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Enjoy your madness!【3】

うぅ、主人公頭おかしいよぅ……。

 許せない人が居た。

 許し難い出来事があった。

 どれだけの後悔を重ねても戻らない日があった。

 清人が消え、その居場所を俺が奪ってしまったあの日からずっと恨んで来た。憎んで来た。……憎まずにはいられなかった。見た事もないその人の事を。

 これは全て、俺が生まれたが故の悲劇。

 俺が生まれなければと、そう夢想しなかった日は無い。

 だからこそ俺は彼女を憎む。清人の代わりに。

 だからこそ俺は怒り狂う。清人の代わりに。

 清人は消えるまで一度として彼女を悪くは言わなかった。

 けれど、けれども、俺は許さない。清人が許そうが俺が許さない。


 俺が生まれる原因となった彼女を。絶対に。


 今まで、覆い隠してきた。けれどもそれもお終いだ。彼女が牙を剥くのならば、それ以上の苛烈を以てそれに応えよう。


 清人には怒られるかも知れない。少なくとも清人はそんな結末は望まないだろう事は俺でも分かる。


 けれど、俺はもう清人では無い。


 なら、この胸に吹き荒れる狂気のありったけを彼女に向けてぶち撒けても、何ら問題はないだろう?



♪ ♪ ♪



 唯は苛立っていた。


「……何なの、あの女」


 原因は鏡に映る一人の小柄な少女。そしてーーこれでもかと糸の張り巡らされた部屋の内装。そして、見事に剪断されたモンスターの残骸。

 最初は糸を張って何がしたいのかと、冷笑的に見ていたものの、いざモンスターをけしかけてみると糸により呆気なく捕縛され、ズタズタに引き裂かれてしまった。


「どこもかしこも馬鹿みたいに硬い糸塗れ……これじゃあどっちが罠を張ってるのか分からないわね」


 唯にとって絶対的に有利なフィールドの筈が、一部分とは言えいつの間にかあの少女に乗っ取られていたと言う訳だ。


「……やってくれるじゃない」


 唯はこの日、漸く少女を敵として認めた。

 先の牛女も確かに強そうではあった。いや、実際は強いのだろう。しかし、実直な性格故か絡め手や罠にとことんまで弱い。

 対する唯は絡め手や罠こそが唯の本領であるからその相性は抜群。どれだけ強かろうが一方的に勝てるので敵にはなり得ない。


 しかしあの少女は違う。見た目こそ可憐な少女に見えるがその中身は老獪。罠を張る手管を熟知している人間だ。しかも、他人の部屋を自身の罠だらけにする大胆さも併せ持っている。厄介極まりない手合いだ。


「ただ……残念ね。目に見えるものばかりに気を取られていると、見えないものが疎かになる」


 唯は懐から一丁のピストルを取り出す。それはジョウキを利用して弾丸を射出する最新式の武器ーージョウキキカン銃。


「その心を射抜きなさい。『大罪系統セブンス・シリーズ』スキル『嫉妬エンヴィー』ーー『恐怖の弾(ダギベル)』」


 ジョウキキカン銃から放たれた弾丸は鏡の中へと吸い込まれていく。

 これこそ高嶋唯の持つ『大罪系統セブンス・シリーズ』スキル、『嫉妬エンヴィー』。その能力は非常に強力で、状態異常を引き起こす事に特化している。

 対象さえ目視出来れば触れる必要すら無く、対象は撃たれた事に気が付かない。気付けない。

 それは心が健やかなるものを貶め、汚す為の能力。故に付けられた名前は『嫉妬エンヴィー』。


「種は撒いた。後は発芽を待つだけね。それと……」


 再び清人の映る鏡へ目を移す。

 どうやら立ち直って移動を始めたらしい。


「合流されたら厄介ね。ここはモンスターで様子見がてら分断を狙うのが良いかしら」


 あくまで慎重に陰湿に、高嶋唯は策を弄する。



♪ ♪ ♪



「モンスターが来るよッ!!」


 俺達がアニと合流しようとした途端に何処から湧いて出たのか大量のモンスター達が俺たちに向かって来た。

 どうやら敵は俺たちに余程合流されたく無いらしい。


「どうするん?」


「決まってる……敵を倒して進めるホラゲーなんてヌルいッ!!」


 ホラーゲームがホラーゲーム足り得るのは主人公と化け物との間に埋まらない力の差が存在するからだ。

 つまり、実力が拮抗、ないしこっちの方が強いのであればジャンルを変えねばならないだろう。


「頼んだぞ、凩ッ!!」


「分かっとる……でぇやぁッ!!」


 刀による斬撃がモンスターを容赦無く斬り飛ばして行く。異形達を一撃で沈めるその様は最早無双ゲー。ジャンルブレイクも甚だしい。だが、それが良い。


「モンスターが出るって事はそっちに行かせたくないって事だ。だから、モンスターが出る方に真っ直ぐ突っ込むぞ!!」


「ノーダメ宣言とは一体何だったのかなぁ!?」


「敵は凩がどうにかする。だから、実質全員ノーダメだっ!!」


 我ながら何という他力本願な事だと思う。しかし、それが俺の考えられる限りの最良手。ならば俺は恥も外聞も捨てて全力でそれを成そう。


「君も大概言ってる事めちゃくちゃかな!?」


「最終的に勝てばオッケー。だろ?」


 俺たちはモンスターを雑踏すべく家の奥深くへと足を進めた。

ってな訳で唯の大罪は【嫉妬】でしたー。


これで【傲慢】、【嫉妬】、【暴食】が判明しました。


残るは四人……。

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