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Runaway utopia【3】

お ま た せ

 斯くして糸と銀閃が舞い踊る戦場にーー銃撃と疾風は吹き荒ぶ。


「むっ……先程から見慣れぬ攻撃が混じっているな」


「……余計な、事を」


 篝の言葉にアニは眉を顰めながら舌打ちする。

 アニとしては唯が参戦するのは余り好ましい事では無かった。と言うのも、サボローが唯を殺す可能性が高まる上、自分も背後からあの珍妙なジョウキキカンに撃たれかねない。単純に敵が増えるのより余程厄介だ。

 しかし一応ダメージの量自体が増えているのは不幸中の幸いか。


「……んッ!!」


 強く地を蹴りながら糸を放つ。

 糸は不可視の檻となり魔獣の強みである機動性、敏捷性を確実に奪っていく。

 このまま一方的に攻撃を加えればいずれ勝てる。

 現状、魔獣に糸への対抗手段は無くイニシアチブは確実に握れている。

 悪くは無い。そう、決して悪くは無い。その筈なのにーー。


(……どうして、こんなに騒つく?)


 魔獣は糸を突破出来ず、こちらの方が手数で勝る。

 篝は手数に優れ、現状での最高火力を叩き出しているし、凩は連打こそ出来ないものの一発一発の攻撃力が高い上、斬撃自体がが飛ぶ為にリーチが長い。そして、やや遠くからジョウキキカンを撃っている唯は最長のレンジを誇る。


 唯の存在はやや鬱陶しいものの負ける要素は見えない。


「征くぞ凩……私に合わせろッ!!」


「承知! 幼馴染の連携! 清人に見せつけるで!!」


 凩が飛ぶ斬撃を放ち、そこに篝が更に斬撃をかさね十字の斬撃を形成する。


「「破邪……剣征ッ!!」」


 十字型の斬撃は魔獣に向かって猛進し、その胸部を容赦なく抉り辺りに血飛沫を撒き散らす。


「良しっ……後はひたすら押し切るのみや!」


「……喜ぶのは、早い」


 凩の歓喜にアニは何処までも冷淡に返す。凩はそんなアニの様子に疑問を覚えるが、その答えを数瞬の後に知る事となる。


「これは……!!」


 舞い散る赤色はやがて緋色へと変わりーー血飛沫は火の粉へと変化を遂げる。

 そして傷付いた魔獣の胸部は燃え盛りその身体は大火と化す。

 これはサボローの持つ特殊な能力。その名はーー『災禍の隻腕』。治癒の炎を以て一定時間凡ゆるダメージを回復し続ける反則技だ。


「味方の時は頼もしいけんど敵に回すと厄介やな……ッ」


「……」


 アニの背筋を冷たい汗が伝う。

 何故ならアニはーー胸から噴き出す炎が、糸を焼き尽くすのが見えてしまったからだ。


 耳を劈くような咆哮がこだまする。

 それは檻を破り脱走に成功した獣の歓喜の叫び。


 そして脱走した獣が先ず狙うのはーー檻を作り出したアニ以外にいない。


「……ッ!!」


 隻眼の狗がアニを睥睨するのは一瞬。次の瞬間ーー彼女の身体は遥か上空に跳ね上げられる。

 口から漏れ出るのは鮮血と苦悶の声。


「蜘蛛子っ!!」


 そして跳ね上げられたアニの元に残酷にも爪は振り下ろされる。


「ぁーー」


 この状態では回避行動はおろか体勢すら整えられない。それ即ち必至。


 アニは唇を噛み締め、キツく目蓋を閉じーー。


「『静止の弾(アダラビエル)』」


 凛とした声が、響いた。

 次いで、魔獣の身体が硬直する。まるで、そこだけ時間が停止してしまったかのように。

 それだけの隙があれば糸を操るアニにとって回避自体難しい事ではない。

 十字架の残骸に糸を括り付けるとそちらの方へ滑る様に移動する。


「……高嶋唯」


 独り言ちる。

 その女はサボローが絶望した直接の原因であり今回の元凶。言うなれば怨敵。

 それに助けられると言うのは酷く屈辱的な事だった。とは言え、お陰で三秒後の生存を掴みとれたのもまた事実。

 だから、アニは己の役割を全うする。


「『絶対拒絶封糸』」


 糸の奔流が魔獣を襲う。

 魔獣は敏捷性に任せてそれを回避しようとするがーーまだ甘い。


 回避したその先には刀を持った男女の影。


「てぇぇぇッ!!」


 二人の息の合ったコンビネーションによって魔獣の身体は容赦無く切り刻まれる事となる。


「戻って来いッ……あんさんっ!! 絶望なんぞに呑まれんなやッ!!」


「そうだ、絶望を噛み潰せ! 苦くても飲み下せ! 私にも出来たのだ団長に出来ない道理は無い!!」


 傷口は即座に燃えて消えて無くなる。

 しかし、その痛みだけは鮮烈に残っているのか魔獣は絶叫する。


「グォォォォオオッッ!!」


 絶叫の間も攻撃の手は止まらない。

 間断なく斬撃はやがて止まりーー。


 狗の影が崩れ出す。



♪ ♪ ♪



 誰かが声高に叫ぶ。

 起きるのだと。

 俺は眠りたいのに。なのに、無慈悲にも目蓋を開けろと再三叫ぶのだ。

 ……現実はとても辛い。目を背けて、見ないフリをした方がーーいや、目を閉じて何も見なければとても幸福なままでいられると言うのに。

 なのに何故起きろと、そう言うのだろうか。


「戻って来いッ……あんさんっ!! 絶望なんぞに呑まれんなやッ!!」


 煩い。何も知らない癖に勝手な事を言うな。


「そうだ、絶望を噛み潰せ! 苦くても飲み下せ! 私にも出来たのだ団長に出来ない道理は無い!!」


 煩い。お前の勝手な理想を俺に押し付けるな。


 大体、誰も俺の登場なんか望んではいないのだ。望まれているのは常に清人。叶人おれなんぞ、お呼びでは無い。


 第一、誰が俺を認めてくれると言うのか。

 清人の生きる場所を奪い取った俺の名前を、誰が呼んでくれると言うのかーー。


「……」


 ふと、白い少年の姿を幻視する。

 それは儚く強い純白の魔王。

 そう言えば、オルクィンジェだけはこの名前を呼んでいたっけ。


 ピシリと揺りかごが壊れる音がする。

 惰眠を貪るのもそろそろ限界らしい。

 薄目を開ける。


 どうあっても俺を叩き起こしたいらしい。

 ならそのようにしよう。

 そして問おう。

 『杉原清人ではない杉原叶人おれの事を、それでも認めてくれますか』と。

唯の弾の名前考えるの厄介なのよなー。

リスト制作がめんどくさいのだぁ……。

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