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双頭鷲の八八艦隊 2

今話で完結です。御愛読ありがとうございました。

 八八艦隊とは、かつて日本海軍が建造を計画した戦艦群のことだ。具体的には既存の戦艦部隊に加えて、より強力な新型の戦艦8隻、巡洋戦艦8隻による艦隊を建設するというものだった。


 いずれの艦も40cm以上の口径を持つ列強海軍の新鋭艦に比べても強力な艦で、完成していれば太平洋にその威容を誇っていたことだろう。


 しかしながらこの計画は一度は議会の承認を得たものの、そもそもが建造からその後の維持費も含めて、国家財政的に無理があるもので、結局アメリカが提案した軍縮条約を呑むことで、中止に追い込まれた。計画された16隻の内、完成したのは戦艦として「長門」「陸奥」、空母改装艦として「赤城」「加賀」のわずか4隻だけであった。


 ところが、最近になってこの言葉が甦った。と言っても、もちろん内容はかつての八八艦隊とは違うものであったが。


 緒戦の米太平洋艦隊との戦いで勝利した大日本帝国海軍は、その原動力が世界最大最強46cm砲を主砲とする戦艦「大和」と、空母6隻を中心とする機動部隊にあると世界に向けて宣言した。


 そしてさらに、帝国海軍は「大和」型8隻、さらに新型航空母艦8隻を中心とする新八八艦隊計画を計画中であり、これらの内の何隻か(戦艦「武蔵」と空母「大鳳」)は近いうちに実戦配備され、米艦隊の一大脅威となるだろうとまで付け加えた。


 この宣言は内外の多くの人々を驚かせた。特に米国と一緒に宣戦布告した蘭豪等を大きく揺さぶったとされる。


 一方同盟国である露西亜帝国も驚愕した。日本海軍の新鋭戦艦と空母の建造計画は掴んでいたが、その実態は日本側が異常なほどの防諜態勢を敷いていたため、全く掴めていなかったからだ。

 

 そして露西亜海軍としては、そんな日本海軍の新八八艦隊を自分たちとは無関係と装いつつ、内心では羨ましい目で見るしかなかった。


 露西亜海軍は戦略上日本海軍の補助戦力であり、自国の防衛に専念する沿岸警備海軍に毛の生えた程度のレベルのものしかない。最大の艦艇は英国製の「ワリヤーグ」型重巡洋艦であり、その排水量は1万2千トンでしかない。他に書類上では戦艦として「アドミラル・マカロフ」等がいるが、これらは30cm連装砲2基を搭載した砕氷型海防戦艦で、排水量は8000トンである。


 どちらにしろ、露西亜海軍にとって正規の戦艦を保有するのは、夢のまた夢であった。


 数少ない古い露西亜海軍を知る者には、いつかツシマ(日本海海戦)以前の海軍を再びと夢見る者もいるが、それもまた夢でしかなかった。


 そして日本海軍からの出向者や転籍者にとっても、新八八艦隊は羨望の存在であるとともに、自分たちが乗り組むのは夢でしかないと、半ば諦められた存在であった。様々な理由で帝国海軍を離脱、或いは戦時下であっても外国海軍に出向している人間を、最新最強艦艇に配属してくれる可能性は無きに等しかったからだ。


 そんな彼らの元にやってきたのが、日本より売却された2E型戦時標準船改造艦艇であった。


 この2E型は既に商船として就役が始まっており、露西亜帝国の商船会社に売却された物も含めて、露西亜帝国でも見る機会の多い船となっていた。そのため、その乗員たちが付けた自分たちを揶揄する意味で使っている愛称もすぐに伝わった。


 880トンの基準排水量から「ハチハチ」と称され、そしてそれが複数集まることで「ハチハチ艦隊」というものであった。


 商船乗りたちにとっては、はっきり言って自嘲でしかない愛称であったが、露西亜帝国海軍ではそれとは違う展開を見せた。


 まず露西亜帝国海軍に売却されたのが、タイプ(敷設艦型や母艦型)は別々のものが混ざっていたが、きっかり8隻であったこと。加えて、魚雷艇や小型潜航艇などの小艦艇が多い露西亜帝国海軍にとって、総トン数880トンという数字であっても、決して小さすぎる存在ではなかったことだ。さらに、そもそも露西亜帝国海軍はその主たる戦術として機雷戦や小型艦艇による沿岸防衛戦闘を採用している。つまりは、自分たちの身の丈に合った主力艦艇ということである。


