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32 広間とヒャッハー



 さて、皆さま。

 平和、と聞いて、どんな状態を思い浮かべるでしょうか。

 戦争のない状態。そう答える方もいれば、平穏無事な状態、と答える方もいらっしゃると思います。


 日輪の王国は平和です。

 すくなくとも、前者の意味においては。


 たとえ世情が安定にはほど遠くとも。

 たとえ国内ではいまだ賊の類が跳梁していようとも。

 たとえ王宮内ですらヒャッハーどもがやりたい放題であっても。



「ヒャッハー! 今日も朝から呑み倒すぜ―!」



 かつての戦乱の世と比べれば、それなりに平和なんだと思います。



「――この荒くれどもがぁっ!! すこしは身をつつしまんかあっ!!」



 ……おや?







 オービス宰相の怒鳴り声は、ひさしく聞いておりません。

 なにかよっぽどのことが起こったのではないかと、気になってたまりません。

 ですので、ロマさんに眉をひそめられながら、二階の吹き抜けまで行って、こっそりと階下の広間を覗き込むと。



「おおぅ……」



 広間には、正座をさせられたヒャッハーたちに説教する、宰相閣下の姿が!


 えっと、これどういう状況?

 ヒャッハーたちが朝から飲み倒しているのなんて、日常茶飯事だし、なにかやっちゃったんだろうか。


 あ、正座してるヒャッハーと目があった。

 お願いだから、すがるような目で見ないでほしい。

 いや、無理だから。なにか悪いことをしたなら、ちゃんと怒られて……仕方ないなあ。



「――宰相閣下、おはようございます」


「おお、王妃殿下。これはお恥ずかしいところを」


「いったいなにがあったんです? この子達がなにかやってしまったんですか?」


「かあちゃん……」



 だからわたしはキミ達の母親じゃありません。


 あ、勝手に正座崩さないで。

 宰相閣下に怒られちゃうから。

 正座を崩すのは、ちゃんと許可を得てからじゃないと。



「宰相閣下が声を荒げるなんて、珍しいので、気になってしまって」



 視線でヒャッハーたちを制しながら、ごまかすように尋ねる。



「いやはや……王妃殿下のお耳には、すでに入っているやもしれませんが」



 お見通しなのか、苦笑を浮かべながら、宰相閣下は話に乗ってくれた。



「――近日中に、教皇猊下の使者をお迎えする予定でしてな。さすがにこの惨状を他国に晒すのは忍びなく、こやつらには自粛を言いつけておいたのですが」


「ああー」



 いや、教皇の使者とか、お兄さんからはまだ聞いてないけど。



「いや待ってくだせえ!」



 と、ヒャッハーのひとりが声を上げる。



「俺ら宰相サイショーの話は聞いてたんでさあ!」


「だから今日は飲もうと思って集まったんじゃないんだぜー!」


「でもよぉ、いつもの癖で広間に来たら、みんなも集まっててよお! しかも酒まであるんだよ! 普通飲むぜこりゃー!?」



 普通とは。

 と突っ込む前に、宰相の額に青筋が。超怖い。



「貴様らぁ……」


「閣下、まあまあ、閣下、抑えて。あんまり怒らないで。お身体にも障りますし……」



 なんとか怒りを鎮めようとなだめていると、宰相はチラと視線をこちらに向けて。



「パパ、とお呼びくだされば、気が和らぐやもしれません」



 いきなりなに言い出してるのエセ君子。



「なに言ってやがんだエロジジイ!」


「王妃様にそんなひでえことさせられないぜー!」


「そうだそうだー! 説教ならいくらでも聞いてやるぜー!」



 いや、たしかにひどいけど、キミ達いきどおりすぎ。

 そしてこの期に及んで、素行を改めようって選択肢はないんですねキミ達。



「なにを言うか貴様ら! このオービス・クライストス・ジーザスターは、おそれ多くも王妃殿下の庇護者! 庇護者といえば父親も同然! ならばパパと呼ばれることに、なんのはばかりあろうか!」



 宰相閣下までなに言ってんですか。

 いや、主張自体は普段と変わらないけど、大人数の前でなに言ってんですか。


 轟々たる非難が上がり、宰相閣下が堂々と反論する。

 そんな謎の展開に、思わずロマさんをすがるような目で見てみたり。自業自得ですよ姉さま、的な表情で返されたけど。


 そんなときだ。

 王宮の入り口から、誰かがふらふらと入ってきた。



「おーい。酒が足りなくなったから、すこし分けてちょうだいな――と」



 大将軍バルト閣下だ。

 あ、宰相と目があった。

「やべえ」って顔になったけど、もう手遅れです。



「大将軍」



 と、宰相閣下はものすごくいい笑顔を、バルト閣下に向ける。



「ちょうどいい。大将軍とは、部下の統制について、腹を割って話し合いたいことがあったのだ」


「い、いやあー。残念ながら、用を思い出しまして」


「構わん。私がすべて責任を取る。こちらを優先しなさい」



 大将軍。無理です。わたしじゃとりなせない……というか、前に回って部下ヒャッハーたちの顔、見てみてください。

 身代わりが来た、って期待に満ちた目をしてるから。



「では、宰相閣下も用が出来たようですので……みんな、これからはちゃんと閣下の言いつけを守らなきゃだめだよ? 気をつけてね?」



 宰相に視線で訴えてから、ヒャッハーたちに声を掛ける。


 まあ、いろいろと問題だらけの彼らですが、悪意があるわけじゃありません。

 これだけ絞られたんなら、しばらくは覚えているでしょう。たぶん。きっと。だったらいいな。みんなちょっとくらいは勉強しようね。



「了解でさあ! 客人が帰ったら、大将やアネさんもいっしょに飲みましょうぜー!」


「ヒャッハー! 説教は終わりだー!」


「街に繰り出すぜー! 飲むぜー!」


「おかあさんありがとう!」



 だからわたしはキミ達の母親じゃない。フィフィ君の母親です。



「あのー。王妃様?」



 すみません大将軍様。

 宰相閣下、お手柔らかに、くらいしか、言えそうにありません。






わたしがママになるんだよ! にお付き合いいただき、ありがとうございます。

令和でもよろしくお願いいたします!

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