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34 教皇


 さて、皆さま。

 2m近い長身の主に見下された経験があるでしょうか。


 わたしはあります。

 友人で、童話と子供が好きな優しい子でしたが、それでも正面から見下されると圧迫感がすごかったです。


 ましてや、はるか年上で。

 暴力的な強面で、すさまじい眼力の主で。

 威厳が過剰にあふれている方だったら……やばいです。シャレになりません。思わず土下座して命乞いしたくなるくらい怖いです。


 とにかく。

 あわただしくなった王宮の庭で、なぜかわたしは自称「教皇の使者」に見下されております。



「ふううむうう」



 それはなんの唸り声ですか。

 オーラでも練ってるんでしょうか。

 大気が揺らいでるように見えるんですが、錯覚ですか。


 おかげで駆けつけてきたロマさんも腰砕けになってます。

 従者さんはわたしを守れる位置に来てくれたけど、畏れ多いのかひれ伏してます。



「すっばらしいっ! 人と自然の、なんと高次に調和した在り方かっ!」



 そして領邦君主ロッサ様は感涙にむせび泣いてます。

 調和どころかオーラで自然をねじ伏せてるように見えるんですが、芸術家の感性はわかりません。


 あ、風が吹いてきた。

 自称使者様の法衣が風にはためいてる。

 これ、超常の能力によるものじゃないよね?

 いまさら魔法や奇跡が飛び出してこないよね?



「王妃殿下とお見受けしたっ! お初にお目にかかるぅ! 余は、教皇よりの使者であるっ!」



 あの。身長差のせいで、礼をしてるのか見下ろしながら凄んでるのかわかんない状態です。


 本気で命の危機しか感じない。

 でも、おびえてなんかいられない。


 わたしは王妃だ。

 王妃の名とともに、国の威信を背負っているのだ。

 他国の人間に無様を見せるような真似は、絶対にできない。



 ――よしっ!



 心に喝を入れて、自称使者様に礼を返す。



「日輪の王国、国王妃、リュージュ・センダンでございます。遠方よりのご来駕、ありがとうございます」



 わたしの礼に対して、自称使者様は、壮絶な笑顔を浮かべた。



「お言葉、かたじけなしっ! 従者ともども世話になるっ!」



 使者様の後に控えていた従者たちが、言葉とともに一斉に礼をした。

 そろいもそろってゴツい男ばかりで、本気で圧迫感しかない。



 ……というか。



「使者様、失礼いたします――きみたち、なにやってんの?」



 従者のなかに、知った顔が混じってるのを見て、声を掛ける。



「姐さん! オレたち目覚めたんだ! あの経典馬鹿の気持ちがわかったぜ!」


「これからはケーケンな神のシントとして生きていくぜヒャッハー!」


「この御方が風を起こすとスカートがめくれるんだぜヒャッハー!」



 若干お目々がキラキラしているが、うちのヒャッハーたちだ。



「都の往来で絡まれたゆえ道理を説いたところ、経典の教えに目覚めた者たちであるっ!!」



 なにやってんのヒャッハーたち!?

 なにやってんの使者様!



「すみません! みんな、うちの大事な子たちなんで、許してやってくださいっ!」



 わたしは全力で謝り倒す。

 もう、あらゆる意味で予想外すぎるっ!







 とんだハプニングだったが、その後、自称使者様は応対の人間に案内されて、西棟の一室に落ち着くことになった。

 二階部分に居るフィフィ君とプライベートで顔を合わせることはないだろうけど、変な影響を受けたら嫌だなあ、と思ったり。


 ちなみに、ヒャッハーたちは宰相閣下にお説教を受けてます。

 (推定)教皇と一国を代表する君子の説教を立て続けに受けるなんて、なかなかできることじゃないよ。


 ともあれ、腰砕けになったロマさんを助けて部屋に戻り、休憩――していると、心休まる暇なく、王様からの呼び出しがあった。

 王様の居室の手前にある謁見室に入ると、そこに居たのは、例の自称使者様だけ。いや、控えの間に衛兵が控えてるのは知ってるけど……



「リュージュ、よく来た。遠方よりいらした使者殿をねぎらうため、お前を交えて一席設けたい」



 インスタントに人払いが出来るから、便利だねお茶席。



「……さて。両人には、余の正体を、明かしておかねばなるまい」



 お兄さんが自ら点てたお茶を喫して、感心の唸りを上げてから、自称使者さんはそう切り出した。



「――余は、マハーカーラ3世。経典教会の教皇である」



 知ってた。

 でも小声でも声通り過ぎ。絶対控えの間まで聞こえてるぞこれ。

 そしてそしてやっぱりインドじゃないかマハーカーラって日本で言う大黒天のことで要するにシヴァ神だろ!?


