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Twin come beast【5】

まさかまさかの大どんでん返し!! とくとご覧あれ!!

 凩は折れた刀を構え赤褐色の光と相対する。

 そこにあるのは圧倒的な力の差。奇跡では埋めようが無い、絶対的な死の気配。

 今のままブレスを受ければ全滅は確定。それはどうやっても回避しなければならない。


 しかし、俺には力の差を埋める方法も奇跡を起こす方法もーー。


「ーーある」


 ……あった。

 たった一つだけ、か細い可能性の糸はまだ残っていた。

 確かにこの場で奇跡を起こす事は出来ないかもしれない。けれど、絶望的なまでの力の差を埋める可能性のある、そんな夢のような逆転のアイテムを俺は既に持っている。


『成る程。奇跡を起こすよりはまだ現実的な判断だ。しかし……良いのか?』


 それが果たしてそれは正しい行為なのかは分からない。けれども今はもうそれ以外に現状を打破する手段が思い付かない。だから、後で何が起ころうが今やるしか無い。


 出し惜しみは無しだっ!!


「間に合えよッ……!!」


 後でどれだけ咎められても構わない。けれど今だけはーーッ!!



♪ ♪ ♪



「終わりにしよか篝。絶望するにも、もう疲れたやろ……?」


 赤褐色の死が放たれた刹那、凩は鬼に向かってそう問い掛ける。

 しかし此方へ向かって来るのは返事では無く、ただの悪意と殺意のみだった。


「ワリャは死ぬかも分からん。だから、せめて最期はワリャの全身全霊を以って……その身にこびり付いた絶望を振り払う」


 それは最期にして餞別の一撃。

 『烈風』と呼ばれた男の最強の一撃。


「浦……風ッッ!!」


 その斬撃は風を纏い、倒れた木の葉を吹き散らす。その様は正に凩。『烈風』の名に違わぬ見事な斬撃だった。


 その剣線は風邪を纏い砂礫の波を散らして行く。しかしそれは一瞬の拮抗。


 間も無く砂礫の前に霞んで消ーー。


「凩ッッ!!」


 ふと、凩の視界の端に何かが映った。見覚えのあるその形は刀そのもの。

 いや、凩はこの刀の事を良く知っていた。


 造りは太刀拵え、刃文は糸直刃。その刀のは……『野分』。


「それを使えッ!!」


 その刀を土壇場で握ったのは剣士としての本能か。凩は半ば反射的に折れた刀を捨て、飛んで来た刀を掴むと、それをそのまま引き抜いた。


『萎びた青菜みたいな顔が、随分と良い顔をするようになったもんだ。凩』


 すると、そんな声が聞こえた気がした。


「おっ……ちゃん?」


 その声を聞き間違える筈が無い。何故ならその声は凩の養父のものなのだから。


『馬鹿な娘に馬鹿な息子。だがおれにとっちゃ、どっちも大切な子供だ。それにこうなっちまった責任はおれにもある。だから……仕置きの一撃はおれも放つ』


 刀から暖かなものが身体に流れ込んで来た。暖かく包み込むようなその力を言うならばーー家族の絆と、そう言うのが相応しいだろう。


 凩は暖かなその力に導かれるように『野分』を構え一切の躊躇い無く振り下ろす。


 『浦風』が消え、砂礫の濁流が雪崩れ込もうというその瞬間に。



「ーー天津風ェェェッッ!!」



 二度目の暴風が吹き荒れる。


 雲の通い路を吹き閉じる神風は砂礫を消し飛ばし、単眼の鬼の元へと殺到する。

 清人の攻撃により体力を大幅に削られた鬼にこれを逃れる術は無い。


「杉原清人、あんさんに最大級の賛辞と感謝を」


 そう手短に述べると凩は驚愕の表情を浮かべる鬼の元へと駆け出し、その鬼の身体を切り飛ばした。



♪ ♪ ♪



「杉原清人、あんさんに最大級の賛辞と感謝を」


 俺はその言葉で俺はやったのだと、そう確信した。


『あの刀を無限収納に入れていたのが功を奏したな。そうでなければ半魔獣化した際に破損していただろう。全く、悪運の強い奴だ』


「まぁ、そうなる。……俺もこんな風にあの刀を使うとは思わなかったけどな」


 俺は自刃する時の為に半ば無理矢理凩の養父に『野分』を持たされていた。それを凩に知られたくなかった俺は久しく使っていなかった無限収納に刀を入れておいたのだ。

 そして、その事をつい先程思い出し、刀を無限収納から取り出し、ぶん投げたっていうのが真相だ。


『思えば、あの時の養父の言葉も態度も妙だった。もしかすると刀をあの男に渡せと、そう言いたかったのかもしれないな』


「そう、かもな」


 言われてみればそんな気がしなくも無い。自分の大切な刀をどこの馬の骨とも知らない男の自刃用に持たせるのはおかしいし、手前勝手だと言った中には養父自身も含まれていた。

 それに養父はこうも言っていたのだ。


『まぁ良い。異邦人に任せるってのは良い気分ではねえが……頼んだぞ。おれの馬鹿な一人娘と……萎びた青菜みたいな、たった一人の大切な馬鹿息子をよ』


 たった一人の大切な馬鹿息子を頼むと。


 そして間も無く、凩は『野分』でもって鬼の体を貫いた。


『どうだ? お望みのハッピーエンドの感想は』


「ハッキリ言って……最高だな」


 鬼が黒い粒子となって空へと還って行く。そしてその場には黄色の宝珠と一人の少女が取り残された。


「さてと、お待ちかねのリザルトのお時間か」


 緩慢な動作で身体を起こすと俺は宝珠の方へと近付き、手を伸ばした。


 あと十センチ、一センチ、数ミリと順当に近付き遂に『欠片』に触れるというところで……突然『欠片』がその場から消えた。


「え?」


 喉奥から間抜けた声が思わず漏れ出た。

 『欠片』は一体何処にーー。


「……悪いけど。これは渡せない。特に、お前には」


 視線を彷徨わせた先、黒い人影の手の中に『欠片』はあった。

 仄暗い闇から覗くのは白い狐の面と『デイブレイク』の黒い外套。

 その出で立ちを見間違える筈がない。


「ーー『暴食』ッ!!」


 ハザミを騒がせる人喰い、『暴食』が『欠片』を手にしていたのだ。


 『暴食』はゆっくりと『欠片』を口元へと近付けると僅かに面をずらし。


『まさか、まさか、まさかッ!!』


 『欠片』をまるでスナック菓子を食べるような気軽さで咀嚼した。


「ーー嘘、だろ?」


 目の前でかつて己の肉体だったものが噛み砕かれる様を見たオルクィンジェは怨嗟の声を上げながら強引に俺の身体の支配権を奪い取った。


「貴様ァァァァァッッ!!」


 しかし、そう叫んだ時には既に『暴食』の姿は無かった。


「貴様は殺す! 何としても! 何をしてでもッ!!」


 ……戦いの果てに残ったのは荒れ果てた森と、朝の生温い風と、決して癒せない深い傷痕だけだった。

ね? 文字通りのとんでもない大どんでん返しだったでしょ?


次でハザミ編完結です。

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