへの字にキツく引き結ぶ。
『別に今すぐにとは言わない。じっくりと悩み、苦悩して足掻け。『魔王』はいかなる答案でも歓迎する』
……俺は『魔王』の『魔王』たる所以を垣間見た気がした。
公開されたハンドアウト
・清人の年齢
・塗り潰された名前