 多すぎるツッコミをかろうじて飲み込む。

 いくら茶席の場では対等とはいえ、当人にとって意味不明なツッコミだし、話の腰を折るわけにはいかない。



「世情不安の折、猊下自らお越しいただけるとは思いませんでした」


「うむ。たしかにな。道すがら、何度か襲われはしたが……我が説法に感銘を受けて、皆、いまでは敬虔な神の使徒よ」



 お兄さんの言葉に、教皇様はうなずく。


 教皇様、ヒャッハーたちの他にもゴツい従者をぞろぞろ連れてきてると思ったら、みんな元野盗だったのか。

 というか説法で野盗やヒャッハーを改心させるなんて教皇様はんぱない。ひょっとして説法(物理)だったのかもしれないけど。


 というかこんなオーラ纏ってる新世紀創造主によく突っかかっていったものだ。



「家臣のことも含めて、行き届かず、申し訳ない」


「なぁに、王に詫びさせるほどのことではないわ。それよりも、日輪の王よ。あらためて寿ことほごう。ふさわしき伴侶を得たことを」



 えーと。

 わたしが、建国の英雄王にふさわしい?

 わたしそんなに評価されるようなことしたっけ?



「俺もそう思います」



 お兄さんは、にぃ、と、口の端をわずかに持ち上げた。


 やばい。

 いまむちゃくちゃうれしいんだけど。

 お兄さんがわたしを評価してくれてるってそれ教皇様のお褒めの言葉よりよっぽどうれしい!


 とっと、自重自重。

 緩みそうになる口元を引き締める。

 せっかく褒められたとこなのに、だらしないとこを見せるわけにはいかない。



「自らお越しになったのは、リュージュが目当てですか」


「白の聖女の再来にして、かの高名な君子が後見。興味を抱かぬわけがない」



 かの高名な君子って誰だ……ああ、宰相オービス閣下のことか。

 すっかり似非君子のイメージがついちゃってて、とっさに出てこなかった。



「――どれほどの怪物かと危ぶんだが……王妃は人であるな。少なくとも心は、人から極端に外れてはおらぬ。それがよい・・・・・



 と、教皇様は妙な褒め方をする。



「戦乱も収まったいまの世に、白の聖女のごとき人を外れた武威や将器を持ち合わせたものが降臨した――となると、余のような者は、それに意味を求めざるを得ぬ」



 たしかにそうだ。

 白の聖女が降臨したのは、戦乱の真っ只中だった。

 その再来であるわたしは、戦乱が終わってからやってきた。

 もし、白の聖女が戦乱を治めるために遣わされる者であるなら。

 ひょっとして本当の戦乱はこれからなのでは、と考えるのも、しかたない。



「だが」



 と、教皇様はものすごく怖い笑顔を浮かべた。



「王妃の天分は、戦とは別にある。それでよい」



 いいこと言ってくれてるのに、なんでそんなに悪の大首領みたいな雰囲気を垂れ流してるのか。


 その後、聖戦終了後の経典同盟諸方についてや、低地諸方、北洋帝国などの話題を交えながら、大陸を動かす両巨頭のお話は続きました。

 教皇の言葉は真摯で、人への愛にあふれていて、事前知識の教皇像、そして第一印象からの教皇像とも違う、本当の教皇の姿を見せられた思いです。



「ふううむううう」



 でもその謎の唸りと、呼応して大気を歪ませる謎のオーラはどうにかしてほしいです。




活動報告でもお知らせさせていただきましたが、わたしがママになるんだよ!の紹介動画をニコニコ動画様にアップロードさせていただきました。

よろしければぜひご覧になってください!

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