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45 休息の日



 さて。

 海の邦マレアを巡る一件。

 事の成否がわかるのは、まだ先のことですが……ひとまず、ひとつの筋道をつけることができました。


 いや、非常に疲れました。

 処理を間違えると戦乱一直線になりかねないだけに、神経が削られる案件でしたし。

 為政者として、他人に任せていい範囲、手綱を握っておくべき事について、非常に考えさせられた一件でしたし。


 まあ、そんなわけで。

 お疲れモードのわたしは、ベッドに寝転がって骨休めの時間をとっているわけです。



「むふー」



 ベッドはふかふかです。

 やばいです。結婚したてのころを思い出します。無限にダラダラできそうです。


 でも、欲を言うなら。



「――はあ、フィフィくんに甘やかされて癒やされたい」


「変態ですか」



 侍女のロマさんの、容赦ない一言が降ってきました。



「違うんです」



 と、ベッド脇から見下ろしてくるロマさんに弁解する。



「わたしが求めてるのは、性的なアレじゃなくて……地蔵菩薩的な愛情――とは今回違うけど。純粋に可愛い息子に癒やされたい欲求というか、なんというか……」


「……なるほど」


「あ、納得してくれた?」


「なにを言ってるのですか。姉さまの主張を把握しただけです。理解も、納得も、わたくしには不可能です」



 断言された。

 理解されなくて悲しい。



「……それで、参考までにお尋ねしますが、どんな手段でフィフィ殿下に癒やされたいと思っているのですか?」



 ロマの問いに、ふむ、と考える。

 どんな手段で、と聞かれれば、10や20パッと出てくるのがわたしです。


 まずは。



「膝枕」


「変態ですね」


「ナデナデしてもらいたい」


「変態ですね」


「頑張ったねって褒めてもらいたい」


「変態ですね」


「肩凝ったし、肩なんかもんでもらいたい」


「極めて高度な変態ですね。あと嫌味ですか。無駄に大きい肉を胸につけているから肩がこるのです」



 なにか言うたびに変態扱いするのは勘弁してほしい。



「なにもできない」


「なにもしないでください」



 ツッコミに容赦がない。

 癒やしを求めるわたしに対してご無体な。


 はあ、と、ロマさんは深いため息をついた。



「まったく……膝枕やなでなでくらいなら、わたくしがさせていただきますのに」


「だって、ロマさんにやってもらったら、ちょっとセクハラくさくない?」



 一応元男だし。

 その事実を、彼女は知ってるわけだし。



「思い出したように元男主張するのはやめてください。実害もありませんし、王妃様に対して危機感なんて一切持ってません」



 むう、と、彼女は拗ねたような表情で断言する。


 もちろん、害を及ぼす気なんてまるでないんだけど。

 そこまできっぱり、わたしの男的な部分を否定されると、複雑な心境だったり。

 いや、男だったときからそんな扱いだった気がするけど。いとこのかもちゃんにも似たようなこと言われたことあったし。



「わたしってそんなに無害そう?」


「妙齢の女性に対しては、そうです」



 暗に少年に対しては危険だと言われている気がする。



「むしろ姉さまは、自分の身を守ってください。殿方との距離が近すぎです。惚れられますよ?」


「ははそんな馬鹿な」



 それは、心配しすぎというものだ。

 こっちにそういう感情はまったくないし。惚れられる努力もしてないし。既婚者だし。



 はあ。とロマは、ふたたび深いためいき。



「想像してみてください。姉さまのそばに、やんごとない身分の妙齢の美人が居たとします。そんな方が、恋人距離で親しく話しかけてくれたり、いっしょに悪ノリしてくれたりしたら……どう思われますか?」



