第1話
当然のように見切り発車でスタートしてます。
苦手な方はすぐにお戻り下さい!
誤字脱字はぬるい目で見てください…
20歳半ばにして御門 椿は死んだ。
いつも通りに家を出て仕事に向かう。
大手企業の受付嬢をしており、表情筋を総動員して今日もにこやかに座っていた。
何の変哲もない日常、だったはずなのに。
ユラユラと生気の無い目をした男がこちらへ歩いてきた。
隣に座っている後輩は怪訝な顔をしてその人物を見ている。
椿は鉄壁スマイルのままその人物と相対した。
焦点の定まらない目をこちらに向け、ニヤリ、と笑った。
(熱い…痛い?)
突然男が伸ばした手が椿の左胸の近くにある。
目でそれを追うと自分の胸に何かが刺さっていることに気が付いた。
(刺された?え?痛い?……痛い!?)
悲鳴
怒声
色々聞こえるがどんどん意識が遠退く。
そのまま意識がブラックアウトした。
『……ぃ、おーい、聞こえますかー??』
声が聞こえて目を開ける。
真っ白な空間に真っ白な服を着た美青年が立っていた。
『え、あぁ、聞こえます、けど…』
状況が理解出来ずに言葉が詰まる。
『良かった。実は椿ちゃん、死んでしまったんだよね』
サラッと死亡事実を告げられて顔が引き攣る。
そう言えばと思い、さっきの出来事を思い出す。
『思い出した?あれは椿ちゃんのストーカーでね。好きすぎて殺しちゃったみたい』
『ストーカーって…てか、なんで名前知ってるの?』
『椿ちゃんの魂ってとっても僕好みでね。お母さんのお腹の中に入ってた時に見つけたんだ!それからずーっと見てたんだよ。だから体重もスリーサイズもホクロの位置だって全部知ってるよ!』
どん引いた。
爽やかな美青年の薄い唇から出てくる変態臭漂う言葉。
スリーサイズなんて椿自身も知らないのに。
自分を殺した奴よりも重度のストーカーなんじゃないかと思う。
『気持ち悪い……貴方誰なの?ここ何処なの?』
『気持ち悪いって言った!?そしてなかった事にした?うーん、ひどい!あ、僕が誰かって言ったね。僕は創造神のデミウルゴスだよ。ウルって呼んでね。ここは神界にある僕専用の空間だよ。椿ちゃんの魂が消えちゃうの勿体無いなって思ったから連れて来たんだ』
『創造神って偉いやつじゃないの?何してるの?仕事しなさいよ。暇なの?20年以上覗き見してるとか考えられないんだけど。そんな1円にもならない様な事して楽しい?』
椿は日頃柔らかい笑みを浮かべて過ごしていた。
どんなに理不尽な事を言われても、相手が居なくなればケロリと回復する。
しかしそれは椿なりの処世術であって、本来の性格は冷静かつさっぱりしたものだ。
『たくさん被ってた猫が逃げ出したの?そんな椿ちゃんもゾクゾクするから好きだよ。いいね、そのゴミを見る目!初めてされたよ…』
デミウルゴスは恍惚とした表情を浮かべて熱い視線を椿に送る。
『創造神は私をここに連れて来て何をさせたい訳?貴方の相手は疲れるんだけど』
『創造神じゃないよ!ウル。はい、リピートアフターミー』
『……ウル』
『はい!良く出来ました!』
お気に召したようで嬉しそうに椿の周りをクルクル回る。
『あぁ、逸れちゃったね。実は椿ちゃんにはこれから僕の創った世界に転生してもらうんだ。魔族と人族がいる所なんだけど、僕のヒエラルキー的には魔族が上な訳で。調子に乗ってる人族を滅ぼす為に椿ちゃんにはその口実を作ってもらう。生まれて3年位はしんどいかもだけどそれからは良い方に転がるよ。大丈夫、出来るよ。なんてったって僕の愛し子だからね』
そう言って椿の右手を取り、手の甲に口づけをした。
『ヒィッ!!!?……その言い方だと強制みたいじゃない?』
服でゴシゴシと手の甲を擦りながら言う。
赤くなった手の甲を見ると模様が黒く象られている。
『なに…これ…』
『それは愛し子である証だよ。マーキングみたいなものかな?』
『愛し子って何?マーキングとかしないでよ』
『愛し子って言うのは神に愛された子の事なんだ。マーキングしとかないと他の神に取られちゃうかもじゃん?その模様は創造神のものだよ。それがあれば何時でも僕とお話出来るし、良いことしかないじゃん!』
本格的に気持ち悪いので早くおさらばしたい。
『そろそろ生まれる頃かな?椿ちゃんは人族から生まれるんだけど、純血の魔族だから1万年くらいは生きられるよ。手のマークは魔界に入るまでは出ないようにしておこう』
『1万年!?長生きしすぎでしょ…』
『そう?ドラゴンとかはもうちょっと生きる筈だよ?魔法があるから一応全部適性は付けとくし、魔力量も純血魔族だから高い。でも怪我したとき大変だから回復魔法の適性だけ爆上げして、魔力消費も少なくしておくよ。何かあったらすぐに治してね』
『あ、ありがとう…』
突っ込む所が多すぎて諦めた。
ふわりと風が舞う。
『さあ!準備は良い?僕を呼んでくれればすぐに答えるよ。辛く苦しいかもしれない。でも忘れないでね。僕は何があっても椿ちゃんの味方だ。例え誰かを殺しても、それは変わらない。だから楽しんでおいで!』
《味方》
それは日本にいた時からずっといなかった。
幼い頃に事故で両親を無くし、ずっと独りぼっちだった。
何があってもと言うのは神様的にどうなんだと思うが、椿にとってはとても心強いものだった。
『ウル、ありがとう。いつでもお話ししましょう。ウルもここに1人でいたら寂しいでしょ?私も寂しいの。いつでも呼んで、私もすぐに答える。見ててね!今度は死なない様に頑張るわ』
いつもの業務用の笑顔では無い、心からの笑顔をデミウルゴスへ向ける。
彼は息を呑み、ふにゃっと微笑んだ。
『うん…椿ちゃん。頑張ってね。僕はいつでも君と一緒だ』
デミウルゴスが手を上に掲げる。
『御門 椿の人生に祝福を!!』
光が椿を包み込む。
これから起こる多くの出来事に不安と期待を抱きながら
椿は意識を手放した。