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龍姫イリスの異界現代ぶらり旅  作者: 龍翠
第五話 異界:初めての王都と勇者召喚
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 王都に来て一週間が経った。その頃には、イリスとフィアという食べ歩きをする二人組に、街の人々は慣れてしまった。二人が顔を見せれば、それぞれの店の自慢の料理を渡してくれる。料理人たちは皆、口を揃えて言う。美味しそうに食べてくれるから作りがいがある、と。

 そんな二人だが、今日は珍しく食べることは控えて、仕事をする気になっていた。理由は単純に、少しは関係の構築をしろと怒られたためだ。誰に、とは言わないでおく。あえて言えば、イリスのお目付役にだ。


 そんなわけで、今はギルドにいる。たくさんの依頼が貼り出されている掲示板をのんびりと眺めているところだ。

 このギルドは依頼のランク別で掲示板が使い分けられている。それだけ依頼の数が多いということだろう。イリスが見ているのはBランクの掲示板だ。少女二人がその高ランクの掲示板を見ていることに、何も知らない冒険者たちは不思議そうにしていた。


「討伐系は面倒だねー」

「だねー」

「かといって採集も面倒だねー」

「だねー」

「もう仕事が面倒だねー」

「だね……いやお姉ちゃんそれはだめだよ?」


 フィアに怒られてしまった。姉としての威厳が問われる。周囲からは当然のように、やる気あるのかこいつ、という視線を向けられている。


「んー……。掃除とかにしよっか」

「うん」


 そんなわけでEランクの掲示板へ。ここに来れば討伐系や採集系は少なくなり、どこかの家の掃除だったりゴミ拾いだったりといったものになった。こちらの方がイリスとしては楽しい。いろんな人を見ることができる。討伐系なんて適当にやっても終わるのだから面白くない。探すのが大変なだけだ。


 ――でもさ、イリス。


 ハルカの声。イリスが首を傾げると、ハルカが続ける。


 ――討伐を受けて他の土地を見に行くのもいいんじゃない? 村ぐらいは点在してるだろうし、誰も知らない隠れた美味しいものがあるかも……。

「フィア、討伐受けるよ!」

「え? あ、うん」


 なるほどその発想はなかった。近辺の他の村に行くのはいい案だ。討伐依頼を受ける必要はないが、暇つぶしと向かう先を決める基準程度にはなるだろう。

 Bランクから適当な討伐依頼を探しだし、三枚ほど引きはがす。その紙をカウンターに持って行けば受付完了だ。受付の人はイリスの持ってきた依頼書を見て不安そうにしていたが、次にイリスのギルドカードを見て納得したようだった。見せたのはBランクの方だったが、妥当だと判断されたのだろう。


「討伐ってことは倒してきたらいいの?」

「いえ。倒すことに違いはありませんが、正確に言えば素材の回収です。依頼書に注釈として書かれていますよ」


 返された依頼書を改めて見てみると、なるほど確かにどこそこの部位の回収が必須と書かれている。角であったり、皮であったりと様々だ。つまり討伐というのは、魔獣の素材採集のことを言うらしい。


「時折村に入ってくるようになった狼の討伐などもありますが、これは緊急性が高いためにほとんどが王都の兵が担当します」

「ふうん……。ともかく、素材を持ってくればいいんだね」

「はい。よろしくお願いします」

「りょうかーい」


 どの依頼も、期日は一週間以上ある。のんびりとやっても良さそうだ。魔獣の生息場所を聞いてから、イリスはフィアを連れてギルドを後にした。




 王都を出る前に、まずはケイティに会いに行く。以前行った商会にまだ滞在していると聞いている。その店で働いている人にケイティを呼んでもらうと、すぐにケイティとクレイが駆け出てきた。


