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It's all your fault!【1】

先ずは地獄の一丁目

 銃を突きつけられながら連れて来られた先は一際大きな扉の前だった。

 辺りの雰囲気とは全く違うその灰色の扉は何処か……檻のように見えた。


「さてと、感動のご対面の時間よ」


 唯がそう言うとギィと、重々しい音と共にドアが開きーーその光景が目に入って来た。


「凩……アニ……それにジャックも!!」


 十字架に括り付けられた仲間たちの姿と……その周りを囲うように立つ例の人形達の姿が。その様はまるで魔女裁判か何かのよう。

 あまりの光景に目眩を覚える。何だって仲間たちがこんな目に遭わなければならなかったのか。一体何をしたと言うのか。


「まぁ、座ってお茶にでもしましょう? 私が死んでから何があったのか、何を知って、何を見て、何を感じたのか。聞きたいことは山ほどあるもの」


「何で、こんな事を……」


 視線を三つの十字架に向けながら尋ねると。唯ははぁと溜め息を吐き、呆れたような表情を浮かべた。


「何でって、それは単純に話をしたかったからよ。そうでもなければこんな手間の掛かることなんてしようとは思わないわ」


 何故そうなるのだろうか。

 話がしたかったのなら、こんな事をする必要性は全く無かった筈だ。

 理解出来ない。理解が及ばない。


「こうする必要性を感じない?」


「……ああ。全く、これっぽっちも、微塵もな」


「あなたがそうでも私にはそれが必要なのよ。例えばーー」


 そこまで言うと唯はアニに向かって銃口を向け、ばぁんと、そう言った。


「……冗談よ。私は人を殺すのが趣味と言う訳では無いもの。安心して頂戴。ただ人質が居た方が私の思い通りに事が運ぶかと思って趣向を凝らしただけ」


「ちゃんと、生きてるんだよな」


「ええ、勿論よ。死んでたらそれは最早人質としての体を成さないもの」


 それを聞いて少し安堵ーー出来る筈も無い。生きているのは良い。しかし、拘束された挙句周りには例の人形達がいる。唯の意思一つで生死が決定されてしまう。


「さて、その上で……諸々の事を話してくれないかしら」


 そこには俺の意思が介在する余地は無かった。



♪ ♪ ♪



 高嶋唯はこの世界に来て初めて心からの笑みを浮かべていた。

 目の前に清人が居る。それだけの事で鼓動はトクンと高鳴りたちまち夢心地になる。

 久しぶりに見る清人は随分と震えていて、そこが若干不満ではあるがそれでも異なる世界で再会出来たのだ。どんな形であれこれが喜ばしく無い訳が無い。

 ただーー。

 こっそりと十字架に括り付けた二人に視線を移す。

 清人の仲間。それは清人の紡いだ絆と関係の象徴。

 彼等を見ると臓腑が煮え立つような感覚に襲われる。


 唯は実父に犯され、現実に絶望し、自殺するに至った。


 清人はのうのうと日常を過ごし、仲間を引き連れて旅をした。


 こんなのはあんまりだ。あまりに酷過ぎる。本当に酷い裏切りだ。

 共に絶望してくれると思っていたのに。自分と同じ苦悩に苛まれてくれる道連れだった筈なのに。


 だから、消す。


 彼等は今は人質だ。しかし、いずれは要らなくなる。

 『嫉妬エンヴィー』の権能、その秘奥である『改竄の弾(ザルギアベル)』を使ってその記憶を少しずつ少しずつズラして、汚して、蝕んで、ゆくゆくは幸福な記憶を全て自分に置き換えるつもりだったからだ。

 唯にとって自分に都合の良い記憶は置換され、他の記憶は全部消え去る。

 そうなった後の清人を見て仲間達は一体何を思うだろうか。清人を哀れむだろうか、それとも薄情ものだと嫌悪するだろうか。


 ーーああ、きっとそれは甘美な絶望の味。

 汚濁に塗れた蜜の味。


 考えるだけで下腹部が熱くなる。


「……何処から話せば良い」


「じゃあ、一先ずはそうね私が死んだ直後の話でもしてもらおうかしら」


 けれど今はそんな事は忘れようと清人の方へと視線を戻す。

 これから語られるのは何れは唯自身に置き換わる記憶。

 暖かな記憶はとても妬ましい。しかしそれもじきに全てが唯の物になる。

 それに、改竄する記憶を自分が知っていないせいで変に齟齬が生じてもいけない。


「……」


「どうしたのかしら、そんなに震えて」


 清人はブルブルと震えていた。

 どうやら少し脅し過ぎたらしい。


「大丈夫よ、殺す気は無いって言ってるじゃない」


 しかし震えは収まらない。一体どうしたのかとその目を覗くとーーその目は怒りに赤く燃えていた。


 それは唯が生まれて初めて見た清人の激情だった。


「……これは『杉原清人』としての最後の忠告だ。唯は何も聞かずに仲間を解放してくれ。……頼む」


「はっ!!」


 唯は鼻で笑う。この期に及んで何を言うのか。恐怖で遂に気が触れたのか。どちらにしろ聞き入れるに値しないのは明白だ。


「……無駄か」


「当たり前じゃない。馬鹿ね」


 そう言うと清人は一言「そうか」と言うと視線を下ろした。


「……ありがとう、唯。これで俺が俺でーー杉原清人である事を完全に辞められる」


 その瞬間、どうしてだがゾクリと鳥肌が立った。

 イニシアチブは唯が握っている。こちらには人質がいて、それをひっくり返す手段が無い事も今までの行動から容易に推察出来る。


 では、何故自分まで体が震えるのか。

 何故、本能は聞いてはならないと警鐘を鳴らすのか。


「……じゃあ、お望み通り教えてやるよ。お前なんかに愛されたばっかりにズタズタになった悲しい男の末路を」


「……あなた、清人じゃないわね」


 清人はそんな口調で喋らない。清人はそんな事を言わない。

 では、目の前の清人の姿をしたコイツは一体ーー。


 清人の姿をした何者かは凄絶な笑みを浮かべながらその名前を口にする。


「俺の名前はーー杉原叶人」



「正真正銘、杉原清人の紛い物だ」


 己は杉原叶人なのだと。

杉原叶人 本格参戦ッ!!


地獄はまだまだ続くぞー!!



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― 新着の感想 ―
[一言] 機転を利かせた死闘の果てに勝利し、頼もしい仲間を二人も得て新たな旅路へ!! ……のはずなのに、仲間達がいきなりヤバいことになっている件について……!! 叶人の正体は途中で色々と分かりやす…
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