第4話
朝起きると横にはデミウルゴスが居た。
そっとベッドから降りてお風呂へ向かう。
廊下を歩いているとティアの周りをふわふわと精霊が飛んだ。
「みんなおはよお。おふろにいってくるね」
神殿には多くの精霊が集っている。
朝早くてもこうやってティアの側に来てくれるので独りぼっちだと感じた事はない。
一人になりたいと思った時は一人にしてくれるのでそこも有り難い。
お風呂に着いてササッと服を脱ぎ、全身を洗ってお湯に浸かる。
「ごくらくじゃあ〜」
ティアはこの時間が好きだ。
嫌な事全部を流してくれる様な感覚がある。
のぼせる前にお風呂から出て服を着る。
いつもティアがご飯を食べる部屋へ足を運ぶ。
部屋に入ると精霊王達とデミウルゴスが揃っていた。
「みんなおはよお」
『ティアおはよう。今日はこの後お出掛けだから僕が服を用意するよ。うーん、どんなのが良いかなぁ…』
悩んでいるデミウルゴスの前に白い靄が集まる。
『色は…僕の色にしよう!んー?こんな感じかな?』
靄が形を創り、徐々にその姿が現れた。
「わあ!きれい!しろとみずいろ?」
ワンピース、靴、ヘッドドレス。
どれもとても綺麗で可愛らしい。
『惜しいね、水色じゃなくて天色だよ。綺麗でしょ?ベースは髪の色でアクセントに目の色を使ってみたよ。ティアの色にも合うと思ってね。ご飯を食べたらスエロとビエントに用意してもらおう』
「はあい」
天色は晴天の澄んだ空の様な色だ。
空ばっかり見てたから天色になったのかなとティアは思った。
ご飯を食べ終わり服を持って部屋へ戻る。
服を着てみて思ったが、顔と手以外一切肌が見えない。
首の詰まった膝下までのワンピース。
白いタイツを履いているので足が見えることもない。
それでも快適な温度なので文句は一つもないのだが。
身支度を整えて神殿の外へ出た。
そこには大きな魔法陣が浮かび上がっている。
『やっぱり似合うね!素敵だよ。ティア、おいで。これで魔王城まで飛ぶからね』
ティアが近付くとデミウルゴスはティアを抱き上げた。
最早抱き上げられるのはデフォルトである。
全員が魔法陣に乗るとキラッと光り、視界が真っ白になった。
ぎゅっと閉じていた目をゆっくり開けると見た事のない部屋に居た。
「創造神様、精霊王様、愛し子様、ようこそおいでくださいました。心より歓迎致します」
声のした方を向けば豪華な服を着た男性とと真っ黒なローブを羽織った男性2人が跪いていた。
『顔を上げて椅子に座りなよ。今日はお話があって来たんだからね』
デミウルゴスはティアを抱いたまま椅子に座った。
精霊王達もその後に椅子に座る。
男性達も顔を上げて椅子に座った。
(なんて素敵ダンディおじ様なの!!)
顔を上げた豪華な服の男性はティアの心をぶち抜いた。
愛してるとかそんなんでは無くただ純粋に父性を感じたのだ。
そして自分の本当の父親を思い出し、論外の結果を出した。
あれはもう父性云々の問題ではない。
イケメンではあったがそれではカバー出来ない残念さがあの人にはあった。
(まあ、可愛い人間の子供を残すといいさ)
両親のその後には然程興味も無く、楽観視出来る様になっていた。
人族滅亡の為に犠牲にした事は多少の罪悪感を感じてはいる。
『ところで昨日の女はどうなった?』
突然聴こえたデミウルゴスの声にティアの意識が引き戻される。
「地下牢へ入れております。愛し子を傷付けた事は許される事ではありませんからな。愛し子様、その節は誠に申し訳ありませんでした」
素敵ダンディおじ様が頭を下げる。
「きずはなおったのでだいじょーぶです!わたしはてぃあです。うるになまえをもらいました。にんげんかいでうまれたのでそのときにあんら・まんゆというなまえももらっています」
アンラ・マンユと言う名前におじ様が少しだけ嫌そうな顔をする。
悪神の名前だから仕方がない。
「アンラ・マンユ…ですか…ティア様と呼ばせていただいても?」
「てぃあでいいです。けいごもいりません!わたしみんなよりもとししただから」
ティアの言葉におじ様は困惑する。
王族よりも愛し子の方が地位が高い。
デミウルゴスを前に愛し子を呼び捨て等すればどうなるか分からない。
しかしデミウルゴスはあっさりしていた。
『ティアの事を傷付けない限りは自由で良いよ。この子もそれを望んでるからね』
おじ様はほっと胸を撫で下ろした。
「それじゃあティアと呼ばせて貰おうかな。私はシリウス・フィエルテ・オリオール。この国の王様をやっています。ティアは好きな様に呼ぶと良いよ」
にっこりとティアに微笑む。
(あぁ!!父親力!!!)