「イリス、どうしたん? もしかしてもう帰るんか?」


 ケイティには滞在を一ヶ月弱と伝えている。そのためかかなり驚いているようではある。イリスは首を振って、討伐依頼を受けたことを伝えた。


「のんびり観光しつつ行ってくるから、一週間、はぎりぎりだから五日ほど戻らないかも」

「了解や。気をつけてな」




 結論を言えば、それ以後はとても充実した日々だった。

 王都の街を食べ歩きして、気まぐれにギルドで依頼を受ける。そうして王都の外の村へと向かい、村の特産品をご馳走になってから討伐依頼をこなす。

 この討伐依頼だが、実際には魔獣を殺していない。平和的に、話し合いで素材を提供してもらっている。ほとんどの魔獣が怯えていたのはきっと気のせいだろう。

 そんな生活を半月ほど続けた頃。その依頼が舞い込んできた。




 ある日。いつものようにギルドに依頼を受けに行ったところ、何故かギルドマスターの部屋に呼び出された。不思議に思いながらも、案内されてその部屋へ。そこで待っていたのは、当たり前と言うべきか、ビルドーだった。


「呼び出してすまないな!」


 相変わらずうるさい人間だ。ため息をつきながら用件を聞くと、王宮から依頼が入っているとのことだった。


「依頼? 私に?」

「いや、Sランクに、だ! 勇者の護衛を集めているらしい!」

「護衛?」


 今のところイリスが知っている勇者の情報は、王家が魔王討伐のために異世界から召喚した、ということのみだ。余計なことするな、と思いはしたが、かといって実際に攻め込むことなどできないだろうと無視することにしていた。一年ぐらい待って落ち着いてきてから、元の世界に送り届けようと、そう思っていた。

 しかしイリスの予想に反して、今回の出兵にはかつてない兵力が割かれるらしい。魔族が支配する西側の大陸まで勇者を護衛し、一気に叩くつもりのようだ。


 何を考えているのだろう。敵は魔王だけでなく、その配下も当然いる。冒険者のシステムはあちらでも共通、共有らしく、あちらにもSランクの冒険者はいるそうだ。魔王までたどり着けるとは思えない。

 そもそもそれ以前に、果て無き山をどうやって越えるつもりなのか。何か、焦りを感じるような気がする。


 ――何かあったのかな。召喚もいきなりだったみたいだし。

 ――調べてみた方がいいかな……。

「どうだ! 引き受けてくれるか!」


 ビルドーが聞いてきて、イリスは首を振った。


「勇者には興味あるけど、行かない。ごめんね」

「まあ、仕方ないな! 気にするな!」


 豪快に笑うビルドー。どうやらもともと、断られると思っていたらしい。声をかけないわけにはいかないから、声だけかけておいた、程度なのだろう。


「ところで、ビルドーはその事情には明るいの?」

「ん? 何がだ?」

「なんだか今回の出兵、焦りみたいなのがあるみたいだけど、何かあったの?」


 そう聞いた瞬間、ビルドーが顔をしかめた。どうやら本当に何かあるらしい。教えて、と促すと、ビルドーはここだけの話だが、と声を小さくして言った。なんだ、小さい声を出せるんじゃないか。


「王子が呪いにかかっている。昔、先祖が受けた呪いらしい」

 ――ん?


 ハルカと一緒に首を傾げる。どこかで聞いた話だ。


「呪いを解く方法は一応分かっている。この呪いを知っている魔王の一族に解呪させる方法だ」

「なるほど。それで、急いで、かつ本気で出兵するんだね」

「そうなる。Sランクに依頼して、どんな呪いにでもきくらしい特効薬を探させてはいたんだがな」

 ――ねえ、イリス。これって……。


 さすがのイリスも察しがつく。その依頼されたSランクはおそらく、


「シュウのこと?」

「なんだ、知っていたのか。その通りだ」


 やはりシュウのことらしい。友人のために、と聞いたが、どうやら依頼だったらしい。


「シュウは王子に直接面識があるからな。二つ返事で依頼を引き受けていた」

「あ……。そうなんだ……」


 依頼もあるが、友人というのも嘘ではないようだ。むしろシュウ本人にとっては友人だからという理由の方が大きいのかもしれない。

 何とも、一つの呪いが大きな面倒事になっているようだ。


壁|w・)進まない。もうすぐ邂逅のはずなんだけど……。

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