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09 それぞれの友人関係



 さて、皆さま。

 人間だれしも、交友関係というものがございます。

 家庭であったり、学校であったり、会社であったり、ネットであったり、様々な場所を介して、人と人は繋がりあうものです。


 わたしも、元居た世界では学校があり、寮があり、そこで様々な繋がりを持っていました。

 ですが、世界を隔てて新たな人生をスタートさせた現在、すべてはリセットされてしまいました。


 そして。


 いきなり夫が出来ました。

 王妃になって、息子が出来ます。

 侍女がついて、たくさんの家臣やヒャッハーが周りを取り巻いてます。


 ちょっと飛ばし過ぎじゃないでしょうか。

 ついていけません。ロケットスタートにもほどがあります。


 せめてもうちょっと手加減を、と天に願ってみたり。

 叶うあてはありません。







「ねえ、ロマさん」



 朝。王妃の寝室。

 ゆったりとした服を着て、ラジオ体操をしながら、側に立つロマさんに声をかける。



「なんでございましょうか。王妃様」



 運動するわたしに、「見せつけてんのかテメエ」みたいな顔を向けながら、ロマさんが返事する。

 最近ロマさんはあきらめたのか、「ロマとお呼びください」とは言ってくれない。ちょっとさみしかったり。



「最近フィフィ君はどう? 元気にしてるかな?」


「この間会ったばかりでしょう」



 この間といっても、一週間くらい前になるのだけど。

 まあ、元居た世界とは生活サイクルがぜんぜん違うから、時間感覚も違うのかもしれない。

 離れた距離の相手と文通なんかすると、月単位の間隔で手紙をやりとりすることになるんだし。



「それに、わたくしに尋ねられても困りますわ。様子を尋ねてきてくれ、というのなら、承りますけれど」



 まあ完全に管轄違いだしね。

 侍女ネットワークで何か知ってないかな、と思ったんだけど。



「ロマさん、他の侍女とお話とかしないの?」


「わたくしが?」



 ロマさんが「なに言ってんだこいつ」みたいな表情になったけど、キミがなに言ってんだ。



「え? 雑談とか、うわさ話とか、そんなことしないの?」


「用に使うことはありますが、雑談などはいたしませんわね」


「……ロマさん、ぼっちなんだ」


「ぼっち?」


「友達居ないってこと」



 そう言った瞬間。ロマさんの顔が引きつった。



「ななにをおっしゃってますのやら。お友達くらい居りますわ」



 ロマさんが明後日の方向に目を逸らしてる。


 あからさまに嘘だ。

 でもこれ追求しちゃダメなやつだ。



「うん。そうだね。そういえばロマさん、話が逸れちゃってたけど、またフィフィ君の近況を――」


「なぜ話を変えたんですの!? 気を遣われることなんてわたくしにはありませんわ! お、お手紙を! お友達からのお手紙を! いますぐ、証拠に持って来ますからっ!」


「ロマさん、落ちついて」


「だいたいっ! 王妃様こそお友達なんて居ないでしょう! だからフィフィ君フィフィ君と、幼い子供に構おうとするんですわ!」



 ものすごい勢いで風評被害である。

 わたしはショタコンじゃないです。ただのフィフィ君の母です。



「いや、元の世界にはちゃんと居たし。桃園とうえんの誓いもかくやって感じの。断金だんきんだか断袖だんしゅうだかって感じの」



 言ってからなんだけど、断袖はなにか違う意味だった気がする。たしかボーイズラブ的な意味だったような。そんな関係はなかったです。



「いま現在居ないのならいっしょですわ!」



 いっしょ、という時点でなんだか語るに落ちてる気がするのだが、どうだろうか。



「……ロマさん。友達になろう?」


「同情は結構ですわっ!」



 わりと本気だったんだけど、ロマさんが意固地になってて、ダメだった。







 ドタバタの内に体操を終えて、朝食の時間になった。

 テーブルに並べられたのは、パンとごはんとチーズとスープ。

 なにやら和洋が悪魔合体を起こしてる、というかなぜ炭水化物を重複させたと突っ込みたいが、あいにくこの世界は和でも洋でもない。でもこれ絶対白の聖女さんが持ちこんだ食文化だろ。



「いただきます」


「ちゃんとお祈りしてくださいまし」



 手を合わせて箸を手に取ったところで、突っ込まれた。

 しまった。わかってはいても、習慣というものは、なかなか治らない。



「日々の糧に、感謝と、祈りを」



 あらためて、数語、お祈りの言葉を唱える。

 似たり寄ったりの短さで、正直たいして変わらない気がする。

 ロマさん曰く、本式の祈りはもっと長いんだけど、この国じゃ食前の祈りだけじゃなく、祈りも儀式も全般的に簡略化されてるらしい。それでいいのか宗教。だから生まれるのかヒャッハー。


 ともあれ、食事にとりかかる。

 そういえば食事は基本、各人が私室で取るのだが、王宮の大人数だと、一か所で食べる方が効率がいいんじゃないかと思う。それなら食事の度にフィフィ君に会えるし。


 なんてことを考えながら、ゆっくりと食事を済ませる。

 いいタイミングでお茶を出されたので、ほっと一息。



「……そういえば、ロマさん。ちょっと聞いていい?」


「友達の事以外ならば」


「いや、聞きたいのは、まさに友達に関することなんだけど……」


「王妃様はわたくしをなぶるおつもりですか」



 恨みがましそうな目をしないでください。怖いので。



「違う違う。ロマさんのことじゃなくて、フィフィ君のこと。フィフィ君に友達って居るのかなーって」


「すくなくとも、学友はおられません。王宮に同年代の子供もおりませんし、なかなか難しいのでは――いえ」



 話している途中に思い当たることがあったのか、ロマさんがふわりと両手をあわせる。



「強いて言うなら、あの無礼者たちが友人と呼べるのでは?」



 いや。

 いやいや。

 いやいやいや。

 たしかに。フィフィ君はヒャッハーたちに武術の指導受けたりしてて親しそうではあるし、精神年齢も似たようなものなんだろうけど。


 そのとき、外から叫ぶような声が飛びこんできた。



「ヒャッハー! ボウズ! 今日も剣で遊ぼうぜー!」



 ……うん。



「とりあえず、いまの声は覚えた。ちょっと顔と一致させてきます」


「粛清ですね」


「違うから。心配だから見守るだけだから」



 物騒なことを言い出すロマさんに、そう言い置いて、部屋を出る。


 どう考えても問題のある、この環境。

 父親おにいさんと、一度きちんと相談しなくては、とあらためて決意いたしました。

 とりあえず、母親と一緒に暮らせるようにするといいと思います。


 ロマさん、「やっぱりこいつモノホンじゃねーの?」みたいな顔するのはやめてください。



 

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