ン"っと呻き、ギュッと目を閉じて唇を噛み締める。
流石に一国の王をパパ呼びする事はティアの常識が否定した。
その様子をデミウルゴスは見ており、コテンと首を傾げた。
『パパって呼べばいいじゃん?』
(お前はエスパーか!?)
デミウルゴスはティアの心を完璧に読んでケロリと言ってのけた。
『僕とティアは魂が繋がってるからね!何でもお見通しだよ』
『それでもだよ!!王様をパパって!不敬だよ!処刑対象だよ!ダメなんだよ!』
口には出さずにデミウルゴスに訴える。
シリウスは訳が分からずに困惑の表情を浮かべた。
『パパでもいいの?』
デミウルゴスはティアの意見を無視してシリウスに問い掛けた。
真っ青になるティアを他所にシリウスは幼い子どもの様な笑顔になる。
「パパと呼んでくれるのかい!?いやぁ、私には4人息子が居るのだが誰一人パパとは呼んでくれなくてね。嬉しいよ」
シリウスが良しとしたので遠慮無くパパと呼べる。
デミウルゴスの暴挙に一瞬腹を立てたティアだが、直ぐに褒めちぎりたくなった。
『ほら、よかったじゃん』
「うん…じゃあぱぱってよばせてもらいます」
「うんうん。敬語も無くて良いよ。あまり畏まらないでね」
「うん!」
ティアは柔らかく笑う。
デミウルゴスは嬉しそうにその様子を見て何かを閃いたように、あっ!と言った。
実際は頭に聴こえただけなのだが。
『ティアここに住む?』
突然の言葉に固まる。
城に住むという事は神殿に戻らないという事。
つまり精霊王達と会えなくなる。
会って数十分のシリウスよりも一ヶ月一緒に暮らしていた精霊王達の方がティアにとっては断然大切だ。
「私はそれでも良いと思いますが、ティアは本意では無さそうですね」
シリウスにも分かる程ティアの表情は困惑の色を示していた。
デミウルゴスは理由がわかっているようで、何でも無い事のような顔をした。
『僕はこれでも創造神だ。いつでも会えるように出来るんだよ』
そう言うと徐にティアの左手を取り、手の甲を指でなぞる。
少しするとそこには右手の紋様と似たような物が浮き上がっていた。
『これで精霊王達は何時でもティアの所に行けるよ。もちろん精霊もだ。不安は無くなった?』
デミウルゴスは優しい笑顔でティアを見る。
ポカポカと胸が暖かくなるのを感じる。
「うん。うる、ありかとお。やっぱりうるがいちばんすきよ」
ティアの言葉にデミウルゴスは目を細めて笑った。
『僕もだよ。ティアは僕の唯一だ』
ぎゅっとティアを抱き締める。
その暖かさに涙が出そうになった。
「纏まったようですね。部屋を用意させましょう。私の隣の部屋でも良いかな?」
丁度良いタイミングでシリウスが言葉を発した。
シリウスの言葉にティアはコクリと頷く。
「広いから精霊王様方も一緒に居られるよ。安心して良いからね」
「ぱぱありがとお。おへやだいじにつかうね」
ティアは心からの笑顔でシリウスに微笑む。
シリウスはゔっ、と心臓を抑える。
娘が居たらこんな感じなのか、と小さく呟くがその言葉は傍らに控える影2人にしか届かなかった。
『ティアは創造神の愛し子だからね。そして精霊王達からも寵愛を受けている。その事を忘れないようにね。何かあれは国が沈むから』
デミウルゴスはスッと目を細めてシリウスを見る。
シリウスは臆する事無くその瞳を見つめ返した。
「ティアを害する者は私自ら切り捨てましょう。ティアも何かあったら言うんだよ?」
シリウスは分かっている。
どれ程ティアが可愛い幼子だとしても愛し子だ。
愛し子が傷付けば神の怒りに触れる。
ティアの害になるものは全て薙ぎ払ってしまおうと心に決めた。
「うん!でもじぶんでかいけつできることはじぶんでやる!どうしようもなくなったらみんなにいうね!」
ティアは虐められて黙ってやられる軟な根性は持ち合わせていない。
