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It's all your fault!【4】

すみません話は進みません。

が、結構重要な話。これが無いと後々ちょっと説明不足になる。

「お前が、全部お前が悪いんだ。お前が、自殺なんてしたから……!!」


 アニはその怒声で薄目を開いた。

 ぼやけた視界には二人の男女とーー何処までも赤く染まった世界が映し出されている。

 何が起きているのかは分からないが兎に角動かねばと、身体を動かそうとするが……動かない。

 どうやら十字に縛り付けられているらしい。しかもご丁寧にも口にも縄が巻き付いている。非常に、厄介だ。

 アニは人形のような端正な顔を顰める。

 それは己の身体が縛られ、半ば磔にされているから……と言うのもある。けれど、それよりもーーサボローの視界が真っ赤に染まっていたからだ。

 アニは極々最近この現象を経験している。そう、サボローが魔獣化した時だ。

 あの時サボローと全く同じ事が今起きていた。


「ーー!!」


 この現状はかなり不味い。


 何故なら赤く染まる視界はサボローが魔獣化の一歩手前まで行っている証なのだから。


 その上で拘束されているのだから最低以外の何者でも無い。


「何で、何で、自殺なんてした……!!」


 サボローが忿怒の声を上げるたびに赤い視界が目に焼き付く。

 このままではサボローは致命的に壊れてしまうだろう。そんな確信がアニにはあった。

 だから、自分が側にいてあげなければ。それが出来ない事と分かっていてもそう思わずにはいられない。


「……だって、仕方がないじゃない!! 実の父親に犯されて!! 穢れた私を愛してくれる筈無いじゃないッ!! だから、清人の目の前で自殺して、その心をズタズタに引き裂いて忘れられないようにしないとーー」


「清人はそれでも、ずっとお前が、お前だけが好きだったんだぞ……!!」


 そこで、気付いてしまう。

 眼下で言い争っているのは杉原清人の初恋の人なのでは無いかと。

 凩からサボローとした恋話の内容大まかに聞き及んでいる。清人の初恋の人、名前は確かーー高嶋唯だったか。

 凩はその話をするサボローはとても苦しそうに見えたとも言っていた。そしてこの魔獣化の兆候を踏まえて、彼女こそがサボローの絶望の原因と断定しても良いだろう。


「……事故に遭ったあの日。清人はな、あの日唯が強姦されてたんじゃないかって尋ねるつもりだったんだ。その上で唯の為に出来る事は無いかって。自分に出来る事は無いかって!!」


 ーー助けなければ。

 サボローの激情が己の身を灼き尽くす前に。

 しかし、手元に武器は無く、その上拘束されているし、その上件の人形達もいる。

 アニは何も、手出し出来ない。

 泣き出したいほどの無力感が自分の心を苛む。


「なのにお前は身勝手に死んだ!! 清人の心配を全部ふいにして、その上清人を傷付けた!!」


 口に巻かれた縄を強く噛みながらただただ祈る。

 どうか、それ以上怒りに呑まれないで欲しいと。


「だから……俺が恨んでも、憎んでも許されるだろう?」


 しかし、そんな願いとは裏腹にサボローは烈火のような激情を露わにする。

 怒りによって彼の表情は歪み、全身から噴き出した黒い粒子が辺りを漂っている。


「だから、頼む。ここでーー死んでくれッ!!」


 いや、或いはーーこれで良いのかも知れない。

 これまでに見たサボローの夢から推測するに高嶋唯は怨敵。ならば、激情のままに殺してしまえば完全に絶望に堕ち切ることは無いのではないか? そんな考えが頭を過ぎる。

 しかし……サボローが人を殺すのだと思うと心がザワザワとして酷く落ち着かない。

 人を、師匠を殺しても受け入れると、そう言ってくれた優しいサボローが人を殺すのは、違うと感じる自分がいる。

 もし、もし仮に自分が動けたのならばサボローの代わりに彼女を殺める事が出来たのにと。そう思うとこれ以上無く胸が締め付けられた。


 サボローの手は真っ直ぐに彼女の首をーー通過し。


「どうして……だよッ!!」


「ーーッッ!!」


 彼女を強く、抱き締めていた。


 何故。


 サボローは唯を憎んでいたはずなのに。


 ーー気持ち悪い。

 まるで肌の上を無数の針虫がのたくっているかのような不快感。


 サボローは優しい。だから、殺せないのではないかと思わなかった訳ではない。

 けれど、けれどこれはーー。


「こんなにも殺したいのにッ!! 憎いのにッ!! 何でこんなにも愛おしいと思うんだよッ!!」


 ……こんなの、本当にあんまりだと思う。


「がァァァァァッ!! 違うッ!! 俺は、清人じゃないッ!!」


 そう。サボローはサボロー。清人では無い。

 そうアニは認めていると言うのに。

 彼自身は未だにどうしようもなく縛られている。

 ああ、何て悲しいのだろう。


「こんなの、……こんなの、俺じゃないッ!!」


 そして、その絶叫と共にーー汚泥が噴き出した。


さて、何故話を進めなかったか、なんだけども……前書きで示した通りなんだよね。

つまり、後々の展開で彼女が重要な役割を果たすから。

本来ならこれを挟まずに魔獣叶人攻略戦に入るつもりだったんだけど(事実としてアニのセリフ皆無だし、やってる事は前回の別視点で新鮮味が絶無)戦闘後にとあるイベントをぶち込む為に必要でした。


と言うか叶人……お前浮気現場()見られてんぞ……。

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