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真っ白な世界

作者: よと

 気づいたらそこにいた。


 横断歩道を飛び出してトラックにぶつかった~とか、歩いていたらいきなり通り魔に刺された~とか、VR的なMMOを始めた~とか、そんなお決まりなパターンを踏襲した訳でもなく、本当に気づいたらそこにいた。

 俺の記憶が確かならば、明日は学校に転校生が来るらしいから寝坊はいけないと珍しくいつもより1時間くらい早い時間に寝た。それから気づいたら俺はここにいる。

 

 この、周り360°真っ白な世界に、俺は寝る前の寝巻のまま突っ立っていた。

 

 見えるものといえば、白、白、白の三拍子。

 ここまで執拗となると漂白剤ですら白に染め上げられかねない驚きの白さだ。

 

 周りを見ても何にもなく、上を見ても分かることはこの白さの原因くらい。

 その原因は、止まる気配のない雪のように降り注ぐ「白」だ。


 これが雪ではなく「白」なのは単純に冷気を感じないから。肌に触れても感じるのはそこにあるという感触だけ。それを雪だと断定するのは如何なものかと思った。ただそれだけ。


 「ここ、どこ……?」


 ここに来て俺は当たり前の疑問に直面した。

 すなわち、やっと状況を理解し始めたのである。


 「つか……なにこれ。びっくりするくらい真っ白なんだけど……」


 ついでに一人きりだという事実を前に自然と独り言は続く。

 まず疑問としてここはどこなのか。そして何故俺がここにいるのかだ。


 「なんか、あれだな。あの…………なんか振ると雪降ってるみたいに見えるアレみたいだな」


 だが、何処を見ても雪のように真っ白な景色を前に感じるのは一種の虚無感だけだ。

 この先このままならば、俺は一体どうなるのか。といった不安。それはやはりいくら冷静を保っていても考えてしまう。


 「いや、こういうのは考えちゃダメだ。取りあえず何かないか探索するくらいしか……ないよな?」


 そう言いつつ俺はこの場を動くことを決意した。

 何事も動かなきゃ始まらないことを知っているからだ。


 「それにしても、本当に『白い』の以外なんもないなぁ……」


 こうして歩いてみても、視界に入るのは降り注ぐ「白」と降り積もった「白」何かある気配すら無い。



 ―――………と、思っていた。


 「おわっ!?」


 突然、俺の視界に入ったのは、なんと俺くらいの年齢の、倒れて眠っている少女だった。

 危うく踏みそうになったのを何とか堪えて少女の足元の方へ尻もちをつく形で勢いを殺す。

 それと同時に俺と少女の周りにある「白」がホコリのようにふわりと舞う。


 「あっぶねぇ……」


 俺が少女の事に気づくのが遅れた理由は一重に、この場所そのものを表すような容姿にあった。

 

 髪、服装に至るまで、この少女は真っ白だった。

 肩辺りまで伸びた髪の毛は凝視しなければ降り積もった「白」との境目が判らないほどに白く、服装もこれまた「白」に同化する勢いのワンピースを着ていて、わかりにくいことこの上ない。

 更に肌ですら日に当たっていないのが丸わかりという状態であるから、これは最早見にくさの暴力といっていいかもしれない。


 「え、えーっと……」

 「…ん………うーん……」


 どうしようか悩んでいると、少女からのうめき声と同時に手足が動く。

 どうやら起きた様子で安心するが、これはこれでどうしたものか……。


 「ふぁ……?君は?」

 「え、あー……っと、君原祐一(きみはらゆういち)、高校1年デス。はい」

 「ふーん……そう。ふぁ……ねむぃ。私は白石祈(しらいしいのり)、君と同じく高校一年生」


 少女―――白石祈は眠気を隠そうともせずに自己紹介にこたえる。

 それに対してちょっとイラッと来たのは俺だけの秘密だ。


 「……それで、何で君がここにいるの(・・・・・・・・・・)?」


 その問いに俺の思考は固まった。


 「………は?」

 「いや聞いてるじゃん。2度も同じセリフ言わせないで」

 「いや、それだったら白石がここにいるのだっておかしいでしょ……」

 「私はいいの、だってここは――――――」


 次に紡がれた言葉に俺は戦慄した。

 何故ならそれは、ありえないことだから。


 驚くな、という方が無理だった。


 「だってここは―――私の世界なんだから」


 彼女―――白石は何でも無いことのようにそう告げた。


 「…………いや、いやいや待て。待て待て!!」

 

