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龍姫イリスの異界現代ぶらり旅  作者: 龍翠
第六話 現代:焼き芋 ~出会いの味~
91/98

07

 きっぱりと言い切る兵士。まあこれは予想通りの対応だろう。ファナリルが顔を青ざめさせているが、心配しなくてもこの程度で怒ったりはしない。会えればいいな、という程度だ。


「まあ、仕方ないね。ファナリル、私は戻るから予約しておいてよ。来週のお昼前がいいな。お昼ご飯とかついでにお願いしたい。無理そうなら、どっちみち来週来るから、会えそうな日を教えてよ」

「おい、何を勝手な……」

「分かりました! 任せてください! 来週時間を作ってもらいます!」

「おい!」


 兵士が慌てているが、ファナリルが大丈夫だと言うのだから大丈夫だろう。無理でも、来週聞けばいいだけだ。それじゃあ、とイリスが手を振ると、お気を付けてとファナリルが頭を下げた。そのままイリスは転移魔法で、果て無き山の自分の穴に向かった。


   ・・・・・


 イリスが転移魔法で姿を消したのを確認して、ファナリルが大きく息を吐いた。正直、肝が冷えた。もしイリスの逆鱗に触れていたらと思うと、ぞっとしてしまう。だがあの反応から、どうやらイリスは最初から会えるとは思っていなかったようだ。


「ファナリル様」


 兵士の硬い声。どうやら彼らも、イリスがただ者ではないと察したらしい。目の前で失われているはずの転移魔法なんて使われれば当然かもしれないが。


「先ほどの方は一体……」

「ドラゴンです」

「は……。はあ!?」


 素っ頓狂な声を上げる兵士に、ファナリルが小さく笑みを零す。その反応はよく分かる。ファナリルも最初は本当に驚いたものだから。

 ともかく、まずは陛下に相談しなければならないだろう。できれば父にも連絡しておきたい。ドラゴンと関わることなんて、昔の戦争以来なかったことだ。

 ファナリルは門を通って王城へと歩きながら、どう切り出そうかと考えていた。




 夜。魔王はこの国の王という立場上、忙しい身だ。それでも夕食だけは必ず家族と共に取っている。よほどの問題がない限り、その決まりを崩すことはない。ファナリルも、この城で暮らし始めてからはその夕食に呼ばれるようになっている。

 今日もいつもと同じく、魔王一家と夕食を共にすることになった。しかも今日は父も一緒だ。事前に、魔王に相談があること、父にも連絡しなければならないことを伝えたところ、念話を使える王妃様が連絡を取ってくれたらしかった。

 急ぐ話ではないので夕食後に、ということで先に夕食を食べ終えて、魔王に話を促された。


「で? 俺に相談とのことだが、何の用だ?」

「はい。来週、一日時間を作ってください」

「一日全てか?」

「一日全てです」


 イリスのあの様子から、それほど長く話すつもりはないと思うが、それでも念のために一日予定を空けておいた方がいいだろう。当日に何があるのか分からないのだから。


「来週か。悪いが、その日は用事が……」

「ドラゴン様が来ます」

「…………。なんだと?」


 唖然とする魔王と、その一家。ファナリルの隣に座る父にいたっては口をあんぐりと開けている。滅多に見ない姿だ。


「待て……。待て待て。どういうことだ?」

「その話をする前に……。魔王様、少し早いですが、こちら、誕生日の贈り物です」


 後ろに立っているメイドに目で合図すると、メイドはすぐに用意していた箱を持って魔王の元へと向かう。スイートポテトというお菓子が入った箱だ。ファナリルも少し食べたが、本当に美味しかった。あれなら魔王も満足することだろう。

 箱を受け取った魔王は中を見て、なんだこれはと首を傾げた。


「スイートポテト、という異世界のお菓子です」

「異世界だと?」

「はい。実ですね……」


 そうして今までのことを話す。異世界に繋がる穴のこと。その先に繋がる世界のこと。そしてその先でイリスというドラゴンに出会ったこと。そのドラゴンが、魔王と会ってみたいと望んでいて、来週また来ること。