 こうして、露西亜帝国海軍の将兵は『双頭鷲の八八艦隊』に誇りを持って乗り込んだ。


 とは言え、小笠原以下乗り込んだ誰もがこの双頭鷲の八八艦隊が活躍できるのは、正しい使い方をしてこそであると理解していた。


 彼が言った通り、この双頭鷲の八八艦隊で海戦などしようと考えてはいけない。そんなことすれば、例え駆逐艦相手の小艦隊であっても瞬殺されること間違いなしだ。


 最高速力が10ノットよりわずかに上回る程度、砲兵装も最低限の自衛用のものしか搭載していない特設艦に、正規の戦闘艦艇と正面切って戦うなど不可能であった。


 また潜水艦を相手にしてもつらい。「イルティッシュ」号には自衛用に対潜聴音器と爆雷が装備されているが、低速の戦時標準船改造艦で、海中を俊敏に動く潜水艦を追尾するなど、土台無理な話なのだから。


 仮にもし敵艦と対面したら、それこそ護衛艦に全てを任せて遁走するしかない。


 双頭鷲の八八艦隊がおこなうべき任務とは、オホーツク海に設置する機雷堰の構築であり、また樺太沿岸で行動する沿岸警備用の小型潜航艇や魚雷艇への補給なのだ。


 機雷堰は新型の磁気機雷や音響機雷、自走機雷など、まだ同盟国日本すら有していないものを、露西亜帝国海軍は有していた。伝統的に機雷戦を重視するお国柄ゆえに、こうした兵器の開発には熱心であった。


 また小型潜航艇や魚雷艇への補給も、それらの行動範囲を広げ、戦力としての価値を大いに高めることに貢献する。


 ただどちらにしても、それらは直接ではなく間接攻撃になるもので、華やかさはない。


 双頭鷲の八八艦隊は、本家と違い地味な戦闘専門なのだ。


「全く地味な任務だな。だが露西亜に骨を埋めると決めた以上、与えられた仕事はしっかりしないとな」


 かつて江田島の海軍兵学校に入りたての頃には考えもしなかった、海軍軍人としては地味な任務。それを戦時標準船改造の特設軍艦で行う。


 もし小笠原が、海兵卒業後のコースとして砲術や水雷、航空を選んでいたら、このような役回りはごめん被ったところだろう。しかしながら、最初に防備部隊と言う防御専門の部隊に赴任してから、小笠原のキャリアはずっと防備一筋である。


 そのキャリアが、露西亜海軍においてはいい方向に作用していた。何せ露西亜海軍の主戦術は、その防備であるのだから。だからこそ、彼は「イルティッシュ」号の艦長に就任し、さらには露西亜海軍の八八艦隊の司令官となることが内定していた。もちろん、司令官と言っても艦隊司令官ではなく、戦隊司令官である。


 それでも、小笠原としては満足であった。


「ま、この戦力でアメリカやソ連の連中に一泡吹かせられるなら、それはそれで痛快愉快だ」


 と、この時小笠原はあまり深く考えず、そんな言葉を口にした。


 しかし彼は知らなかった。この時米海軍が北太平洋上に日露の注意をそらすため、ソ連太平洋艦隊に大々的な艦艇供与を行い、アリューシャンや西海岸で乗員の訓練を行っていることを。


 そしてソ連海軍が、供与艦艇艦隊をウラジオストクに向かうと見せかけ、オホーツク海に侵入して露西亜帝国沿岸部を攻撃する作戦を計画していることを。


 その迎撃に露西亜の八八艦隊が出撃し、壊滅に追い込む作戦で重要な役目を負うことを。


 後にオホーツク大海戦と呼ばれるその戦いにおいて、露西亜の八八艦隊は、特設艦艇のみで戦艦、巡洋艦を中心とするソ連艦隊に挑み、見事大勝利を収めるのであった。


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