出会い
ようやく過去に戻ったと言うことが理解できたのは良いがこれからどうしていったらいいのか分からないまま、小鉄と移動教室までの道を歩いていた。
「充ー。なんだよ冴えない顔して。」
確かに俺は状況が完璧に理解できたわけではない。
「うるせーな。生まれつき冴えない顔してんだよ俺は。」
とりあえずここは会話の流れに合わせるか。
小鉄は立ち止まり、俺に耳打ちをしてきた。
「充くん、良かったじゃん。後ろからお目当の十河が来るぞ。」
お目当ってなぁ…そう思いながら後ろを振り返った。
スタイル抜群で赤みがかった綺麗な茶髪を揺らしながらこちらに走ってくる美少女。
咲だ。
「高谷くん、怪我大丈夫?」
この時、俺は充じゃなくて高谷くんと呼ばれていることで過去に戻ったんだと再確認した。
この時、咲が話してきたのは、俺が彼氏と言うわけでもなく、気になる相手と言うわけでもなく。ただ保健委員として話しかけてきたのだ。
「ごめんね、高谷くん。保健委員なのに対したこともできなくて…」
彼女はとても落ち込んでいるようだった。他人のことでも自分のことのように心配してくれる。そんな彼女が大好きだった。
確か、咲との出会いも俺の怪我を通じて知り合ったはずだ。ここでもまた過去に戻ったんだと実感させられた。
「大丈夫だよ。これくらい平気平気!」
ここはあえて過去に戻ったことを伝えずにいつもの俺らしく振舞った。
「良かった。安心した。次の授業、遅れないようにねっ」
安堵の表情を浮かべ、手を振りながら廊下を駆けて行った。やはり可愛い。
放課後、俺は小鉄に事情を話した。
「充って頭おかしいと思ってたけどここまでおかしいとはね…」
小鉄、俺お前と友達やめようかな。
「でもそういうのってファンタジー溢れるよな!詳しく聞かせてくれよ!」
俺は小鉄と自販機でコーラを買い、飲みながら高校生活で起こることを話した。
「なるほどねぇ、で、充は十河と別れることを阻止したいんだよな?」
さすが小鉄、話が早い。俺は飲み干したコーラをゴミ箱に投げ入れ、頷いた。
「だから友達である小鉄に手伝って欲しい。咲との関係を終わらせたくないんだ」
小鉄は腹を抱えて笑った。
「てか、充、お前十河となんの関係もないじゃん」
そうだった。今の俺には咲との関係はただのクラスメイトだ。これをなんとか打開しないと。
「それも含めてだ。とりあえず小鉄に協力してほしい」
小鉄は笑顔で親指を立てた。小鉄は了解するたびにこのポーズをしてくる。俺は安心した。
咲と付き合うには小鉄の協力なしでは実現できない。小鉄はコミュニケーション能力に長けている。悪いがここは利用させてもらうことにしよう。
次の日、小鉄は早くも咲と仲良くなっていた。
俺と咲が知り合う前から小鉄と咲は仲が良かったというのは前の日常でも同じだった。
「充くんっ、十河さんのことジロジロ見て何考えてるのっ」
陽気に話してくるこのショートカットの女。
分かった。あいつだ。未来だ。
未来と俺は幼馴染で家族同士でも仲が良く切っても切れない関係だった。
「なんもねーよ。小鉄を見てたんだよ」
照れ隠しなのかなんなのかよくわからない返答をした。
未来はそれを聞いてなぜか引いていた。
「充くんてやっぱそっちなんだね…」
即座に反応した。
「未来、今日何色履いてるんだ?」
未来はアニメに書いたようなドン引きした表情で「変態、ママに言いつけてやる」と小声で言って走り去った。
待ってくれ。このままじゃ身内がいなくなる。
それはそうとして、小鉄が笑みを浮かべながら寄ってきた。
「十河って案外話しやすいんだな。勝手に話しにくいやつかと思ってたけど…。まぁこの調子じゃ充とも仲良くなるのもすぐだと思うぜ」
さすが小鉄。お前と友達になれて良かったよ。と心から思った。