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 さて、皆さま。

 結婚に関して、皆さまはどう思われるでしょうか。

 どう、と言われても、特にわたしと同年代の若い方たちは、困るかもしれません。

 正直わたしは、こちらの世界に来るまで考えたこともありませんでしたし、なんなら恋愛観すらちゃんと持っておりませんでした。


 そんなわたしが既婚者、しかも嫁として、なんてとんでもない状況になってるのは、さて置くとして。


 結婚の話です。

 わたしの、ではありません。

 もちろんフィフィくんでもありませんフィフィくんにはまだ早い。


 誰のかと言えば、フィフィくんの大きなお友達、赤将軍ジャックさん。

 それに、海の邦マレアの妹姫、アンナさん。この二人、どうにかまとまらないかな、と思ったり。


 ジャックさんはとってもいい人だし、結婚願望が強い。

 アンナさんは未婚……というか、恋愛で結婚しなさそうな人。


 そしてジャックさんは巨乳大好きで、アンナさんは筋肉大好き。

 おたがい相手の好みの要素はあるのだ。それ以外の要素はアレだけど。


 もちろん、一国の将軍と領邦の姫君。

 外見の好みだけで結婚するわけにはいかないけれど……おたがいの立場的にも、あんがい悪くない相手じゃないか、と思ったり。



「――というわけで、ちょっと話を進めてみたいと思います」


「なんですか唐突に」



 王妃の居室。

 いきなり椅子から立ち上がって宣言したわたしに、ロマさんが怪訝な目を向けてきた。



「ジャックさんとアンナさんの縁談の話。以前アンナさんに尋ねたときは、兄に相談してみないと、ってことで棚上げになったんだけど」


「それはていのいい逃げ口上では?」



 ロマさんが冷静に突っ込む。



「うーん……かもしれないけど、いまちょうどお兄さんの海の邦の君主リンクス・マレアが来てるし、当たって砕けるのもいいんじゃないかなって。」


「砕ける前提ですか」


「わたしはいいと思うんだけど……どうもみんな、この話すると微妙な顔するし。第一アンナさんもわたしの友達だから、嫌がるアンナさんを無理やりってのは、考えてないし」


「わたくしもお友達ですわ」



 唐突に主張するロマさん。

 いや、その主張に否やはないけど、いきなりなんなの。



「えーと……ひょっとして、ロマさんにも結婚相手、紹介したほうがいい?」


「姉さまは義妹の心がわからない……」



 よくわからないけど、ロマさんが不満そうです。







 ――とりあえず、アンナさん本人に聞いてみよう。



 という話になった。

 兄のリオンさんには貸しがあるし、話を持っていくと、無理に受けちゃうかもしれないし。

 アンナさんの意思を最大限尊重したいわたしは、だからまず、彼女とお話することにした。


 というわけで、アンナさんを部屋に招いて、経緯を説明する。



「ふ、ふへひゃへひゃへへ? ――ごほっ、ごほっ、けへっ……はあ、はあ……は、はわわわ」



 話を聞いたアンナさんは、顔を真っ赤にしながら……なんというか、名状しがたい反応を示した。



「どうしたの急に。大丈夫?」


「無理です」



 と、アンナさんは顔を紅潮させたまま、強く言う。



 ――無理って、ジャックさんとの結婚が、ってことかな?



 そう思いながら、首を傾けていると、アンナさんは言葉を続ける。



「筋肉は、好き……です」



 知ってます。



「でも……好きなのは、筋肉と筋肉のぶつかり合いっていうか、あたくし自身は邪魔というか……あたくしは観葉植物か天井になって観ていたいんですよ……うぇへへへ……」



 アンナさんは、そう主張する。


 好みだけど、カップリング妄想の対象としてであって、自分はただただ観ていたい。恋愛対象としては考えられない……って感じなのかな?


 ひょっとしたら、妄想に使えないタイプの人間のほうが、逆に結婚相手として考えやすいのかもしれない。



「ジャックさんじゃなくても、こういう人が結婚相手だったらいいなあ、ってタイプ、あったりしない?」


「いまは、あんまり……この王宮が、あまりにも素敵すぎて……うぇへへへ」



 ほんとにこの子は……

 いや、幸せ絶頂、って表情されたら、なにも言えないけど。



「……正直、ジャックさんのことはどう思――」


「――兄上と絡んでほしいですねぜひともっ!」


「食い気味に即答!?」


「うぇへへへ……」


「もう妄想モード!?」



 思わず突っ込むと、現世に戻ってきたアンナさんは頭を振る。



「……いえ、考えてないです。赤将軍ジャック様に押し倒される兄上のことなんて考えてないです」



 ……まあ、感触は悪くないみたい。

 一度話してみないか、と尋ねたら、いつもどおり、挙動不審に心細さを訴えてきたので、わたしも立ち会う事になった。


 一応、そういう段取りでは考えてたんだけどね。







 そして数日後。

 庭園が見える一室でお茶会とあいなった。

 出会ったふたりは、たがいに意識しまくってる。

 でも、アンナさんの目線は筋肉を舐め回してるし、ジャックさんの視線は胸に一点集中。



 ――どっちも感触悪くなさそうなのに、不安しか無いのはなぜだろうか。



 ぎこちないながらも、会話は途切れない。

 ジャックさんもアンナさんも、会話がうまい方じゃないから、本当に相性は悪くないんだろう。



 ――ひょっとして、ひょっとする?



 ジャックさんが振られる可能性、高いだろうなあと想像していたけど、期待できるかもしれない。


 と、思った、ちょうどその時。



「ひ、姫さんの趣味ってなんだ?」


「し、趣味……ですか……」



 ……あ、マズい。







「王妃様よう……せっかく紹介してもらって悪いけど……いや、いいヤツではあるんだけどよぉ……」



 ジャックさんの感想である。


 まあ、アンナさん。

 あのあと全力全開で突っ走っちゃったからなあ。


 いくら外見は好みで身の上も申し分なくても、さすがに腐の暗黒面をぶつけられたら二の足を踏んじゃうのもしかたない。


 しかし、まさかジャックさん側が断る側になるとは。

 いや、はっきりとは断ってないけど。なんだか普通に打ち解けちゃったみたいだけど。


 まあ、アンナさんの趣味はともかく、相性はよさそうな二人。

 友達関係くらいになってくれたら、紹介した甲斐があったというものですが……さて。


 すくなくとも、アンナさんの本は分厚くなりました。




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