Handout【A tragic summer】
リメイクです!宜しくお願いします!
2013年7月13日
蝉の鳴き声が響き渡る。
吹き抜ける風が酷く生温くて少年は顔を顰めた。
夜の公園は昼間の賑わいとは打って変わってもの悲しい静けさが漂っている。
少年はベンチに腰かけて黒猫を撫でながら吹き出る汗を拭った。
「……良かったのか?家出なんてして」
黒猫を撫でる手を止めて少年は隣で伸びをする幼馴染の少女に尋ねた。
「良いのよ。……私が家にいても碌な事起きないし。それに家出したいって言ったのは私よ。清人が気にするような事じゃないわ」
少女は自分の栗色の髪を弄りながら半ば呆れたようにそう言った。
「そう、か……」
気まずい沈黙が二人に降りかかった。
蝉の鳴き声と黒猫の鳴き声だけが夜の公園に虚しく響く。
少年には少女にどうしても聞かなければならない事がある。
けれど、それを聞いてしまえば今までの心地よい関係はきっと壊れてしまう。
それでも少年はそれを少女の口から直接聞かなければならなかった。
「……清人」
不意に少女は少年の名前を呼んだ。
「清人は私の事……好き?」
そして悪戯っ子のような表情で、甘やかに少年に尋ねるのだ。
少年の顔がボッと赤らむ。いかにも初心な反応に少女はクスクスと笑みを浮かべた。
「か、からかうなよ。……それに俺、■に聞きたいことが――」
少年が意を決して口を開いたその時だった。
膝の上で大人しくしていた黒猫がいきなり道路へ飛び出した。
信号機の緑が明滅し、車のヘッドライトが黒猫の姿を照らし出している。
「クロ!!」
叫ぶけれど黒猫は戻っては来なかった。
黒猫と比べると余りにも大きな車体が迫る。
「……ッ!!」
ふと、甘い匂いがした。
視界の端で揺れる見慣れた長い栗色の髪。
「――好き」
薄く笑みを浮かべたまま道路へと消えていく少女に少年は何もできなかった。
絹を裂くようなブレーキの絶叫。冗談みたいに撥ね上げられた少女の肢体。
少女が何を思って道路に飛び出したのかは分からない。
けれど、ブレーキの残響が耳奥でこだまする暑苦しい夏の夜。
少年と黒猫は血の海に沈む少女を見ていた。
公開されたハンドアウト
・少女の死亡
・少年と少女の関係
公開されていないハンドアウト
・少年が少女に聞きたかった事の内容
・少女は何故道路に飛び込んだのか