先輩とボク
1階〜17階 斎藤 孝 いつ乗ってもうちの会社のエレベーターは広いなぁ。
いつも500〜600人が出入りする。
しかし2時が過ぎるとさすがに人が少なくなる。
20人乗りにボク1人で乗ると寂しすぎるところもある。
エレベーターはモーター音を静かにたてながら13階にさしかかった。
もうそろそろ17階だ。
グォーガタン、 エレベーターが13階で止まった。
誰だろうこんな時間に? 扉が開き誰かが入って来た。
「えっ先輩??」 ボクの4つ上の中島京香 先輩だ。社内でも腕利きの美人社員なんだ。髪を綺麗に後ろで束ね、身長は160センチ後半とすごくスレンダーな体をしている。 そしてなにより印象深いのが薄く化粧した黒のアイシャドウにアカブチのメガネがキャリアウーマンの雰囲気を出している。 ボク自身も中島先輩には色々な恩がある。 ボクが仕事でミスをするたびにお世話になっている先輩なんだけどこの人はとても気の強い女性でボクはいつも‘ハイ,の一つ返事しかできないのだ。「お、お疲れさまです!」 先輩は20階のボタンを押しながら言った。 「あら?あなたも残業なの?お互い大変ねぇ」甘い誘惑のような声で先輩は話しかけてきた。
「せ、先輩もこんは時間まで残業ですか。
」 何気ない会話もこの先輩には一苦労だ。
「そうなのよ。
明日までにどうしても終わらせないといけない仕事があってね。
」 「そ、そうですか。
それは大変ですね。
」 「でもねぇ 間に合いそうにもないのよ。
仕事… 誰か手伝ってくれないかしら。
」 先輩は上目使いをしながらボクの方を見た。
まさか手伝ってほしいのか!? いつも迷惑ばかりかけているボクが! 手伝ってほしいのなら仕方ないここは男らしいところを見せておくべきだ。 ボクは先輩の目を見て言った。 「いいですよ。いつも先輩には迷惑ばかりですから手伝いまっ その瞬間 ガー ガァー ガタン。 大きな音をたててエレベーターが止まった。 エレベーターのライトがきえて真っ暗になった。
「うわっ何なんだ!? 一体?」 「落ち着いて、多分故障か停電よ。」「心配ないわ。バックアップ用に電気はすぐにつくはずよ。」 先輩の言った通りライトはすぐについた。 しかし肝心のエレベーターが動かない。 ボクは不安と恐怖で胸が押しつぶされそうになった。 「大丈夫よ。朝になれば誰か来るわよ。」 先輩は自分に言い聞かせるようにボクに小さく声をかけた。情けなかった。自分の不甲斐なさに嫌気がした。男であるボクがオロオロして女の先輩がしっかりしている。いつも先輩に頼ってばかりだ。 それじゃあダメだ。ボクが何とかしないといけない!ボクはできる限りのことをした。 まずエレベーターについてある。 緊急ボタンを押しけど、オペレーターの反応がない。 次にケータイで外と連絡しようとしたが電波は圏外となっていた。天井の配管を外して外に出ようとしたが頑丈な鉄格子あって外せない。 八方塞がりである。しかしこのままでも朝になれば早朝出勤の社員が来る。誰かがくるまで待つことにしたボクにずっと黙り込んでいた先輩が話しかけてきた。 「ねぇここ寒くない?」「いえ、あまり寒くないですけど。」 変な質問だ。 確かに今は1月の1番寒い季節だがそこまで寒いとは思わない。エレベーターの緊急ボタンを押し続けていたボクは急に先輩が気になり後ろを振り向くと先輩はうつ伏せになって倒れていた。 「せ、先輩!」ボクは慌てて先輩を起こした。 先輩の顔は赤く火照っていた。呼吸も荒く額に手を当てると、とても熱かった。 医者でもないボクにだってこの状況はとてもヤバいことくらい容易に分かった。
しかしなにをしてよいのかわからない。 弱っていく先輩を見てとりあえず横に寝かせて今着ている服を全て先輩にかぶせた。そしてコンビニで買ってきたペットボトルを額に当てて氷嚢のかわりとした。 気付けばボクはパンツ一枚となっていた。 上着やズボンを先輩にかぶせたためボクは裸同然の格好となった。 生まれが東北だけにこんな寒さはへっちゃらだった。しかし病人がいる以上早くここから出ようと色々手段をとっていたら先輩がボクに手招きをしてよんだ。小さくかすれ声でボクにいった。 「ゴメンネ 私のせいでこんな事になって」 ボクはあわてて否定した。 「そんなことないですよお」
「ほらっいつも先輩には迷惑かけてるし、この前も先輩は必死でしゃべるボクの口を人差し指で抑えて微笑んだ。先輩の人差し指がボクの唇にあたった。先輩の人差し指は温かくてやわらかかった。
「ねぇ寒いからあなたも一緒に温まろうョ」 「えっ!?」
「いいから きて」 いわれるがままにボクは先輩の横へ寝た。近い。とても近い。近すぎる。こんな近い距離に女性と一緒にいるのは初めてだ。多分この時のボクの心情は不安や恐怖心は無くなっていたがすごい緊張していた。「ねぇ‘孝,君てさぁ」 ! 初めて名前で呼ばれた! いつもなら‘あなた,や‘きみ,なのに… そう思っているとなんだか先輩のことを意識するようになった。 「ちょっと聞いてる?」 ボクは慌てて返事をした。「え〜とそうですねぇじゃあ先輩は…「その先輩はやめてよ。京香って呼んで」 そう言って先輩は微笑んだ。 ドキッ!!!!! もうボクの心臓はドキドキしていた。 「えっ でもいいんですか?」 「いいわよ。呼んで」 「じゃあ京香さん…」 「うん……」 そう言ってボクにキスをした… やわらかくて優しくてシャンプーのにおいがした。 あとのことはよく覚えいない確かあの後すぐに助けに来て先輩は病院へ連れて行かれた。 これから先、どうなるかわからないけどボクは先輩に自分の気持ちを伝えるつもりだ。 「好きだ。」と…