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01


 望は頭を抱えていた。自分の部屋にいる三人の人物に対して。正確に言えば、二人が連れてきた一人に対して。いつもの客人、イリスがとんでもない者を連れてきたためだ。

 望は一時間前のことを思い出す。思い出すといっても、一時間まるまる頭が真っ白になっていたため、思い出せるのはわずかだが。

 イリスが連れてきた銀髪の少女。何故か妙に大人しいフィアが気になりつつも、イリスの紹介を聞いた。


「のぞむー。この人はね、私の世界の女神様。とっても偉い人……、人? まあいいか。人だよ。でも特に気にする必要ないから。放って置いていいからね」

「ねえ、イリス? 私の対する紹介の仕方がとても雑だと思うのだけど」

「む。仕方ないな。えっとね、のぞむ、この子はね、あれだよあれ。邪魔な人」

「イリス!?」

「もう。じゃあ真面目にやるよ。えっとね望。この子はね、普段は神域って呼ばれてる場所に引き籠もってる、この世界で言うところのニートだから」

「そろそろ泣いていい……?」


 そんなやり取りだったが、女神の部分は一切訂正しなかった。つまりは、そういうことなのだろう。以前からイリスの世界に女神という存在がいるとは聞いていたが、まさか実際に会うことになるとは思わなかった。

 そしてその女神が、イリスとレースゲームに興じるとは思わなかった。


「ちょっとイリス! それは卑怯でしょう!」

「勝てばいいんだよ! 勝負にきれい事なんてないのさー!」

「お、怒りました! ……きましたよ! かみなりです!」

「あ、ちょ、やめてー!」

「ねえ、お姉ちゃん、最下位争いで白熱しないで……」


 イリスも女神も、レースゲームは苦手らしい。見事に最下位を争っている。一位をひた走るフィアとはすでに周回遅れだ。せめてお互いに真面目にやれば、もう少しフィアといい勝負ができるだろう。だがこの二人、お互いを蹴落とそうと必死になっている。順位など知ったことかとばかりに。そうして起きているのは醜い最下位争いだ。

 フィアが振り返った。望と目が合う。助けを求めるかのようなその視線。望はそっと目を逸らした。俺に振るな。

 そしてレースが終了する。最下位は女神になっていた。


「くっ……! イリス! 私を立てようとは思わないのですか!」

「え、なんで?」

「なんでって……。私は女神です! 偉いんですよ!」

「うん。でも私は友達だと思ってるよ?」

「あ……う……。そ、そうですか……」


 あ、この女神、ちょろい。ぼんやりと会話を聞きながら、望はそう思った。


「まあそれ以前に、威厳のかけらもないし。めがみかっこわらい」

「なんだかすごく馬鹿にされたような気がします!」


 おそらくイリスの最後の言葉は、ハルカが言ったのだろう。もう少し緊張感というものはないのだろうか。

 その後も三人は様々なゲームをした。そのどれもが、イリスと女神の蹴落とし合いであり、全てにおいて女神が負けていた。女神とは一体。


「うう……。イリスは私のことが嫌いなんですか?」

「嫌いだったら一緒に遊ばないよ。それとも、よそよそしく接待で遊んだ方がいい?」

「あ……。いえ、このままで……」

「うん」


 一応、仲が良いのは間違い無いらしい。女神はちょっとだけ嬉しそうだ。ちょろい。

 三人がゲームに一段落したところで、望はため息をつきつつ口を開いた。


「それで、どうして女神様がこちらへいらっしゃっているのでしょう?」

「聞きましたかイリス! この方、私を敬っています! これが正しい対応なんです!」

「分かりました、女神様。では今後、私もそのように致します」

「あ、待って、待ってくださいイリス。冗談です。そんなよそよそしくしないでください。私とあなたの仲でしょう?」

「…………。ふっ」

「今鼻で笑いましたか!?」


 どういうことですかとイリスの肩を掴み、揺する女神。フィアは我関せずとばかりに、机の上に置かれていたおかきをもそもそ食べている。フィアだけが唯一の癒やしだ。


「お前ら、いい加減にしろ」


 さすがに苛立ってきた望が低い声で言うと、二人とも慌てて姿勢を正した。


「ほら、女神様のせいで怒られちゃったよ」

「ご、ごめんなさい……。え? あれ? 私のせい……?」

「おい」


 ぴし、と音がしそうなほどに二人が動きを止め、静かにもう一度姿勢を正した。黙り込む二人に、望が大きなため息をつく。二人がびくりと震えたのが分かったが、なんだかもう、どうでもよくなってきた。


「で? 女神様。あんたは何の用なんだ?」

「ああ……。貴重な敬い成分が……」


 敬い成分ってなんだ。それ以前に貴重って、自分の世界ではどうなんだ。思わず心の中で呆れていると、女神はいえ、と笑いながら言う。


「あちらの世界では精霊たちの方が身近ですからね。私、つまり女神は精霊の最上位という程度の認識で、信仰なんてまったくありません。……泣いていいですか?」

「お、おお……。それは、なんというか、うん……。何も言えない」


 少しだけ哀れに思うのと同時に、ん? と望は首を傾げた。今、心の声に返事をされたような気がするのだが。


「はい。心の声ぐらい聞こえますよ? でないとハルカと会話もできませんし」

「…………。今、改めて女神様って気がしたよ……」

「えっへん」


 女神様がにこやかに胸を張る。不敬だろうが、少しだけかわいいと思ってしまう。だが彼女の隣に座るイリスはそう思わなかったようで、


「女神様、うざい」


 ばっさりと切って捨てた。


「ひどくないですか!? イリスはちょっと思ったことを素直に口に出しすぎです!」

「だってどうせ読まれるんだから、隠しても仕方ないでしょ? …………」

「イリス? 心の中でいじる方が楽しいって言わないでください。私はいじられキャラじゃないです」

「え!?」

「えって何ですか、えって! 私を何だと思ってるんですか!」

「めがみかっこわらい」

「かっこわらいをやめなさい!」


 ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人に、望はもう何度目かも分からないため息をついた。フィアへと視線をやると、こちらはいつの間にか顔だけ出している大きな犬にお菓子をあげている。確か、フィアの護衛のディアボロだといったか。こうして見ていると、かわいいと思えてしまう。実際は、人どころか戦車すら一瞬で消し飛ばす生きた兵器のようなものらしいが。

 こほん、と女神が咳払いをする。そちらへと視線を向ければ、女神が小さく頭を下げた。


「ごめんなさい。真面目に説明しますね」

「ああ。そうしてくれ」


 気づけばイリスも姿勢を正していた。そろそろ本当に怒られると思ったのかもしれない。


「先ほど、私はイリスが今住んでいる果て無き山を訪ねました。訪ねた理由は、他でもありません」「うん」

「そろそろこの子と遊びたいなと思いまして」

「うん……。そうか。晩飯は何が食いたい?」

「さらっと流しましたね。カレーライスをお願いします。以前こちらに来た時に一度食べましたが、あの辛さはやみつきになりますね」

「いろいろと突っ込みたいが、分かった。作ってくる」


 何というか、もう疲れた。望は、ゆっくりしていけと軽く手を振り、キッチンへと向かった。


壁|w・)女神(笑)

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