Compensation for the ugliness of【3Яe】
過去改変中ですご迷惑をお掛けしております。【Яe】となっているやつが改稿もとい改変が済んだものとなっているので、改めて読んで頂けたら幸いです。
俺は唯が部屋から出て行くのを見送ると俺は大きく溜め息を吐く。
正直気が気でならなかった。また、例の吸血衝動が暴発しまいかが。
「本当、どうなったんだよ。俺」
現状を知る手掛かりを求めて取り出すのは今ではすっかりお馴染みとなったギルドカード。
しかし、そこに書かれているのはただの数値ばかりで俺の現状を端的に示すフレーバーテキストなんて一つとして存在しない。
「……そう都合良くは書いてないか」
諦めと共にそう呟く。
『バケモノ』。その四文字がグルグルと頭の中を際限なく巡る。
吸血の時の感覚を思い出すと今でも背筋に冷ややかなものが走る。血に酔いしれる感覚。普通では考えられない程の飢えと渇き。そしてーー欲望のままに貪るその悦楽。
俺は本当にバケモノになってしまったのだろうか?
今はそれが気になって気になって仕方が無い。
はぁ、と再び大きな溜め息。溜め息を吐くと幸運が逃げると良く言うが今ばかりはそれをせずにはいられなかった。
「随分とささくれ立っているようだな」
そんな中、ふと耳に入ったのは聴き慣れた変声期前のソプラノ。
声の方向に顔を向けるとそこには見覚えのある、けれど記憶にあるそれよりも若干小さな少年が立っていた。
「……オルクィンジェ?」
その名前を呼ぶと少年はフッと整った顔に笑みを浮かべた。
「ああ、その通りだ。寧ろ他の誰に見える」
そう嘯く口調はやはりオルクィンジェのものなのだが……今は輪を掛けて幼く見える。
以前が十代中盤であるのなら、今は九歳から十一歳そこそこだろうか。
言うなればそう、ショタクィンジェと、そう言うのが相応しいか。
「と言うか何で出て来てるんだ?」
「少しお前の中が手狭になったからな。丁度良く『欠片』も増えた事だし、その権能を以って魔素を操作し、武器の作成と同じ要領で肉体を構築してみた。どうだ? 小さくはあるが悪くは無いだろう」
「……最早何でもありだな」
流石魔王、略してさすまお。
あと、俺の中が手狭と言うのはかなりのパワーワードだと思う。
ただ、俺が手狭と言われても思い当たる節など無く、完全に何のこっただ。訳が分からない。
俺が首を傾げてるとオルクィンジェは真面目な顔をしながら口を開いた。
「本来俺の自我は異物。その事を覚えているか?」
「そう言えば最初の『欠片』の時にそんな事言ってたな。確か異物が入ると暴走するんだったか」
アニの時がそのケースだった筈だ。後は霞の穏鬼は……元から魔獣だったから知る由も無し。唯の家については何とも。
……考えてみると暴走をマトモに見たのはアニの一件だけだ。
「そう、つまりそう言う事だ」
……つまりどう言う事だってばよ?
「人間には一人につき一つの魂しか入らない。いや、入れないと言うのが正しいか。普通であれば一人の人間に対し一つの魂を有している。だがな、お前は最初から魂が人の半分しか無かった。だから俺が入り込めた」
半分。それには大いに心当たりがあった。
杉原清人。俺の大切な半身にして消えてしまったもう一つの人格。失ってしまった同じガラス玉の外側。
「そう、か。……でも、じゃあ何でいきなり出て来たんだ? 俺には半分の空き容量があるって言ってたよな?」
「正確にはあった、だ。今のお前の魂が一人分に戻りつつある」
「一人分の魂?」
「そうだ。仲間から叶人である事を承認され『杉原叶人』と言う自我は一つの魂として確立しつつある。そうなれば当然嵩も増える。だから余剰分をこうして外に逃して暴走を防いでいる訳だ。尤も、『欠片』が増えたからこそ出来る力技だから以前は出来なかったがな」
「要するに……俺の為って事か?」
「近からずも遠からず、だ」
そう言うとオルクィンジェはふいっとそっぽを向いた。何だかんだツンケンしながらも心配性な所は変わらないらしい。
そんないつも通りの様子に少し心の強張りが解ける。
「そっか……。それで、オルクィンジェも俺の見舞いか?」
「いや、それに関しては否だ。俺はお前に重要な事を伝えに来たんだ」
「重要な事?」
「今のお前の身体の状態についてだ」