 訳がわからない。

 俺を最初に支配したのは、そんな困惑だ。

 

 「そんな訳ないじゃん、お前の世界とか頭おかしいだろ!!!」


 言葉にするたびに、俺自身でそれを否定していく。

 確かにおかしいが、それならこんな殺風景な世界が有る訳ないのだと否定する。


 「頭おかしいのはそっちなんだけどなぁ……まぁ、世界というか心象風景みたいなものなんだけど」

 「……心象風景?」

 「そう、人間だれしも心に描く風景があるでしょ?私の場合それがコレって訳」

 「いや意味は分かるけど、どうしてこんな………」


 真っ白なんだ、とは言えなかった。

 この見渡す限りを埋め尽くす「白」が本当に白石の心そのものを写すなら、そういう体験をしてきたんじゃないだろうかと。

 そう勘ぐってしまうから。


 「どうしてこんなに真っ白で何もないのかって?」

 「え゛っ!?……いや………その」

 

 言いにくいと思っていた俺の気遣いはそんな白石の言葉で吹っ飛んだ。

 折角こっちが気をまわして触れないでおこうと思っていたのに、これでは俺の方だって女子相手だから、とか初対面だからと遠慮する気すら起きなくなりそうだ。

 

 「事実でしょう。まぁこうなったのは毎日毎日つまんなかったからだけど………それで、君はどうしたい?」

 「どう……って……?」


 俺がそう聞くと、白石は立ち上がって「白」を振りまきながら言った。


 「そりゃあここを出たいのかって聞いてるに決まってるじゃん」

 「……え、出られんのここ!?」


 それを聞いてまず俺はそう思った。

 もし、本当に白石の心象風景の中に入ってしまっていたのなら、ここから出るなんて正直言って無理だと思ったからだ。


 「当たり前じゃん。そうじゃなきゃ気軽に私がここに来れないでしょう?」

 

 いや知らねーよと思った俺は悪くない。

 ………ワルクナイ。


 「うははは、めっちゃプルプルしてる」

 「クッソムカつく………」


 たとえ整った顔をしているとしても、殴りたいこの笑顔。


 「それで、出たい?出たくない?」


 そう聞かれるのなら、俺の答えはもう決まっていた。

 元々俺がここにいること自体事故みたいなものだ。ここは本来白石の領域であって、俺の都合でどうにかなる場所じゃない。言うならば俺は白い布に出来た1個の染みであり、体内に入ってきたウイルスであり、邪魔者であり、余所者なのだ。

 

 「出たい。そうじゃなきゃ明日の学校も行けるかわからないし」

 「あははっ。そうかそうか、そんなに学校に行きたいなら仕方ないなぁ」


 ひとしきりからからと笑った後、白石はくるりとその場から反転する。そしてそのまま歩き出す。


 「さあ、案内するから着いてきて」

 「……わかった」


 色々と笑われて少しムスッと来ている自分を自覚しながら、白石の後を着いていくように俺も歩き出した。


 それからしばらくお互い無言が続く。


 そうすると流石にやることもなく、「白」が広がるばかりで景色も楽しめないこの状況に嫌気がさしてくる。唯一楽しめる要因があるとすれば目の前にいる()の存在くらい。


 それも口を開けば俺をからかったりするばかりで正直積極的に話そうとも思えない。

 つまりやる事と言えば、今もしているように彼女を改めて観察することくらいなのだ。


 落ち着いてよく見てみると、白石の容姿は主観で見ても客観的に見ても非常に整っているといっていい。

 全身真っ白なのは今更だが、唯一白以外の色を持っているのはその特徴的な瞳だ。


 なんと、白石の瞳は比喩でもなく、この心象風景と対比するかのように紅い(・・)

