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Runaway utopia【1】

うーん、この視点慣れてないからかなり稚拙に見えるかも。

改善点が一つ見えたわ。


ってな訳で

U・x・U〈ワンワン

 泥に囚われて行く。

 ゆっくりと身体が沈み、身体の自由がなくなって行くのがわかる。


「ーーーー」


 息が出来ない。

 もがく、もがく。けれども苦しみに変わりは無い。いや、もがけばもがく程により深く深くに落ちて行く。

 けれど泥の中はーー存外に暖かくて。息こそ出来ないが慣れてしまえばそう違和感も無い。

 このまま慣れて、馴れ合って、なれ果ててしまえばきっともっと楽になる。

 この胸に燻る閉塞感も、この胸を焦がす激情も。全て忘れて泥の中で微睡もう。

 俺はきっと、少し疲れている。



♪ ♪ ♪



 叶人の体から泥が噴き出した。

 いや、これは正確に言うなら泥では無い。それは密度の極めて高い黒い粒子の奔流。

 止めどなく溢れ出るそれに包まれた叶人は徐々に姿を変えて行く。

 その腕は獣の前脚に。その足は獣の後脚に。

 人間であった部分は全て獣のものへと置換され、後に残ったのはーーただの獣だった。


「魔獣化……!!」


 その姿は狗にも似ている。しかし、これを狗と言うのであれば余りにもーー恐ろしすぎる。


 その爪は一度当たればその肉を容易く引き裂いてしまうような鋭さがある。

 その脚はどんな場所であれ縦横無尽に駆け巡れる速さとしなやかさがある。

 そして何よりもーーその赤い隻眼には万物を射抜くかのような威圧が篭っている。


 肉食の獣は数あれど、これ程までに見たものに恐怖を植え付ける獣は、殺戮に特化した獣は存在しないだろう。


 グゥゥゥゥとくぐもった唸り声が響く。そしてそれは次第に高らかな咆哮へと変化する。


「……また、私はーー」


 そんな中、唯は動けずにいた。

 動かなくては殺される。そう分かっていながらも罪悪感のせいで動くに動けなくなっていたのだ。

 何故なら、自分が一番清人をーー叶人を苦しめていたのだから。


 だから、魔獣となった叶人に殺されるのもある意味自然な事なのでは無いかと。そうも考えていた。


 無防備な唯に獣の爪が振り下ろされる。今更回避は不可能。当たれば必死。それが唯にーー。


「せいッ!!」


 ーー届く事は無かった。

 突如、唯の近くの地面が隆起、いや、違う。

 地面から人が飛び出したのだ。

 それも魔獣の腹に頭突きをする様な形で。


「漸く見つけたぞ。今度こそ正々堂々ーーむ?」


 地中から現れたのは血塗れの悪鬼だった。

 銀の髪を血と砂埃で汚したその悪鬼はこれまた獣じみた動作で唯の正面に着地しーー仲間達の括り付けてある十字架を認めるとすぐさまそれを切断する。

 赤髪の男とカボチャ頭は顔面から落下し、小柄な少女は空中で体勢を整えながら華麗に着地。

 こうして晴れて叶人の愉快な仲間達が全員揃ってしまった。

 その様はまるでヒーローショーのようだ。となると自分は悪役か。そんな事を考える。


「……」


 身勝手で清人を傷付け、挙句の果てにもう一人の人格に憎まれ、絶望させてしまった。これを、悪と呼ばすになんと呼ぶのだろうか。


 人形達が獣に殺到する。

 しかし、鎧袖一触。ある人形は喰いちぎられ、ある人形は引き裂かれ、ある人形は砕かれた。

 余りにも呆気なく、無残な光景だった。


「間違いを繰り返した私には凄惨な終わりがお似合い、って事かしら」


 その光景を前に唯は目を伏せ、生を諦めーー。


 不意に、パァンと強く頬を叩かれた。鈍い痛みで思考が一瞬白く染まる。


「……何よ」


 反抗的に視線を上げ、その人物を睨み付ける。


「……ここで死ぬのは、私が許さない」


 それは唯が最も警戒していた小柄な少女だった。



♪ ♪ ♪



 アニは唯の事を見ていた。

 茫然と立ち尽くす彼女の事を。魔獣化したサボローに殺されそうになっている彼女の事を。

 アニは唯を敵だと認識している。しかし、例え敵だとしてもサボローには人を殺して欲しくはなかった。

 それはアニ個人の持つエゴ。

 命というものは思いの外簡単に摘み取ることが出来る。けれどそれは不可逆でーー摘み取った命は決して元には戻らない。

 そして、命を摘み取れば摘み取る程、背負う十字架は増えていく。


 アニはサボローの顔を思い返す。優しい顔、必死な顔、照れている顔、笑っている顔、頑張っている顔。

 アニは決して長く隣にいた訳では無い。けれど、こんなにも鮮明にサボローの顔を思い出せる。どれもこれも好きな顔だった。


 それを、罪なんかに穢されたくはなかった。


 殺すのならば、せめて自分が。

 サボローを苦悩させる位なら自分が。


 だから、唯が死なず、且つ篝まで来たこの状況は彼女にとって最良と言えた。


「……ここで死ぬのは、私が許さない」


 ここで死ぬと言う事は即ちサボローに罪を背負わせると言う事。故に死ぬ事は許さない。


「今は、協力」


 表面を繕った言葉を吐く。その意図はどこまでも暗い。

 その真意とはーー協力するだけして、自分に殺されろと。そう言うことだ。


 アニがそう言うと唯は不承不承と言った様子で短剣二本を手渡した。


「……ん」


 アニは二本の短剣を手に少し頷く。


 彼女は蜘蛛アラクニド。その本質は無垢な少女では無くーー獰猛な捕食者。

 襲い来る冒険者達を無慈悲に殺害し、ギルドに危険人物認定をされたその捕食者は唯を一瞥すると寒気のするような笑みを浮かべた。


「……後で必ず」


 斯くして一匹の蜘蛛は戦場に身を投じる。

アニが暗黒面に覚醒してる!

……と言う訳ではなく。元より彼女は敵対者に容赦無いので割りかし通常運転だったりします。盗賊二人を平気な顔で窒息死させてますしね。(故にまだヤンデレでは)ないです。

あと、魔獣化した叶人が何故狗なのか、ですが、これは2.5章で唯が「何か犬っぽいよなぁ?」ってなった通り清人&叶人の本質が犬に近いからです。


清人→唯の忠犬


叶人→清人の忠犬


U・x・U〈ワンワン

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― 新着の感想 ―
[一言] アニ、自分の思いで動きましたか。 魔獣化ワンワンがどうなるかが楽しみです。
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