Handout【What's the name of the flower?】
はーい! いつものハンドアウト、ダヨー
……アイツ毎度毎度本当に不憫だなぁ。
俺たちはハザミから出る船を利用し、大森林の広がる緑の大地ロウファへと向かっていた。
次の行き先をロウファにしたのは、『デイブレイク』がいる都合上ミオに戻れないからだった。だから、消去法でハザミから一番近いロウファを目指したのだがーー。
「船旅と言うものは初めてだが……中々に、辛いものがあるな。うぷっ……」
「せ、せやな……。ワリャも舐めとったわ。……もろろろろ」
ハザミ組の二人が船酔いに全くと言って良いほど耐性が無かった。お陰で常にキラキラ状態が続いている。実に汚い絵面だ。
とは言え、元から各地を回っていたと言うアニとそもそも揺れが意味のないジャックは平気そうな顔をしている。
間断なく続く揺れとキラキラの中、俺は自然と溜め息を吐いていた。
「……はぁ」
『霞の穏鬼』を打倒して以来、俺を取り巻く環境は劇的に変化してしまった。
凩と篝が加わったのは良いけれど、頼りにしていたオルクィンジェは『欠片』を目の前で喰われたショックから立ち直れないまま無言になっているし、何よりも……どう言う訳だか分からないけれど、アニに俺の正体を知られてしまっている。
大分前にオルクィンジェは俺の見た夢も視界共有によってアニにも見えているという話をしていたが、それがまさかこんな事になるとは思っていなかった。
「プレミ……ねぇ」
再び大きな溜め息。
俺の正体をアニに知られてしまったのは流石に堪える。
俺は、杉原清人でなければならないのだ。
……杉原清人として振る舞わなければならないのだ。
目を瞑ると自然と蘇る。俺が杉原清人になってしまった、あの最低な日々の事が。
♪ ♪ ♪
ーー時は遡る。
俺はその日も清人の部屋で目を覚ました。まぁ清人の部屋と言っても半ば俺の部屋みたいなものだし、俺の部屋と言っても差し支えないだろうけど。
部屋の窓を開けると麗かな春風と共に桜の花びらが部屋に入って来た。
これぞ正に学園アニメの鉄板。入学式当日のシチュエーションとしては百点満点だ。
「っと、着替えないとな」
クローゼットから取り出すのは高校の制服。まだノリの効いているそれに袖を通すとフワリと洗剤の香りが漂って来た。
クローゼットの姿見で制服を着た姿を確認する。うん、似合ってる。
ここに辿り着くまで苦節十ヶ月少々。思えばいろんな事があった。
クラスのゴミ共と二度と会わないためにめちゃくちゃ受験勉強して偏差値高めの高校に進学したり、清人と遊んだり、遊んだり、遊んだり……苦しかった事もあったけれど、心から楽しいと思えるような、そんな日々だった。
そしてそんな黄金色の日々が今日、漸く結実する。
勉強は大変かもしれないけど、杉原清人を最初から毛嫌いする人がいない新しい世界に飛び込むのだ。
杉原清人の楽園に。
「……よし。行こうか、清人」
部屋を出て階段を下ると母さんが料理を作っている真っ最中だった。父さんもコーヒーを飲みながら新聞紙を読んでいる。
それは当たり前の、暖かな日常。
「おお、清人。中々に様になってるじゃないか」
「あら、そうね。後で玄関で写真を撮らないと。あなた、カメラ用意してあるわよね?」
「勿論だとも、愛する息子の晴れ舞台なんだ。ちゃんと用意してあるよ」
……あれ?
それは明らかな違和感。
この身体は清人のものだ。間違いなく。でも、愛する息子や、清人といった言葉は……俺を指して言った言葉のように思えた。
「唯ちゃんの件以来ちょっと良くない時期が続いたけど、また元に戻って良かった……」
その言葉に、俺は愕然とした。
間違い無い。両親は俺を、俺こそを清人だと思っているのだ。
……冗談じゃない!! 清人の苦悩を、清人の苦痛を、清人の苦難を、一体何だと思ってる!!
「確かに……あの頃は大変だった。あの明るかった清人が人が変わったように暗くなってしまったからな」
ああ、そうだ。だから俺が守った。全身全霊でもって、あらゆる事から。その筈なのにーー。
あれ、あれ?
じゃあ、本物の清人は……杉原清人は何処に行ってしまったんだ?
♪ ♪ ♪
俺の悪夢は尚も続いた。
俺に友人が出来たのだ。
「よう清人! 昨日のアニメ見たか!?」
「……うん、見たよ」
けれど俺は……それを素直に喜ぶ事は出来なかった。
だってそうだろう? この新しい環境にかつての杉原清人を知る人は居ない。俺の事を知ってる人も居ない。
……誰も居ないのだから。
誰も彼もが俺を清人と呼び、清人として扱う。その度に俺は「違うッ!!」と、そう何度も叫び出したくなるような衝動に駆られた。
俺は清人みたいに優しくない。
俺は清人みたいに純粋じゃない。
俺は清人みたいに善良じゃない。
いっそ、「お前なんて清人では無い。お前は清人の紛い物だ」と。そう言ってくれた方が何千倍も気が楽だ。
俺は何度も清人のフリを止めようと思った。けど出来なかった!!
俺だけがこの地球上で本当の杉原清人を知っている。だから、その俺が杉原清人のフリを止めたら……その時、本当に清人は消えてしまうんじゃないかと。そんな確信があった。
だから、俺は、ずっとずっと、ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと杉原清人のフリをして来た!!
何度も泣きたくなった! 何度も心が折れそうになった! けど、耐えて耐えて耐え続けて来た!!
俺が杉原清人を演じるのは清人を忘れない為。
俺が杉原清人を演じるのはいつか清人が戻って来ても困らないように。
俺が清人の標になるのだと、そう決めたから。
清人は、何処かに消えてしまったけれど、また、きっと、帰って来てくれる。不出来な俺を、上書きして、消し去ってくれる。
「そう言えば清人、カバンに着けてるそのピンクの花のキーホルダーって誰かから貰ったのか? もしかして彼女からかぁ?」
「違うよ。……そんな物じゃ無いんだコレは」
俺はその花の名前を知っている。その花の花言葉を覚えている。
けれど今は一切を忘れてしまおう。だって、それは……。それは……なんだっけ。
「……多分、ね」
「何だよそれ」
そうだ、忘れてしまえ。全部、全部。
記憶の奥底に閉じ込めて、トントントンと釘を打って。二度と日の目を見ないように。
忘れていた方が幸せな事も、きっとある。
公開された情報
清人in誰か←NEW!!
時系列順に並べると
唯の自殺
↓
清人病む
↓
サボロー(■■叶人)の介入
↓
???
↓
清人in誰か←NEW‼︎
↓
自分の事を清人だと信じて止まらない逸般人死亡・転生
↓
現在の主人公
ってかコイツ清人の部屋で普通に生活してやがるぞ!?(驚愕)
それに両親にも清人認定されている為、ボディーは間違い無く清人。あれ、おかしいぞ。
さてと、ここまで全編通して見てくれた人もそうでない人も大体アイツだろってなっているかと思われますが。
実は大分前にアイツは正体を自分で口にしてます。
【該当部分】
「ペルソナッ!!」
つまり、アイツ……。




