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龍姫イリスの異界現代ぶらり旅  作者: 龍翠
第五話 異界:初めての王都と勇者召喚
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壁|w・)誤字脱字チェックが間に合いませんでした。いつもより多め、かも。

 これには将校たちが色を失った。すぐにその場で跪き、イリスへと頭を下げる。


「申し訳ありません! どうか、お許しを……!」

「んー……。まあ、君たちに言っても仕方ないしね。あとで詳しく聞くとして……。響子」


 名を呼ばれて、響子は姿勢を正した。その様子にイリスは不思議そうに首を傾げている。響子としては、相手は姉の恩人であり、そして恐らく年上の相手だろうと考えてのことなのだが。


「あー……。堅苦しいのは嫌いだから、らくーにしていいよ。ほら、らくー」

「え、えっと……。分かった……」


 イリスがいいのなら、そうさせてもらおう。少しだけ力を抜くと、イリスは満足そうに頷いた。


「とりあえず響子は私と一緒に来てもらうよ。日本に帰してあげる」

「え、でも……。それだと、ここの人たちが……」

「ん? 何かなるの?」

「え?」


 心の底から意味が分からないといった様子のイリス。何故だろうか。王宮で聞いた話ではドラゴンは中立の立場だとは聞いているが、かといって人族が滅びそうなのを黙って見ているとは思えない。何が間違いなのだろうと考えたところで、イリスが唐突に、不機嫌そうに眉をひそめた。


「響子に、この世界についてどんな説明をしたのかな?」

「そ、それは……」


 そこまで聞けば、響子にも何となく分かる。イリスは疑っているのだ。響子に間違った知識を教えていないか、と。それは響子には判断できないものであり、それならばと響子は自分から説明することにした。

 今、魔族が人族の大陸に攻め込んでいる。すでに多くの村や町が滅ぼされ、残すところは王都のみ。そんな人族を救うために響子が召喚された。簡単にだが、そんな内容だ。

 それを聞いたイリスは、いつの間にか表情が険しくなっていた。将校二人へと、イリスが言う。


「あとで行く。王様に会わせて。拒否は認めないから」


 てんいー、という力の抜ける声の直後、青を通り越して真っ白な顔色になっていた将校二人と魔法士はその姿を忽然と消していた。先ほど、負傷者を国に送った時と同じだ。あれが転移魔法というものなのだろう。


「さて、君は響子の友達か何か?」


 イリスの視線の先にはセルディがいる。セルディは緊張しつつも、しっかりと頷いた。


「そっか。じゃあ君もご招待。それじゃあ、行くよ」


 何が何だかよく分からない。けれども時間は流れていく。

 てんいー、とまた気の抜けた声が聞こえた直後、響子は妙な浮遊感に襲われてた。


   ・・・・・


 びっくりした。心の底から、びっくりした。

 最初に感じたのはケルベロスの魔力だった。本気ではないようだが、戦っているのが分かった。どうしてこんな近くにいるのだろうと思いながら、勇者のことは後回しにしてそちらへ向かえば、ケルベロスと人間の集団が戦っていた。

 恐らく、ケルベロスは何かしらの用があってイリスの元へ向かっていたのかもしれない。そこでこの人間の集団に鉢合わせたのだろう。そうして戦闘になった、と。恐らくこの人間の集団が勇者一行か。それにしても多すぎる。百人ほどいるのではないだろうか。


 だが心配はしていない。今の丸くなったケルベロスならどうとでも対処するだろう。そう思っていたのだが、唐突にケルベロスの首が一つ飛び、イリスは目を剥いた。

 先ほどの魔法はなかなかのものだった。ディアボロの全力に勝るとも劣らない魔法だ。だが狙いが悪かった。というよりも、魔法そのものが悪かった。ケルベロスを仕留めるなら、心臓を狙うか、首を三つとも落とさなければならない。あの魔法では難しいだろう。

 そしてイリスの目の前で、ケルベロスが怒りを露わにした。まあ、さすがに怒るだろう。

 だが、殺そうとするのは、さすがにだめだ。ああ、だめだとも。

 そうして介入して、勇者らしい人間を見てみれば、さらにびっくり、ハルカの妹だった。


 驚きつつも何となく、今までの流れを察した。国の偉い人が勇者として響子を召喚したのだろう。響子が行方不明となったことで、もしかすると望とか、日本の誰かがイリスに連絡しようとこちら側に来たのかもしれない。そうして連絡を受けて、ケルベロスがイリスに伝えようとここまで来ていた、と。そんな流れだと思う。


 ――なるほどね。よしイリス。殺せ。

 ――へ? ハルカ?