 そう言われると……やばい。好きになっちゃうかも。



「すこしは危機感が湧いてきたでしょう?」



 顔色でわかったのか、ロマさんがわずかに苦笑をうかべる。


 ヒャッハーたちのあのノリをみてると、あの子達は大丈夫だろうと思うけど、誰にでもあのノリでいくのは止めたほうがいいかもしれない。



「さいわい、あの野卑な方々ヒャッハーどもは、どういうことか、王妃様に異性としての魅力よりも母性を感じてらっしゃるようですがね」



 ほんとうにどういうことなの。

 いや、何人かそんなのが混じってるのは知ってるけど。


 わたしはあいつらのママじゃない。

 フィフィ君のママです。



「むしろ注意すべきはフィフィ――殿下ですよ」


「どういうこと?」


「殿下も10歳です。まだ幼いとはいえ、異性を意識しだしてもおかしくありません」


「そ、それは……ま、まだ早いんじゃない、ですかね、ぇ……?」


「姉さま、動揺しすぎです」



 ロマが冷静に突っ込む。


 いや、無理でしょ。

 動揺するなとか無理すぎる。

 王様だって動揺するよきっと。



「いえ、どう考えてもフィフィくんにはまだ早いデスよ。フィフィくんにお相手なんて……どれだけ可愛いくて性格が良くて家柄も良くてフィフィくんのことが大好きな子を探さなきゃいけないと思ってるんですか!」


「あ、自分がお相手になるって発想はなかったのですね。そこは安心しました」



 ロマが胸をなでおろす。なぜに。



「なにを言ってるんです。フィフィくんはわたしの息子ですよ? 親子で恋人とか、おかしいじゃないですか」


「……発想に異様なものを感じますが、結論に問題はないので触れないでおきましょう」



 いや、わたしの神の愛アガペーを触れたくないもの扱いされても困るんですが。



「――ともあれ、です。書面上は母子とはいえ、姉さまと殿下は血が繋がっておりません。年も6歳差。素直に親子と思うのは難しい近さでしょう」



 たしかに。

 彼女の言葉には、反論できない。

 それを超えて絆を結んでいきたいと思ってるけど。



「そして姉さまは、どういうことか、外面だけは、非常に、魅力的な女性です」


「いまさらだし、他意があるなら直球で言ってくれていいんだけど」


「そこは無視スルーしてください――とにかく、そんな女性が、母親距離で接すれば、かえって異性として意識させる結果を生むかもしれません」



 彼女の主張は。

 叔母が母代わりだったわたしからすれば、同意し難い。

 けれど、わたし一人の体験だけで、荒唐無稽と否定できるものでもない。十分に考えられる可能性だ。



「それは……問題だよね。わたしはフィフィくんに慕われたいし懐かれたいしママ大好きオーラ全開でくっついてきてほしいけど、フィフィくんをマザコンにはしたくない」


「姉さまの思考が異世界すぎて軽く混乱していますが……結論には同意いたします」



 ん? なにか変なこと言っただろうか?


 でも、困った。

 年齢差なんて今更どうにもできないし、容姿も……この容姿で聖女や王妃やれてるとこがある以上、変なイジり方するのもどうかと思う。


 いったいどうしたものか。



「……やっぱり口調かな? もっとおばあさんのような口調で」


「待って。いきなりなにを言い出すんですか姉さま」


「服も髪型も……なるべく落ち着いた……いっそ400年前のファッションにするのはどうだろうか?」


「落ち着いてください姉さま。美人がそれやっても無駄です。貴族の間でその装いファッションが流行るだけです。そしてそれは殿下の性癖が無駄に歪みます。そうじゃなくて距離感の問題――」


「ふぉふぉふぉ……なあ、ロマさんや? 何事もためしてみるものじゃよ?」


「冗談ですよね? 殿下とべたべたくっついてたいから現実逃避してるだけですよね? まさか正気じゃありませんわよね姉さまーっ!?」



 平和な王宮。

 王妃の寝室に、悲鳴がこだまする。


 なんでもそつなくこなすロマさんですが、心配性すぎるきらいがございます。

 フィフィくんに色恋なんてまだ早すぎますし、その対象がわたしになるなんて、絶対にありえません。


 だからフィフィくんは、もっとわたしに甘えてくれていいと思います。

 もちろん、甘やかされるのも望むところです。


 ……ロマさん。わたしに犯罪者を見るような視線を向けるのは止めてください。






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