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27 王妃様のお茶会



 さて、皆さま。

 奥方、と聞いて、どんな人を思い浮かべるでしょうか。

 妻、奥様、婦人、夫人、既婚女性を表す様々な言葉があるなかで、この言葉を使う場合、一般的には身分の高い女性を想像するのではないでしょうか。


 わたしはあれです。大河ドラマに出てくる主人公の奥さん。

 家同士の事情、妾問題から後継者問題に至るまで、さまざま対立しながら、やっぱり夫が好きだったり、やきもちを焼いたり、夫のために命をかけたり……素敵だと思います。


 よく考えると、わたしもそのカテゴリに入るんですよね。

 お兄さん、一代で国を建てた英雄だし、たぶん後の世の伝説だし。

 未来に大河ドラマ的なものができたときに、きっと主人公になるんだろうなあ。

 でも、王国統一までの過程で奥方であるところのわたしは出てこないので、かわりのヒロインが出てくるか、それとも結婚はしてなくても居た扱いで時々出てくるのか……不毛な想像だといま気づいた。


 ともかく、奥方の話である。

 多くの方がイメージするのは身分の高い女性で、それなりに教養があって礼儀正しくて、でも大河の主人公になった途端はっちゃけだしたり信長の幽波紋スタンドを背負ったり、そんな女性だと思う。


 ひるがえって、我が国の奥方様たちは。



「――んでなーあ、王妃様よぉ、うちの亭主ってばよぉ、うちに隠れてなぁーにやってるのかと思ったらよぉ、茶碗焼く窯を作らせてたんだよぉ……すーぐ人の真似したがるんだがらよぉ」


「あら、レティーシア様、よろしいじゃありませんの。うちの人のように、わたくしの知らない子供を作るのに比べたら……まったく、ちょん切って差し上げましょうかしら?」



 なんだか圧倒されます。

 いや、戦国時代の奥様方なんかも、こんな感じだったのかもしれませんが。







 さて。皆さま、リュージュ・センダンです。

 ただいま宮殿に滞在中の奥様方と、お茶会を開いております。

 宰相閣下の助言で、やろうと覚悟を決めたのですが……絶賛後悔中です。あの似非エセ君子。いや、宰相閣下悪くないけど。


 お茶会に招待したのは、三人。


 シルバニア領主夫人、レティーシア・ルットスタッド。

 恰幅がよくて笑顔が素敵な、なまり全開の豪快なおばちゃん。年齢的には30過ぎらしいんだけど。


 フェリア領主夫人、アルヌ・ゴッタルド。

 ロマさんが結婚して十年経ったらこうなりそうって感じの、天然で物騒な奥様。ちなみに金髪巨乳。


 どちらも王国の要地を領する功臣の奥方だ。


 そして。



「あの……その……」



 二人のパワーに押されて話にぜんぜん入れてない、まだ十代の少女。


 海の邦マレア領邦君主リンクスの妹、アンナ・マレア。

 栗色の髪に、気の弱そうな顔立ちで、パワフルなお姉さま方と並んでいる姿は、ちょっとかわいそうになる。


 そうなる理由は、わからなくもないけど。

 境遇的な意味で。


 ともあれ、王妃の間、応接室。

 テーブルを挟んで主客席について、茶を喫する。


 ロマさんは定位置のわたしの後ろ。

 席に並んでも問題ない気がするんだけど、彼女は頑なに譲らなかった。

 現状を見れば、わたしを盾にお姉さま方から逃げてる気がしないでもない。


 まあぼっちの気があるロマさんには、ハードル高い相手だよね。



「そういやぁ王妃様はどうだよぉ? 王様には優しくしてもらってっか?」



 わたしにとっても、ヒャッハーとは別の意味で難しい相手だ。


 昔から苦手意識あるんだよなあ、大人の女の人って。

 主にいさみ叔母さんのせいだな。

 いや、いい人ではあったんだけど。



「はい。陛下には優しくしていただいております」


「ぎりぃ」



 おばちゃんの質問に答えると、後ろから声。

 いや、殺意を滑らせるタイミングおかしくないロマさん?



「あらー」


「ほほう……」



 そしてお姉さま方。

 なぜそんなにニヤニヤしてるんでしょう。



「や……さ……」



 アンナさんはなぜそんなに顔真っ赤なのか。



「あの……なにか?」


「いやぁー。おアツくていいことだなぁってよぉ」


「本当に。お羨ましいことですわー」


「お子様出来るのが楽しみだよぉ」


「うちの子とぜひ仲良くしていただきたいですわあ」



 あ、そういうことか。

 みんなお兄さんが「夜」、「ベッドの中で」、やさしくしてたと勘違いしてるんだ。


 うう、でも訂正できない。

 下手に「違う」って言って、「じゃあどう違うの?」って突っ込まれたら返答に困るし。



「子供たちが仲良くなるのは、素敵なことですけれど……」



 掘り下げられると困るので、なんとか話題を移す。



「――それよりも先に、母親同士で仲良くなりたいですね」


「あら、素敵なお話ですわ。ねえ。レティーシア様?」


「んだなぁ。アンナちゃんも、早く旦那見つけねえとなあ」


「は、はい……その……はい……」



 おばちゃんに笑顔を向けられて、アンナさんは曖昧に返事する。


 うーん。アンナさん、ちょっと浮いてる?

 性格的なものもあるけど、一人だけ未婚だし、一人だけ功臣の縁者じゃないし。

 いや、そのあたりはお姉さま方ぜんぜん気にしてないけど。むしろ遠慮なしにどんどん話しかけてるけど。アンナさんが勝手に遠慮してるだけだけど。


 と。結婚の話になったところで、思い出す。

 ちょうどいい人が居たじゃないか。



「アンナ様は、決まった相手は居ないんですか?」


「はい……その、居ません……」


「だったら、赤将軍のジャックさんを紹介しましょうか?」



 ロマさんはおろか、お姉さまたちまで「マジか」って顔になった。

 違うよジャックさんはいい人なんだよ。友達思いだしやさしいし……ただちょっと顔と思考が世紀末なだけで。



「すみません……まず兄の、了解を……取りませんと……でも、ありがとうございます」


「いえ、わたしも思いつきで言っただけなので、あまりお気になさらず……お兄様にはよろしくお伝えください」


「は……は、い……」



 だからお姉さまたち、何度も「マジか」って顔しないでください。

 お姉さまたちの旦那も顔以外は世紀末じゃないですか。ヒャッハーどもの喧嘩に混じりたそうにしてたこと、忘れてないからね。



「まあ、旦那のことは置いといてよぉ、今日は楽しくお話しようさぁ」


「そうですわね。素敵な皆さまが居て、美味しいお茶やお菓子があるんですもの。旦那をちょん切る話なんてしてる場合じゃありませんわね」



 いや、あなたの旦那をちょん切る話はしてないです。


 お茶会自体は、楽しい雰囲気に終始しました。

 むしろわたしが水を指してた気がするけど、反省はしません。ジャックさんは本当にいい人なんです。ヒャッハーたちもみんないい子なんです。



「姉さま……それはちょっと、どうかと思います」



 ブルータスロマさん、お前もか。



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