 初めて目を見た時に声を上げなかった自分を褒めたいくらいには吃驚した。


 なんと言うか、物珍しさがある。

 普段見慣れている同級生や、髪を染めたギャルっぽいクラスメイト、通学路でよく見る草臥(くたび)れたおじさんなんかとは違う、俗に言うアルビノの特徴を持ったこの白石祈という少女からは、他とは違う神々しさがある。

 ……気がする。


 「……何ジロジロ見てんのさ」

 「はっ!?み、見てねぇよ。気のせいだろ」

 「いや絶対見てた。女子は視線に敏感なんだよ知ってた?」


 た、確かにそういう話は聞いたことがある。だから俺たち男子はもっとその辺を念頭に入れないと女子と仲良くなれないともよく聞く話だ。

 今、それを目の当たりにした気がする。

 

 「ほんと、男子はもっと自分の視線に気を付けて欲しい。見られてるこっちからしたらウザさしか感じないから」

 

 なんというか、ここまでハッキリ言われると流石に俺の方も遠慮しようという考えが薄れる。正直言われっぱなしはムカつくし、こっちだって言いたいことはある。

 それが正論かどうかなんてのはこの際関係ない。重要なのは、一方的に言われている状況そのものなのだから。


 「大体、何で男子ってそんなに視線向けるの?この際だから聞いていい?」

 「そりゃ男だからじゃねえの?そっちがそういう格好してたり目を引くようなことをしてたり、あと単純に容姿が良かったりしたらそっちだって見るだろ?」

 「えー何?じゃあ私のこと見てたのは何でさ」

 「それは………」


 容姿がいいから、とは流石に言えない。

 単純に恥ずかしいし、何よりそんなこと言う柄でもない。だからと言ってまさか白石がそう来るとは流石に予想していなかったからどう答えたらいいものか迷う……。

 ………あ、そうか。


 「それは……あれだよ。白石の容姿が珍しいからだって」


 単純な話だ。

 白石の姿はどう見ても普段見るものとは違う「非日常」だ。

 こんな出来事に巻き込まれている時点でそうなのだが、その核たる人物はそれ以上だろう。

 

 俺の主観から見ても可愛いと思う白石は全身真っ白のアルビノで、この心象風景と合わせてより一層幻想的な雰囲気を纏っている。

 そんな白石のことが珍しくない訳がない。

 つまり俺が取った言い訳は、普通に感じることであり、至極真っ当な意見なのだ。


 「…………へー、そう」

 

 ………あれ?