 ――あんな国いらない。ぶちこわせ。滅ぼしてしまえ。私の妹を巻き込むとかいい度胸だ。殲滅だ。慈悲はない。消し飛ばせ。吹き飛ばせ。跡形もなく。

 ――お、落ち着こう? ね? とりあえず響子は無事だったんだから。ね?

 ――関係ない。

 ――えっと……。その……。とりあえず、待って。ね?

 ――ちっ。


 かなり大きな舌打ちだ。ハルカが怖い。今までで一番怖い。内心で震え上がりながら、表情には出さないようにしてケルベロスや人間たちと話す。ケルベロスには軽くお仕置きをして、山に帰らせた。

 人間たちもほぼ全員転移させて、そして響子から話を聞いてみれば、またまたびっくり、ものすごい嘘を教えられていた。残すは王都のみって、私はどこで過ごしていたんだ。あれは実は幽霊だったのか。何言ってるんだろうこの人間たちは。

 ハルカの怒りに触発されて、イリスもなんだかいらだってきた。本当にあの国、消し飛ばした方がいいのではなかろうか。


 だがまあ一先ずは響子の保護だろう。ハルカもそれには賛成らしく、異論はなかった。なので偉そうな人間を転移させて、響子とその友達はイリスと一緒に別の場所へ転移だ。向かう先は、果て無き山。

 そうして転移した先は、真っ暗だった。微かに、本当に微かな光源があるのでイリスには問題ないのだが、人間の二人には何も見えないことだろう。

 魔法で光の玉を作り出して、それを空中に浮かせる。目映い光が周囲を照らす。これではっきりと見えるはずだ。


「なにここ……」


 響子が呆然とした様子でつぶやく。なに、と聞かれても返答に困るのだが。


「果て無き山の中。私の拠点。家みたいなものかな」

「果て無き山ですって!?」


 大声を上げたのは響子の友達だ。彼女を見ると、恥ずかしそうに俯いている。ちょっとかわいいかもしれない。


「えっと、セルディ、果て無き山ってもしかして……」

「ええ、そうよ。西側の、魔族が支配する大陸に繋がる唯一の島。その島にそびえる山のことよ。ダンジョンがあるらしいとは聞いたことがあるけど、こんな広い洞窟があるなんて……」

「ここが果て無き山なんだ……」


 セルディと呼ばれた響子の友達も、果て無き山に洞窟があることは知らなかったようだ。人間にはあまり伝わっていないのかもしれない。もしくは、ダンジョンと同一視されているか。

 どちらであってもイリスには問題ないことなので、別にどうでもいいのだが。


「とりあえずこっち」


 手招きして、二人を呼ぶ。二人は緊張の面持ちでついてくる。

 案内した先にあるのは、テーブルと椅子だ。普段イリスとフィアが使っているものだ。さらに少し離れた場所には黒い穴が見える。空中に浮かぶ黒い穴を指差して、響子へと言う。


「あの黒い穴、分かる?」

「えっと……。うん……」

「あそこを通れば日本に帰れるよ」

「え? ……ええ!?」


 分かりやすいほどに驚きを顔に出す響子。なんだかちょっと面白くなってきた。


「望って知ってるよね? 新橋望」

「うん」

「望がいる神社の側に繋がってるよ」

「ええ……」


 今度は何故かショックを受けたような顔だ。しかも少し落ち込んでいる。どうしたのかと聞いてみれば、ここに転移してくる前は望に会っていたらしい。しかも望がいる神社で、だ。まさかそんな近くに繋がっている場所があるとは思わなかった、とのことだ。


「ん? てことは、望の目の前で転移したの?」

「そうなるかな」


 ということは、やはり望がここに来たと考えて間違いないだろう。あの社の黒い穴を通ってここに来て、ケルベロスに伝えてくれたのかもしれない。ケルベロスは私に伝えようとしてくれていた、ということだろう。

 念話ぐらい教えておけばよかった、と今になって後悔するが、後の祭りだ。けれど今後同じことがないとは言えないので、ディアボロも一緒に教えてあげるとしよう。


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