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12 ロイヤルファミリー


 さて、皆さま。

 王様の家族関係と聞いて、どんな想像をするでしょうか。


 思い描くのは、暖炉のある部屋。

 中心に王様と王妃様が居て、周りを子供たちが囲う。

 そんな温かくて素敵な家族の肖像。


 あるいは親兄弟でも敵で、常に暗殺毒殺を警戒し合い、たがいに勢力を競う。

 そうでありながらも、表面上は仲の良い親兄弟を装う。そんな寒々しい関係。


 わたしは絶対的に前者を希望する。

 希望するのだけど……いま現在の、わたしたちの親子関係といえば。


 王様は日々の政務に忙殺され、義息子とろくに顔も合わせていない。妻との夜の生活はナシ。


 義息子は勉学に剣の練習にと忙しく、両親と顔を合わせる機会はほとんどない。たまに母親とお茶するくらい。



「このままではいけない」



 王妃の寝室。

 夜着のまま、両足を開いて中腰になり、両拳を前に突き出す――馬歩まほの姿勢で、わたしはつぶやく。



「たしかに、その珍妙極まりない奇行は、元教育係として放置しておけない気分ですが」



 部屋の隅で控えていたロマさんが、異次元生物でも見るような目でつぶやいた。



「これは馬歩です。武術の修練です」



 強く主張する。

 たしかに、いま現在のわたしの姿勢について、自分でも内心思うところがないでもないけど、修練のために必要なことなのだ。



「修練といっても……動いていないではないですか」


「動かないことで、鍛えてるの」



 ロマさんが、「なぜそんな珍妙なことを」と首をかしげているが、腕立て伏せや腹筋でおっぱいを揺らすと、ロマさんが人を殺せそうな視線で睨んでくるのが原因です。

 おっと胸のこと考えたらまたロマさんが「うっさいわこのデコ助が」みたいな顔を。おでこのことは放っておいてください。



「とにかく、このままではいけない」



 ロマさんに水を差されたので、わたしはもう一度言った。


 現在の夫婦関係、親子関係についてだ。

 そりゃあ、現実問題、いっしょにご飯食べたりいっしょにお風呂入ったりいっしょのベッドで眠るのは難しいってのは、わかってる。


 でも、せめて週一でもいいから、一家団らんの時間が欲しい。

 こっちの世界の王族としては、いまの生活があたり前なんだとしても、現代日本の一般庶民的な感覚を持つわたしはそう思う。



「また、親子水入らずで会う機会を作りたい」



 つい先日、会うには会ったのだけど、その時は公式の会見って感じで、短時間で終わってしまった。

 もうすこしプライベートな感じで、お話しする場が欲しいのだ。



「すぐには難しいかと存じますけれど」


「わかってる。でも必要なことだから、先の話になっても一席設けたい。お兄さんの精神の安定のためにも」


「だから国王陛下をお兄さんなどと呼ばわるのは……精神の安定?」



 ロマさんが首をかしげた。



「だって、フィフィ君の姿絵を肌身離さず持ってるんだよ? 時々それ見て気持ちを落ち着けてるんだよ? 本物に会わせてあげたいじゃない」


「ぎりぃ」



 ロマさんが、いきなり擬音を口にした。



「――失礼。嫉妬の感情が滑りました」


「いまの歯ぎしりの擬音だったの!?」



 無表情のまま、ゆかいな感情表現をする子だ。

 というかフィフィ君にまで嫉妬するなんて、お兄さん大好きすぎだよねロマさん。







 と、そんなこんなで、数日後。

 王様の居室で、親子三人面会となった。

 こんなに早く実現した理由は、お兄さんが頑張ったからだ。

 国王陛下の目が、ひさしぶりに片方だけ開いた、とかで、宰相閣下も驚いたらしい。開眼お兄さん、わたしも見てみたい気がする。


 それはともかくとして、父と義息子の対面は。



「……フィフィよ。息災にしているか」


「はいっ。国王陛下のおかげをもちまして、元気です」



 むちゃくちゃ固かった。

 テーブルを囲んで座ってるんだけど、どちらも不動の姿勢。

 供されたお茶もお茶菓子も、一切手がつけられていない。



「――お兄さん、声が固い。おかげでフィフィ君まで緊張しちゃってるよ」


「そうは言ってもな、リュージュ。フィフィが喜びそうな話題が思い浮かばんのだ」



 お兄さんに耳打ちすると、お兄さんも、こそりとささやき返す。



「そんなの、いつもお兄さんが、フィフィ君の絵姿に語りかけてるような事、言ってればいいんじゃないの?」


「お前……見ていたのか?」


「本当にやってたんかい」



 ダメだこの陛下早く病院に連れてかないと。

 というか、フィフィ君が緊張してるので、はやいとこリラックスしてもらいたい。


 仕方ない。ここはわたしが間に入るしかないだろう。



「……フィフィ君、剣の練習で肩とか凝ってない? 揉んであげようか?」



 にこりと笑って、空中でエアマッサージの仕草をして見せる。



「えっ? えっ?」



 フィフィ君が、戸惑った様子でわたしとお兄さんを交互に見る。

 ちょっぴり顔が赤い。



「リュージュ。固くなっているフィフィを落ち着かせるための冗談だとしても、飛ばし過ぎではないか?」


「あ、冗談だったんですか」



 たしなめるようなお兄さんの言葉に、フィフィ君がほっと胸をなで下ろす。

 いや、いやらしい意味とか全然なかったんだけど。こっち基準だとはしたないんだろうか。



「……まあ、なんだ。見ての通り、我が妻は変わりものだが、人は善い。遠慮せず頼るといい」



 あ、わたしをダシにして、自分はまともアピールとかズルイ。

 お兄さんだって、フィフィ君がらみの奇行なら負けてないぞ。


 なにか口を挟もうかと思ったが、その前に、フィフィ君が屈託のない笑顔でうなずいた。



「はいっ! 王妃殿下には、いつもおせわになってます!」



 やばい。癒される。フィフィ君ありがとう。



「ぎりぃ」



 お兄さんの嫉妬心が滑った。流行ってるのかそれ。


 さて、家族の交流も、なかなか理想通りとは参りません。

 しかし、フィフィ君が帰った後の、国王陛下のものすごく癒された様子を見ると、やってよかったと思います。


 これからゆっくりと、交流を重ねて、家族の絆を育んでいければと思うのですが……癒されすぎて、涅槃に行っちゃわないか。ちょっと心配になる、現在のお兄さんの表情です。


 フィフィ君は用法用量を守って正しくお使いください。



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