Twin come beast【4】
百話突入ーー!!
そしてアイツにまさかの死亡フラグが……!?
「清人!? 魔獣になったんじゃなかったの!?」
「ふん、愚問だな。ちょっとヤバかったけど峠は越した。言っただろ、こっからは俺達のターンだってな」
「あれ……何か言動混じってる?」
「気にするな、些事だ」
そう口にしながら拳を押し返す。
今までに無く気が高まる……溢れるッ!!
「征くぞ……ッ!!」
獣の脚が躍動する。その動作は暴走していた時よりも速く、鋭い。
そしてそこから繰り出されるのは巨大な爪による連撃。
「らァァァァァッ!!」
「何や……あの動き。さっきの好き勝手に動いてたんと全く違う。さっきよりも数倍……速い!!」
凩が驚嘆の声を漏らすがそれもその筈。この身体を動かしているのは決して俺一人ではないのだから。
現在、絶望に蝕まれたこの身体は俺とオルクィンジェによって魔獣化を維持したまま動いている。つまりこの身体は今、俺とオルクィンジェの共同経営状態と言って良い。その為表出する意識は丁度半分ずつとなっており、本来の俺なら出来ないような挙動も可能になっている訳だ。
それは完全に意識を入れ替えるスイッチとも違い、魂を共鳴させる『シンクロ』よりも尚深い。
であればこれはーー『リミットオーバー・アクセルシンクロ』と、そう呼ぶのが良いだろう。
雨霰のような攻撃によって鬼の体には無数の傷痕が出来ていた。しかし、そのどれもが致命傷には至らない。
「一点に攻撃を集中させなければ倒せないか。……アニッ!!」
「ん。りょーかい! 絶対拒絶封糸!!」
アニの短剣から発された糸が巨体に絡み付く。鋼鉄を凌ぐ硬度を誇るその糸は万力の力によってブチブチと引き裂かれてしまうが、それでも数秒の時間ロスを生む。そして、その数秒があれば、俺達は極大のダメージを与える事が出来る。
「肉薄……からのォッ!!」
右手には手がひりつく程の冷気の塊を。左手には手が焼け付く程の熱の塊をそれぞれ生成する。
「イルク・マグラァァァァァッッ!!」
それは自爆覚悟の一発芸ーーでは無い。魔獣化に伴い強化された肉体を得たからこそ十全に効果を発揮する俺のメインウェポン。
そしてその爆発の威力も調整しなくて良い分、平時よりも断然高くなっている。
「爆裂しろ……雑兵ッ!!」
更地となった森に重々しい爆発音が響き渡った。
「やったかな!?」
「まだまだ……追撃だァッ!!」
間髪入れずに追撃、追撃追撃ッ!!
息を吐かせるままない程の攻撃を一気に叩き込む!!
「これで……終わりだッ!!」
単眼の鬼の胴を爪が貫く。硬化した皮膚を砕く感触が全身を伝いーー。
『霞の穏鬼』がニヤリと嘲笑を浮かべるのが見えた。
「っぐ!?」
それは、弾丸に射抜かれたような鮮烈な痛み。脚や腕に無造作に走る痛みに顔を顰める。
そしてその場所を見ると先端の尖った礫塊が深く食い込んでいた。
「まさか……『欠片』による『魔素』操作を今習得したのか!?」
攻勢が一転し、今度は俺が一方的に礫を受ける番になってしまった。
「ぐっ……」
俺の魔獣化は敏捷性に富む代わりに耐久が低く比較的打たれ弱い。オマケに完全に魔獣化していないが故に人間のままの部分が致命的な弱点となる。
つまり、ヒットアンドアウェイが破綻した瞬間に劣勢が確定してしまう。
それを知ってか知らずか単眼の鬼は四方八方に礫を放ち続ける。
肩に、腹に、腕に、礫は問答無用で食い込み気力と体力を掠め取って行く。
「あんさんッ!!」
「ダメかな!! 今行っても巻き込まれて邪魔にしかならないよッ!!」
視界が霞む。どうやら無理をしたガタが丁度今来てしまったらしい。
ボロボロになった獣の手足が黒い粒子となって空へと還って行く。
『このタイミングで解除されたかッ!!』
それと同時に『リミットオーバー・アクセルシンクロ』も解除され俺はただの負傷者に成り果ててしまった。
「畜生……。タイミングが悪過ぎるだろ」
そんな俺を嘲るように鬼は口を開いた。それは言葉を発する為……では無い。それは広範囲の殲滅攻撃の予兆。
口元からは砂礫が漏れ、喉奥は赤褐色に光っている。
「全員抱えて『加速』で逃げればーー」
『駄目だ、それでは誰も逃げられない!』
何が他に手は無いのか? 何、他にーー。
その瞬間、俺の肩に誰かの手が触れた。
「あんさん」
振り向けば風に靡くのは焔のような赤い髪。半ばから折れた刀を手にした一人の男の姿が見えた。
「ーー凩?」
「……あんさんはようやったわ。だからこっからはワリャの番や。あんさんは下がってゆるりと休んどき」
一凩はそう口にすると、折れた刀を鬼へと向けた。
「……元々これはワリャの問題や。せやから篝との決着はワリャが付ける」
「駄目だ凩!! お前……死ぬぞッ!!」
しかし凩は退かず、ただ哀しいだけの笑みを浮かべるばかりだった。
「そうかもしれん。けど、例えばワリャの神がかった一撃が炸裂して勝つかも分からん。それとも鬼が自爆するかも分からん。可能性は絶無やなんかやない。ほんなら案外起きるんやないかなって、奇跡ってもんが」
「そんなーー起こるかも分からない奇跡に命を懸けるのかよッ!! ふざけるなよッ!!」
「せやからさ、あんさんは蜘蛛子とジャックを連れて逃げてや」
そこで凩の意図を察してしまった。
凩はーー俺達を逃してここで死ぬつもりなのだ。
「駄目だ!! お前こそ生きろッ!! 俺を踏み台にしても生きろッ!!」
凩に詰め寄ろうとしたが、全身の痛みのせいでその場に倒れ込んだ。
痛い!! 痛い!! けれど一番……心が痛いッ!!
「あんさんは、見てて悲しくなるくらい優しい人やの」
そう口にすると凩は口を大きく広げた鬼と相対しーー。
「凩ィィィィィッッ!!」
俺は、喉も枯れよと叫んだ。
ーーけれど凩はもう振り返らなかった。