 なんか思ってた反応と違う。

 さっきまでこちらを見ていた白石は進行方向に向き直っていて、さっきのように無言で進むのみ。

 さっきまでの悪戯をする子供のような表情はどこか遠くを見ているような無表情に変わっていて、酷く無機質な印象を受ける。


 「………」


 故に俺としても話しかけづらい何とも重い空気に移り変わってしまっていた。


 話すことも無くなり、白石から視線を外して前を見る。

 けれどやはり視界に映るのは万遍の「白」それ以外何もない。


 降り注ぎ続ける「白」も雪のように積もるばかりで溶けることすら知らずに、今までの俺と白石の足跡すらも分からなくなっていく。


 そうして沸々と湧いてくるのはこの「白」についての疑問だった。


 「……白石、この『白い』のって何だ?」


 ついでに途切れた会話の再生も試みる。

 すると、チラリとこちらを一瞥した後、ぽつりと語りだす。


 「……これ全部、私の思い出。言ったでしょう?ここは私の心が写す世界なんだって」

 「……うん」

 「私は毎日が退屈だったから、こうして心に引きこもったの。そうした方が楽だしまだ退屈しないしね」


 そう言いながら、再び白石はこちらに向き直る。


 「毎日毎日奇異の目で見られる私の気持ちが、君に分かる?」


 そして、そんな質問を俺に投げる。


 「肌が弱いから外に出るときは日傘が無いとヒリヒリするし、それでも学校に行かなきゃいけないから、そうして通学路を通ればすれ違う人皆私の事見てるし」

 「………」


 白石の独白に、俺は返す言葉が見つからないでいた。

 俺が聞いてもそれはどうにもならないし、今この場でしか関わりのない俺からすれば関係の無い話かもしれない。

 でも、安易に言葉を投げる訳にもいかない。だってそれは白石にとってとても重要なことだからだ。

 だからこそ、俺は何を言うでもなくただこうして聞いていることしかできないのだ。


 「君のような人が当たり前のように出来てることだって、私じゃできないことの方が多い。こんな毎日、君はどう思う?」

 「それは……えっと……」

 「正直に言っていいよ。毎日毎日、飽きもせずに私を見てくるし、学校でも陰口叩かれるし、大人は私がアルビノだからって過保護にする。そんな毎日を君はどう思う?」


 ……難しい質問だ。

 何か変なことを言って今以上に傷を負わせてしまうことが怖くて臆病になるのをどうしても自覚してしまう。

 掛ける言葉が見つからずに目をそらしてしまう。

 単に退屈だと分かった気になって答えるのは簡単だ。遠慮して、当たり障りのないことを答えることは簡単なんだ。


 だからこそ、俺は白石に遠慮することをやめた。


 彼女が始めそうだったように、俺も彼女に対して本心から話そう。

 だって、そうした方が変に取り繕うよりも、ずっといいのだから。

 息を吸って、吐く。

 もう遠慮はしないと、そう俺の中で区別するために。

 

 「そうだな、ハッキリ言って他人(ひと)のことなんてどうでもいい(・・・・・・)

 「……え?」

 「仮に、俺が日々の事について語ったとしよう。それで白石はどう思う?」 

 「……え、いや、急に何さ」

 「適当に相槌打って同情することなんて楽勝だけど、白石みたいな感じならそういう訳にもいかないだろ?だけどそもそも俺の事を白石に話しても、結局白石はどうでもいいって感じるだろ?」

 

 俺自身でもかなりの暴論を言ってる自覚はある。何せ元も子もないことだからだ。

 それならいっそ孤立したままボッチになった方が早い。

 

 「え、いやでも……」

 「白石だって、俺に同情して欲しくて話した訳じゃないんだろ?」

 「そうだけど……」

 「ならそれでいいんだよ。何も深いこと考えずにそのまま口にした方がいい時だってある。それに、俺はこの風景なんか振ると雪降ってるみたいに見えるアレに見えて結構綺麗だと思うんだよ」

 「はぁ………スノードームのこと?」

 「そうそれ!!」


 なんと言うか、白石に暗い顔は似合わない。俺をからかってイライラさせている時の顔の方が100倍良いに決まっている。

 からかっている時の白石は最高にムカつくけれど、俺はそっちの方が素で接してる感じがして好感が持てる。


 「ははは……全く、馬鹿みたいに思えてきた」

 「ま、悩みとかそんなものでしょ」

 「そうだね………あっ」


 そうしていると、先に進んでいた白石の足がふいに停止する。

 先を見てみると、やはり若干分かりにくいが周りと比べて光っている場所が先に見えた。

 

 「あれが出口?」

 「んー……まぁ、そんな感じ」

 「そっか……」

 