 全て聞き終えた魔王はなるほどと頷き、


「よく分かった。来週の予定は全てキャンセルする。何とかしよう」

「ありがとうございます。……あと、私も最初は知らなかったのですが、イリス様は龍王様のご息女、つまりはドラゴンの姫君だそうです」

「おう……」


 隣から妙な声。見てみると、父が真っ白になっていた。父には衝撃的すぎたらしい。ただ魔王も似たようなもので、頬を思い切り引きつらせていた。


「よく分かった……。その、イリス様の好きなものとか、分かるか?」

「魔王様と同じで、食べることが好きなようです。お昼前に来るから、お昼ご飯をお願いしたい、と言われました」

「よし分かった。コックに伝えておこう。細かい部分は他の者と話し合うとする」

「よろしくお願いします」


 これできっと大丈夫だろう。少なくとも、自分ができることはこれで全てだ。ファナリルは小さく安堵の吐息を漏らし、そしてその直後に肩を叩かれた。父へと振り返ると、満面の笑顔でファナリルを見つめていた。この笑顔は、不機嫌な時のものだと今までの経験から分かる。何よりも目が笑っていない。


「ファナリル。あとで詳しく話しなさい」

「えっと……。はい……」


 どうやら夜はまだまだ長くなりそうだ。父親のとても良い笑顔を見ながら、ファナリルは肩を落とした。


   ・・・・・


 一週間後。ファナリルと約束していた日になった。フィアと共に、魔王の城に向かおうと思う。


「忘れ物はないか?」


 社の前でそう聞いてくれるのは望だ。記憶をたどり、自分の空間魔法の穴に入れたものを思い出す。追加のスイートポテトに、冷めても美味しい料理の数々。あとは酒も少し。日本酒とワインだ。イリス自身はあまり酒は飲まないが、魔王にやるなら酒もいいだろう、という望の提案を採用した。

 ちなみに、イリスも酒を飲むことはもちろんできる。ただドラゴンが酒で酔うためには、わざわざ自分の中の抵抗力を下げなければならず、なかなか面倒だったりする。それならもう飲まなくても良いだろう、というのが多くのドラゴンの共通認識だ。


「適当に何かもらってくるね」

「楽しみにしてるよ。フィアも気をつけてな。イリスから離れるんじゃないぞ」

「はーい」


 手を振る望にイリスたちも手を振り返し、社の中へと転移した。そのまま黒い穴を通り、果て無き山へ。目の前にあるこたつの誘惑に抗いながら、魔族の街の側へと転移する。

 魔族の街は以前とさほど変わっていない。一週間しか経っていないのだから当然だろうか。フィアと一緒に、大通りを歩いて城へと向かう。

 前回、ファナリルと一緒に来た門までたどり着くと、そこにいた兵士二人が緊張した面持ちで直立した。何故か異様に硬い気がする。


「あー……。もしかして、ファナリルから聞いた?」

「いえ、その……。はい……」


 兵士の一人が頷く。もう一人はすっかり顔を青ざめさせている。イリスは苦笑しつつ、


「別に怒ってないから。魔王とは会えるの?」

「はい。少々お待ちください。ファナリル様がすぐに……」

「イリス様!」


 上の方から聞き覚えのある声。顔を上げれば、門の上、城壁にファナリルが立っていた。どうしてそんなところに、と思いながらも軽く手を振ってみる。ファナリルは嬉しそうに手を振り返し、少々お待ち下さい、と体を引っ込めた。


「ファナリルお姉ちゃん、元気そう」

「だね。日本にいた時よりも元気そうだった。やっぱり向こうじゃ緊張してたのかな」


 それほど待たされることもなく、門が開いた。ファナリルがイリスたちへと駆け寄ってきて、目の前で立ち止まった。


「いらっしゃいませ、イリス様! お待ちしていました!」

「魔王とは会えるの?」

「もちろんです。昼食の用意もしています。ご案内しますね」


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