Continue 【3】ーfirst partー
纏めが伸びるなんてあるん!?(驚愕)
「……見慣れた天井だ」
目を覚ますと見慣れた天井が視界一杯に広がった。
霞む目を擦りながら辺りを見回すと真っ昼間の目を射るような陽光が目に入る。
「っと、痛てて」
体を僅かに起こすと痺れるような痛みが全身に走った。その部分を見てみると包帯でぐるぐる巻きにされている。……と言うか、上半身がすっぽんぽんだ。
困惑しながら痛みに顔を顰めていると不意にガラッと襖が開かれた。
そこから現れたのは替えの包帯を手に持ったアニだった。
「ん、起きた?」
「アニか……って!? んんっ!?」
状況を整理しよう。
俺は今、上半身すっぽんぽんで、生まれたばかりの自分を曝け出してレリゴー状態な訳だ。
つまり俺は今……犯罪臭しかしない絵面を晒していると言う事に他ならない。
頭からボンッ! と何かが爆発する音がした。
「あ、あああアニ? えっと、俺、上半身裸だけど、大丈夫なのか?」
「ん、大丈夫。……と言うかそうでないと包帯替えれない」
そ、それもそうだった。goddamn!!
「えーと、質問なんだけど服を脱がせたのって凩ーー」
「いっつ、みぃ」
『凩だよな?』と尋ねようとしたが割り込んでの即答だった。
It's me……何という事か。俺はどうやら他ならぬアニにひん剥かれてしまったらしい。
「あと、ついでにちょっと血を貰った」
そう言うとアニは小さな舌でチロリも唇を舐めた。その動作が何とも妖艶な感じがして、頭がクラクラとした。
「はわ、はわわわわ」
▼おれはめのまえがまっくらになった
「あと、凩が呼んでた。包帯は後でも良いけどそっちは行かなきゃ、ダメ」
「あ、ああ。分かった」
どうやら俺のリザルトはまだ終わってはいないらしかった。
……リザルト、か。
「オルクィンジェ……」
オルクィンジェは沈黙したままだった。
♪ ♪ ♪
アニと共に凩の元に向かうとそこには二人と一体が勢揃いしていた。
一人と一体は凩とジャック。となると残りの一人は誰なのか。
「っと、あんさんには紹介がまだだったの。灯篝、おっちゃんの一人娘や」
「……灯篝だ。この度は大変迷惑を掛けた」
その何とも無愛想でお堅い口調に不覚にもあの人の娘なんだろうなと思ってしまった。
ただし、口調に反してその見た目はいかにも女性らしい。
細く整った眉に短く揃っている美しい銀髪、着物を押し上げるのはご立派な胸部装甲。
典型的な鬼娘だ。
……うん、鬼娘だ。
少し視線を上げるとその額には一対二本の鬼の角が映えているのがはっきりと見て取れる。
「ほいで、こっちが清人や。……清人で良えんよな?」
「そうだけど、どうしたんだ一体?」
「いや、魔獣化したった時にこう……なんて言うか『俺が清人の代わりに助ける』とか言うとったから名前違うんやないかなって思っての」
俺は、そんな言葉を口走っていたのか? ……はっきり言って暴走時の記憶は陰っていてあまり覚えが無い。
「そ、そんな訳無いだろ。シャアとキャスバルじゃあるまいし。俺は正真正銘、杉原清人その人だ」
けれど。けれども、俺はこれ以上俺の本当の名前を知られたくは無いのだ。
……俺は杉原清人であり続けねばならないのだ。
「まぁ、本人がそう言うんだからそうなんだよ、きっと」
「さてと、一通り顔見せも終わった事やし……おっちゃんの所に行こか」
その一言で俺はさぁっと血の気が引いていくのが分かった。
♪ ♪ ♪
見慣れた浅黒く古風な店の前に俺達は勢揃いしていた。
「遂に来ちゃったか……」
この場所は俺にとってのトラウマとなっていた。凩にボコボコにされた上、養父に自刃用にと半ば無理矢理『野分』を持たされたりと、嫌な思い出ばかりが付き纏う場所である。
入るのを躊躇っていると中からぬっと養父が現れた。相変わらずのナイスミドルだ。
うん、帰りたい。
「手前達、いつまでそこで突っ立ってるつもりだ。入るんだったらさっさと入れ。入らないなら早々に去っちまえ」
とんでもない眼光で凄まれた俺は怯えながらも店に入った。
……ところで、俺以外の全員が平気な顔をしているのは何故なのだろうか。謎である。
そうこうしているうちに俺達は養父に導かれるまま店の奥に通された。
いつも薄暗い部屋だと思っていたが、いざ倒されてみれば思ったほど暗い印象は受けない。
「一先ずは例を言おう。異邦人、いや確か杉原と言ったか。それとそこの少女よ。……よく儂のたった一人の大切な馬鹿娘を叩き直してくれた。感謝する」
そう言うと養父は深々と頭を下げた。
俺としては『野分』を凩に勝手に渡したりした事を咎められるかと思ったから少し拍子抜けした気分だった。
「多々苦難があった事だろうと思う。それに儂は幾つも手前勝手な願いを手前さんに押し付けた。その補填は灯の名にかけてやらせて貰う」
「あ、ありがとうございます」
けれど何故なのだろう。自分の大切な娘と息子が無事に生きていると言うのに養父の顔付きは険しかった。
「さて……。篝、こっちへ来い」
「はい」
鬼の少女が養父の傍に移動しその場で正座すると。
「この馬鹿娘がッッ!!」
パァンと、酷く乾いた音が辺りに響いた。
「おっ、ちゃん?」
その場にいる誰もが目を見開いた。
しかしそれも無理なからぬ事。
何故ならーー養父はその手で篝の頬を思い切り殴り飛ばしたのだから。
さーて盛り上がって参りましたぁ!!