 出口を前に、頭に浮かぶのはやはり別れの文字。

 短い時間ながらも俺と白石は一緒に話しながら歩いた。

 友達となら当たり前なことだが、白石とは初対面ながらもこうして腹を割って話が出来ていた。

 その事実を前に、俺はもう白石を他人だとは思えない。


 「ねぇ私さ、転校するんだよね」

 「そうなのか」

 「うん、だから結構不安だったりする。また奇異な目で見られるだろうし、私がどうあろうとしてもここは真っ白だろうしさ……」

 「……」


 また、白石は表情に影を落とす。

 そうすると、やはり俺も思うんだ。

 やっぱり、見たくないなって。


 「なら、そんなに嫌なら、俺がここを白以外に染めてやるよ」

 「え」

 「まぁ次会えるかどうかわかんないけど、もしまた会えたら俺がこの心象風景に色を足してやる」

 「…………ぷ―――」


 あははは、と白石は俺の目の前で腹を抱えながら大口を開けて笑い出す。

 いきなり過ぎて吃驚したけれど、それも次の言葉でイライラに変わった。


 「ふふっあははっ、馬鹿みたい。ナルシストみたいでめっちゃ面白いんだけど、何キザったらしく言ってんのさ」

 「おまっ、うるせぇな!いいわもう帰る、帰えってやる!!」

 「そっかそっか恥ずかしいもんねー」

 「つ、次会ったら覚えてろ………」

 

 そうして俺は腹に一物を抱えながらも光の方へ歩き出す。

 

 「ふふふ、覚えておくから、絶対に忘れないこと。約束ね」


 そんな白石の言葉が聞こえると同時、一瞬だけ視界に「白」以外の「色」が映ったような気がしたが、その時にはもう俺は光に入っていた。

 確かめようと振り返るも、俺の視界に映るのは眩い光だけだった。


 それを最後に、俺の視界は暗転する。


 ■■■■■


 朝、俺はいつもより早い時間に学校へ来ていた。

 具体的に言っていつもより10分前の8時10分に来ていた。

 何か夢を見ていたような気がするが、今はどうでもいい。


 何と今日は世にも珍しい転校生が来る日であり、俺もクラスの皆も楽しみにしていた日だ。


 それは10分前に来た俺よりも早く来たクラスメイトが大半だという事実からも顕著に分かるだろう。


 そんなこんなで、俺のクラスは朝のHRを迎えた。

 その前には何やら校門周辺に人だかりが出来ていた様子だったが、俺のクラスからは良く見えず、結果断念した。

 何せあまりの人の多さに、有名人か何かが来ているのかとも思うくらいだ。


 あの人の多さを考えればわざわざあっちに行って確認しようという気力すらも失われること必至である。


 「えーっと、皆わかっていると思うが、今日はこのクラスに転校生が来る日だ。まぁ仲良くするように」


 そう言って担任の話が始まる。

 正直大半どうでもいいから、早く転校生とやらを出してほしい。

 

 「それじゃ、入ってきてくれ」


 話が終わってから廊下へ向けて担任が言うと、ガラガラと音を立てて教室の扉が開かれる。


 すると、現れたのは紛うことなき白髪アルビノ美少女だった。

 制服を着こんだ色白の肌に紅い瞳、そして肩辺りまで伸びた雪を思うような真っ白な髪をなびかせて転校生、白石祈(・・・)が教壇へと上がる。


 「………白石祈です。よろしく、お願いします……」


 その瞬間、俺を除くクラス全員が沸いた。

 転校生、それも美少女を前にして男子だけでなく女子も黄色い声を上げる。


 けれど、俺は、俺だけは違った。


 もう記憶は曖昧で、よく覚えていなかったが声を聞いた瞬間に襲った違和感でそれどころではなかった。


 ……違う、違う。白石祈という少女はこんな無機質な奴じゃないと、そう何かが訴える。

 こんな色の無い人じゃないと頭を揺さぶる。


 「それじゃあ、あそこの……君原の隣の空いてる席に座って」

 「………はい」


 それから白石は空いていた隣の席へと鞄を横に掛けて座る。

 横から表情を見ても、写すのは無表情だけで、俺の記憶をチラつくものとはやはり別物だった。


 そこで、俺は声をかけてみることにした。

 何か悪戯をしようとか、白石のことが知りたいだとかではなく、ただ単純にこのままじゃいけないと思ったからだ。


 そう、―――

 

 「約束通り、白石の世界を染めてやるよ」


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