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Resumption of the tragedy【2】

地獄の始まり始まり〜★


今回もイラスト付きですわよー。

「……おるな。取り敢えず離れとき。こっからはワリャの見せ場や」


 森を進む事凡そ二十分少々、凩は不意に足を止めそう口にした。

 俺たちはその言葉に従いその場から少し後退する。

 ……ところで、何処に敵がいるんだ?


 大森林は苔の繁茂もあり全面的に緑色しか映らない。ゴブリンみたく保護色になっていたりするとその発見は困難を極める。

 現に俺は何が何処にいるのかも全く分からない。自分の不甲斐なさを嘆けば良いのかそれとも凩の能力の高さを称賛すれば良いのか……。

 けれど危険察知能力を持っている人員は居るだけで助かる。流石にハザミ生まれだ。


「そこッ!」


 凩が狙いを澄ましてお得意の飛ぶ斬撃を放つとビシャリと言う異音と共に何かに着弾した。

 ……かなりグロテスクで嫌な音だ。


「ふぃー、こんなもんかの」


 凩が刀を収めるとふよふよとジャックは着弾地点に向かって行き……露骨に顔を顰めた。その上、皮もほんの少しだけ黒くなっている。

 凩は一体何を斬ったんだろうか。


「緑色のスライム……多分亜種かな。うぅ、いつ見ても気持ち悪いねぇ……」


「スライムか……これは見ない方が良さそうだな」


 蘇るトラウマ、スライム。それはRPG世界に於いてかなりポピュラーな部類のモンスターだ。ゲーム内に於いて基本的に可愛らしい顔付きをしているのだがーーこの世界のスライムは違う。


「すらいむって何やの?」


「スライムはめちゃくちゃグロい液状のモンスターだ。……兎に角グロいから見ない方が良い」


 この世界のスライムは可愛げが全くなく、とても冒涜的な見た目をしているのだ。しかも、何処から発してあるかは分からないが「テケ・リ・リ」と鳴く。

 コイツが大量湧きした時にはこの世の終わりかと思った。

 魔獣も大概グロテスクだが、スライムはスライムで気持ち悪いのだ。


 さて、スライムの話はここまでにして。正直困った。


「瞬殺だったから立ち回りとかさほど見れなかったな」


 今回の目的はあくまでも個人の立ち回りを把握する事。だが、こんなにも簡単に瞬殺となると強い事こそ再認識出来るものの他は全くと言って良い程分からない。


「けんど、あの程度の敵やったら多分ジャックを除けば大体が瞬殺になるんやない?」


 平時だったらかなり喜ばしい事ではあるのだがこの場合に於いては問題だ。


「もう少し奥に潜るか……?」


 大森林を更に進めばもう少し都合の良さげな敵に遭遇出来るかも知れない。が、今は危険なモンスターが棲み着いているのだと聞いている。ここで楽観視してボコボコにされては堪らない。

 まぁ、この時点で既に当初俺の想定していた展開は破綻しているのだが。


「どうする、団長。もう少し奥へ進むか?」


 一旦戻ってから大森林に出現するモンスターについての情報を得たいところではあるが薬草取り壊滅との事だから最新の情報は得難いだろう。戻っても時間を悪戯に消費するだけになりかねない。


「アニ、糸を目印にする事って出来るか?」


「ん、出来る」


 そう言うが早いかアニは太い木に糸を張った。


「何しとるん?」


「先に進むから戻って来れるように目印を付けておこうと思ってな。アニの糸なら強度も充分だし、戻るときには心強いと思ってな」


 所謂ヘンゼルとグレーテル作戦ってやつだ。石ころよりも目立つし、何よりアニの糸は滅多な事じゃ切れない。迷った時にもこれを辿ればここまでは戻って来れるだろう。


「とは言え日は段々落ちていくし、往復の時間も考えてもそこまで深く潜るのは無理そうだ。あくまでも『いのちだいじに』で行くぞ」


 そう言うと俺たちは緑色の世界の更に奥深くへと足を進めた。



♪ ♪ ♪



 その赤い屋根の家には一人の魔女が住んでいた。

 日の差さない暗い部屋の中、魔女は一枚の紙きれを取り出す。それには日本でよく見られる学生服を着たボロボロの少年の姿が描かれていた。


「……ああ、早く来ないかしら」


 魔女は溜め息混じりにそう漏らす。

 その声に込められているのは再会へ胸を躍らせる乙女の歓喜ーーなどでは決してない。それは何処までも暗い、燃え盛る炎のような激情。


 魔女は絵に描かれたボロボロの少年を愛おしそうに一撫でするとそれをビリビリと引き裂いてしまった。

 引き裂いて、引き裂いて、やがてただの紙屑となったそれらを熱のこもった視線で見つめるとその人物の名前を口にする。

 

「ねぇ……清人」


 魔女は、高嶋唯は待ち焦がれていた。地球に置いてきてしまった半身の訪れを。

 自分を忘れて、一人で幸せな日常を過ごす男の訪れを。


「今度こそ、二度と忘れさせない。引き裂いて、引き裂いて、引き裂いて。焼き付いて離れないくらい強烈に。私の存在を刻み付ける」


 そうしなくては清人はまた忘れてしまうから。汚されて、ズタズタになった私の事を綺麗に忘れて、一人だけ綺麗な世界のまま生きてしまうから。

 だからこそ清人を汚すのだ。だからこそ清人を引き裂くのだ。

 共に同じ世界で呼吸をする為に。

 同じ地獄を生きる道連れにする為に。


「お久しぶりです。高嶋唯さん。お元気でしたか?」


 耳元で粘着質な嫌な声が聞こえて眉を顰める。

 唯が緩慢な動作で振り返るとそこには紫のシルクハットを被った緑色の髪を持つ男が立っていた。

 唯はこの男の事を良く知っている。その男こそ唯をこの世界に転生させた元凶にして、『デイブレイク』の最高幹部。


「……何の用かしら、ニャルラトホテプ」


挿絵(By みてみん)


 その名を呼ぶと男はーーニャルラトホテプは口の端を歪め、気味の悪い笑みを浮かべた。


「おやぁ随分と不機嫌そうですね。私が折角良い情報を持って来てあげたというのに。それに、仮にも私はあなたの元上司ですよ。もう少し対応を改めても罰は当たらないと思いますよ?」


「元、よ。今は関係ないわ。それに私がどれだけ拒もうがあなたはどうせ聞かないでしょう? それがどんなに残酷な情報でも、一人で笑い転げたいが為に無理矢理伝える。違ったかしら」


 そう言うとニャルラトホテプは正解ですと、態とらしく拍手した。


「流石は元『六陽』、と言ったところですかね。私の事を良く理解している。実に喜ばしい」


「お世辞は要らないわ。用件だけを言いなさい」


「ええ、では端的に。……運命の時の到来です。あなたの焦がれた再会の日がやって来ましたよ、高嶋唯さん?」


公開されたハンドアウト

・唯はかつてデイブレイクの『六陽』だった

・現在の『六陽』メンバーは『傲慢』テテ。『暴食』??? その他不明。


デイブレイクは七つの大罪をモチーフにした組織です。しかし、名前は六……。


ということは……唯入れて六人。抜けて六人……あれれ? いったい誰が入ったんだ?

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