三年間我慢したのも後々滅亡することが分かっていたから泳がせていただけだ。
自分の事は出来るだけ自分で解決する精神を持っている。
しかし頼る事の出来る存在が居るのは嬉しかった。
『ティアは強いね。じゃあ僕は出来るだけ黙って見てる事にするよ。どうしようも無くなったら言ってね』
デミウルゴスはティアの意見を尊重してくれる。
自分は恵まれているのだと漠然と思った。
「それじゃあ部屋を用意している間城の探検でもするかい?案内するよ?」
キラーンとティアの目が光った。
何とも豪華な案内人だが薄暗い部屋と神殿以外見た事が無かったので好奇心が疼く。
チラリとデミウルゴスの方を見るとニコリと微笑まれた。
『行っておいで。僕らは居ると目立つから一旦戻るよ。部屋に着いたらまた来るからね。楽しんでおいで』
そう言うと立ち上がり、ティアをシリウスに渡す。
ティアは歩けるんだけどなぁと思いながら大人しくする。
『それじゃあまた後でね』
キラッと光るとデミウルゴスと精霊王達の姿は消えていった。
「近衛を数人連れて行く。お前達は呼んだらそのまま職務に戻ってくれ」
シリウスが影2人に告げると瞬時にその姿は消えた。
ノックが聞こえて扉を見るとゆっくり開き、4人の騎士が入ってきた。
「この子はティアだ。創造神の愛し子で、精霊王様達の寵愛を受けている。何かあれば優先して守る様に。さあ、行こうか」
簡単にティアの説明をしてシリウスはゆっくり足を進めた。
「ぱぱ、わたしあるけるよ?」
抱っこしてもらうのが申し訳無くなり小さく告げる。
シリウスは愛情の篭った瞳でティアを見た。
「大きくなったら出来なくなるから今だけでもさせて欲しいな。それにティアは軽いから全然苦じゃないしね」
パチンとウインクをする。
何故か少し恥ずかしくなり照れ笑いをした。
雑談をしながらお城の中を見て回る。
全体的に豪華に飾られているが、適度な装飾なので嫌な感じはしない。
道も何となく覚える事が出来た。
進んで行くと女性3人と子ども2人が居た。
ドレスを着た女性がこちらに気が付き、不思議そうな顔をする。
「あなた、そのお嬢さんはどなた?」
王様であるシリウスを見てあなたという事はこの人は王妃様なのだと理解した。
子ども2人もこちらに気が付き、駆け寄ってくる。
「お父様!何してるの?」
「お父様!遊んでるの?」
どうやら双子のようで、色彩は違うが同じ顔をしている。
「この子はティアだよ。創造神様の愛し子で妖精王様達の寵愛を受けているんだ」
シリウスの言葉に女性と子どもはびっくりした様に目を見開いた。
「まあまあ、そうだったのですね。愛し子様、初めまして。シリウスの妻のミラで御座います」
「三男のカストルです」
「四男のポルックスです」
「はじめまして、わたしはてぃあです。よびすてでいいし、けいごもなくていいですよ」
それぞれが挨拶をしてティアを見る。
そんなこと恐れ多い!と言う感情が目に見えて分かる。
「創造神様もティアが良いなら良いと言ってくださっているから気にする事はないさ」
「そうだったの。それではティアと呼ばせてもらうわ」
「「僕も!」」
シリウスのナイスフォローで何とかフランクな関係を獲得出来た。
ミラの側に居た女性達は侍女らしく、その場から少しも動かなかった。
「私はティアにパパって呼んでもらってるからミラもママって呼んでもらったらどうだ?」
「まあ!いいの?だったらそれがいいわ!」
「僕はカトルって呼んで!」
「僕はルックって呼んで!」
「うん!ままとかとるとるっく!よろしくねぇ」
5人で和気藹々と話していると、突然背筋がゾッとする感覚に襲われた。
シリウスの腕の中からそっと後ろを見る。
「なに…あれ…」
誤字が多いですね…すみません…
何となくで読んでいただけると幸いです。
文字数のばらつきでもご迷惑をお掛けしております